第5話 卷第三 公冶長第五

一 師匠は公冶長のことを「結婚させたるわ。あいつは今罪に問われとるけど、ホンマは無実やからな。」て言うて、自分の娘さんと結婚させはった。


二 師匠は南久适のことを「国に道理が有ったら必ず役に立つ奴や。もし道理が無かったとしても、刑務所送りになることも無いやろ。」て言うて、姪御さんと結婚させはった。


三 師匠は子賤のことを「中々の君子やであいつ。何ちゅうても櫓の国に君子の先人達がおられへんかったら、ああいう人材も出てこんかったやろな。」

四 小貢が「僕はどんなもんですか?」て師匠に尋ねた。師匠は答えはった「お前は器やな。」「何の器ですか?」「お供えもんに使う上等なやつや。」


五 ある人が「仲弓は仁やけど、口下手な所が惜しいでんな。」て言うた。師匠は言わはった「口下手の何処がいけまへんか?人さんと口先三寸で付き合うてたら、そら嫌われまっせ。仲弓が仁かどうかは知りまへんよ、でも口下手の何処がいