第3話 卷第二 八佾第三

一 師匠が季孫にキレはった。「あいつ自分ん家の庭にダンサー呼んで、畏れ多くも天子の舞いを躍らせてるで。ワシ、もうどうにも堪忍ならんわ。」


二 季孫、孟孫、叔孫の御三家が、宗廟で夜通しで擁のお祀りの歌をうたった。師匠は言わはった「あの歌はな『優れた諸侯の働きで天子のご機嫌も麗しく。』ゆう意味や、何であいつら風情が歌えるねん。」


三 師匠は言わはった「人として、仁が無かったら礼儀作法なんて形だけ。人として、仁が無かったらノーミュージックやで。」

四 林放が礼の根本を尋ねた。師匠は答えはった「また、どエラい質問やな。礼でもお祀りやら結婚式やらお目出度いのは安上がりにした方がエエ。葬式は体裁ぶらんでも、亡くなった方を偲ぶ心さえ有ったらエエ。」


五 師匠は言わはった「例え中小零細企業でもちゃんとした会社やったら、もし社長がおらんかったとしてもやで、ブラック企業にお偉い社長だけおるよりよっぽどマシやな。」


六 季孫が泰山で身分にそぐわん旅のお祀りをした。師匠は季孫に仕えてる冉有に言わはった「お前、どないしても止められへんかったんか?」冉有は「どないしても止めれまへんでした。」て答えた。師匠は言わはった「何やねん、泰山のことを礼の根本を問うた林放にも及ばへん思てるんかいな。」

七 師匠は言わはった「君子は争いごとはせえへん。まぁ、したとしても弓比べくらいのもんや。それもお互い射る場所を譲り合うて、勝った方が一杯驕る。そういうのが君子の争いや。」


八 子夏が「『笑えばエクボが可愛いらしいリップに、涼しげなアイラインもバッチリ、美白にメイク決めたで。』てどう言う意味ですか?」て尋ねた。師匠は答えはった「メイクも仕上げが大事やゆうことや。」「ほな、礼も仕上げ、ゆうことですか?」「へぇ、お前このワシから一本取るとはな、もう一緒に詩も言えるで。」


九 師匠は言わはった「夏の礼についてはワシも一家言有るけど、杞に尽いては根拠が乏しい。殷の礼については明るいけど、宋についてはやっぱり根拠が乏しい。文献が足りへんねん。もし十分な資料さえ有ったら、一冊物してみせるねんけどな。」


十 師匠は言わはった「大切な禘のお祀りも、クライマックスの香り酒を注ぐ灌の儀式が終わってから行ったんでは、何か冷めるわ。」

十一 ある人が師匠に禘のお祀りの意味を尋ねた。師匠は答えはった「知りまへんな。その意味が分かるくらいなら、世の中のこと全部、この掌の上で転がせますやろな。」て言うて自分の掌を指差さはった。


十二 師匠は言わはった「ご先祖さんをお祀りする時は、そこにご先祖さんがいてはる様に、神さん仏さんをお祀りする時は、そこにおられる様にせなアカン。ワシ、お祀りせえへんかったら、何かご先祖さんも神さん仏さんもいてはれへん様に思てまうわ。」

十三 王孫賈が「『その家の神さんより、その家の台所の神さん(つまり食い扶持を与える権限を持つ自分のこと)に愛想良うする方がエエで。』言うのはどうゆうことやろな?」て師匠に当てつけを言うた。師匠は答えはった「そんなことは絶対におまへんな。もしそんな間違いをしたら、神さんにお祈りする場所が無うなってしまいますわ。」


十四 師匠は言わはった「周は夏と殷の二代の王朝を土台にして、いかにも華やかでアカデミックな国やった。ワシはやっぱり周が一番好きやな。」

十五 師匠が新しい職場に行った時、仕事のマナーについて、こと有る毎にみんなに尋ねて回った。ある人が「誰やねん、あいつがこの業界に詳しい言うた奴。あいつ尋ねてばっかりおるで。」て言うた。これを聞いた師匠は言わはった「不確かなことは必ず尋ねて確認する。それがこの業界のマナーや。」


十六 師匠は言わはった「弓は的に当てるのだけが目的やない、それぞれのレベルに応じてするもんやさかいな。それが古くからの慣わしや。」


十七 小貢が「経費削減の為に、形だけの国朔の礼の羊の生贄を止めよう。」て言い出した。師匠は言わはった「小貢や、お前は羊くらいが勿体無いんか?ワシはその羊を惜しんで、国朔の礼が跡形も無くなってしまう方がよっぽど忍びないわ。」


十八 師匠は言わはった「君主にお仕えするのに礼を尽くしてたら、みんな嫉妬でおべんちゃらや言いよる。」


十九 定公が師匠に「人を使うこと、人に仕えること、ゆうのはどうゆうことですやろな?」て尋ねた。師匠は答えはった「例え人を使う立場でも礼儀正しく、人に仕えるには忠実有るのみですわ。」


二十 師匠は言わはった「関雎の音楽はエエな。楽しいうえ清らかになるし、センチメンタルになってもハートブレイクにはならへん。」

二十一 哀公がご神木の意味を宰我に尋ねた。宰我は「夏の国は松の木を、殷の国は柏を、周の国は栗の木を使って吊るし首にしました。国民をビビらせる為です。」て答えた。これを聞いた師匠は「成ったことは言うてもしゃあない、したことは取り返しがつかん、済んだことは咎めへんけどな。」て言いながら「宰我のアホがとんだ見当違い言いよってからに。」てキレてはった。

二十二 師匠が「管仲は器が小さいなぁ。」て言わはった。ある人が「管仲は倹約家やなかったんですか?」て尋ねた。師匠は答えはった「管仲は家を三軒も持ってたし、役職毎に一々違う人を雇うとった、倹約家とは言えまへんな。」「ほな、礼を良う心得えとったんと違いますのん?」「君主が自宅の門に目隠しの木を植えてはるのを真似して、自分の家も同じようにしました。君主が他国の君主と親睦を深める宴の席で、杯を戻す台を設けてはるのを真似して、自分も同じようにしました。とてもやないけど礼を心得ていたとは言えまへんな。」


二十三 師匠が魯の楽師長に言うた「音楽ゆうのは誰にでも親しみやすいもんです。調べは打楽器で始まり、それぞれの楽器がそこへ調和して行き、表現が大きくなってクライマックスを迎えると、やがて静寂へと終わります。」


二十四 儀の国境いで入国審査官が「自分で君子や言う人はようさん来はったけどな、ホンマもんはまだお目に掛ったことが無いわ。」言うて師匠に面会を求めた。で、実際会わせたら、ガラッと態度変えて「君たち迷い道くらいで何をクヨクヨしてるんだ!世の中に道が失われて久しいけどな、きっと今にお天父さんが、お師匠さんを世の木鐸にしてくれはるで!」てぬかした。


二十五 師匠は「韶の音楽は限りなく美しくてどこまでも善良や。武の音楽は限りなく美しいけど善良とは言い切れん所が有るな。」て批評してはった。


二十六 師匠は言わはった「ステータスだけ高うても心が狭く、礼も形だけで心がこもってない、葬式でも涙一つ見せん、そんな奴はいくらワシでも見るのもイヤや。」

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