第9話 卷第五 子罕第九
一 師匠は金儲けと運命と仁については滅多に話されへんかった。
二 達巷党の人らが言うた「偉いもんや孔子さんは、博学で多芸やけど何かで名を売ろうちゅう言う気がサラサラ無い。」師匠はこれを聞いて弟子たちに言わはった「ワシがドライバーできるか?スナイパーになれるか?まぁ、ドライバーならできるかもな。」(鄙事に多能也)
三 師匠は言わはった「本来麻の織り込み冠を被るのが礼や、この頃、絹糸で簡易に冠を作ってるのはコスト削減の為や、ワシはみんなに賛成や。本来お堂の下に降りてお辞儀するのが礼や、この頃、横着して降りんとお辞儀をするのは不遜や、みんなと違うてもワシはちゃんと降りてお辞儀する。」
四 師匠は自分勝手やなくて、無理強いをせず、執着せんし、我を張らん。
五 師匠が匡の国で危難に遭われた時言わはった「文王はもうお亡くなりになったけど、文王の道は我と我が身に備わっとる。天がホンマに文王の道を滅ぼすつもりなら、ワシにそれが伝わってる筈無いやろ。実際、天は未だに文王の道を滅ぼしてないで。匡の国の連中がなんぼのもんやねん。」
六 太宰が小貢に尋ねた「一体全体、師匠は聖者か?何とまぁ多芸多能な。」小貢は答えて「元々、天が遣わした聖人でっさかい、何にでも優れてはるんです。」師匠はこれを聞いて言わはった「太宰はワシのことを良う分かっとるな。ワシは若い頃貧乏やったさかい、生活の為に色んな仕事した。ほんでつまらんことがようさんでけるようになったんや。君子は多芸か?違う、君子ゆうのは一芸にのみ秀でてるもんやで。」
七 牢が言うた「師匠に『お前はなまじ芸が有るさかい、何処も使うてくれへんのや。』て言われてもうたわ。」(君子他ならんや)(此処を以て為さざる也)
八 師匠は言わはった「ワシは物知りか?そうや無いで。しょうもない奴でも真面目に教えを乞いに来たら、ワシはその問いに、その隅々までを叩くようにして答えてやるだけや。」
九 師匠は言わはった「いつまで待っても鳳凰は飛んで来えへんし、天下を指示す図版も黄河から飛び出して来えへん。ワシもう嫌や。」
十 師匠は喪服を着た人と、目の不自由な人と、朝廷の正装を着た人を見かけたら、どれだけ若い人でも必ず立ち上がって、傍を通り過ぎる時はきっと小走りにならはった。
十一 顔淵が嗚呼、と溜息をついて言った「見上げれば益々高くに在って、切ろうとすれば益々硬い。前に居ると思えば、突然背後に居られる。師匠は順序良う善く人を導かはる。学問で僕を広げて、礼で僕を仕上げて下さるけど、もうアカン思うても止められへんから、僕はとっくに才能を使い果たしてしもうた。師匠はまるで天に足場でも有って、そこに真っ直ぐ立っておられるかの様や。どれだけそこに追い付きたいと願うてもその術が無いのや。」
十二 師匠の病状が思わしうなかった。子路が万一の為、体裁を整えようとして門下生を家来に見立てた。病が少し良うなった時、師匠は言わはった「子路は何時まで嘘ついとんねん、元々家来なんておらんのに。このワシが誰を騙すっちゅうねん?天を騙すんか?且つ、ワシはその嘘の家来に看取られて死ぬくらいやったら、むしろホンマの弟子だけに囲まれて死ぬ。且つもし立派な葬式を挙げてもらえんかったとしてもやで、まさかこのワシが道端で野垂れ死にすることも無いやろうが。」(喪は其の易めんよりは寧ろいた戚め)
十三 小貢が尋ねた「ここに美しい宝石が有ります。豪華な箱に入れて仕舞い込みますか?それとも、エエ買い手を見つけて高う売り付けますか?」師匠は答えはった、そんなもん売ってまえ売ってまえ。ワシはずっとエエ買い手が付くのを待っているのや。」
十四 師匠が、中央のしがらみや人間関係が嫌んなって、いっそ田舎暮らししたいて言い出した。ある人が「田舎暮らしはダサないですか?」て尋ねた。師匠は言わはった「君子は何処で暮らしてても、絶対ダサないわ。」
十五 師匠は言わはった「ワシが衛の国から魯に帰ってから、音楽は正しく、雅楽も歌もスッキリ収まったわ。」
十六 師匠は言わはった「外では上司や目上の人に良くお仕えして、家では父母兄姉に良くお仕えする。葬式の手配なんかも進んでするし、酒の上での出鱈目もせん。そんなことくらい、ワシにとっては何でも無いで。」
十七 師匠が川のほとりで呟かはった「人が生まれては死んで逝くのは、丁度こんな感じやな、その流れは一日中止まるちゅうことを知らん。」(川上之嘆)
十八 師匠は言わはった「ワシは未だに、せめてセクシー女優くらいにでも徳が好きや。言う奴を見たことがないわ。」
十九 師匠は言わはった「例えば山を造る様なもんや。後一盛りって言う所で止めてしもたら、自分で未完成にしたのや。例えば地面を真っ平らにする様なもんや、ほんの最初の一掻きをしただけでもそれはワシの進んだ道や。」
二十 師匠は言わはった「言われたことを怠らんと務められるのは、まぁ顔淵やろうな。」
二十一 師匠が亡くなった顔淵を偲んで言わはった「惜しいなぁ、ワシはあいつが何時も精進してるのは見てたけど、サボってる所はとうとういっぺんも見んかったわ。」
二十二 師匠は言わはった「苗から稲に育たんもんもおるなぁ、育っても、実って頭を垂れずに終わるもんもおるなぁ。」
二十三 師匠は言わはった「若者は恐ろしいで、将来どんな奴に化けるか想像もでけん。せやけど四十にも五十にもなって、鳴かず飛ばずゆうのではこれまた恐るるに足らんな。」
二十四 師匠は言わはった「正しい言葉には従わん訳にはいかん。せやけど、それから改めるのが肝心や。お世辞でも褒められたら悪い気はせん、せやけど何で褒められたか良う考えなアカン。何も考えんと喜ぶだけで、唯従うだけで改めん様なもんは、ワシにもどない仕様も無いわ。」
二十五 師匠は言わはった「ポリシーに反して迄、自分の為にならん奴とは付き合うたらアカン。もし間違うてたら縁を切るのに遠慮は要らん。」(重出)
二十六 師匠は言わはった「大軍の将でも、その気になったらその首を取ることはでける。取るに足りん男でも、ホンマに志が有ればそれを奪うことはでけん。」
二十七 師匠は言わはった「例えボロキレ纏うてても、仕立てのエエスーツ着た奴と並び立って、一つも恥やと思わへんのは、まぁ子路やろな。」
二十八 子路は「誰にも害を与えんと、何にも求めへんかったらな、そもそもトラブルなんか有るかいな。」ゆうのが生涯の口癖やった。師匠は言わはった「そんなポリシーはな、お話にならんわ。」(狂者は進みて取り)
二十九 師匠は言わはった「寒さが厳しうなって初めて、柏や松は枯れる時期が遅いのが良う分かるで。」(危難の際に人の真価は分かる)
三十 師匠は言わはった「知恵が働くもんは迷いが無いし、仁の人は悩みの種が無いし、勇敢なもんは恐れを知らん。」
三十一 師匠は言わはった「共に勉学に励んだ間柄でも、同じ道に進むことはでけん。同じ道に進んだとしても、同じ立場に就くことはでけん。同じ立場に就いたしても、意見まで一致する訳にはいかんな。」
三十二 「庭の桜の花びらがひらひらと舞い落ちる。それを見ていると、おまえのことを想わずにはおれん。せやけど、おまえの家までの道のりが遠すぎるのや。」ゆう詩を聞いて師匠は言わはった「言う程のことは無いな。ホンマに恋焦がれてたら、遠距離恋愛がナンボのもんやねん。」(此処に仁至る)
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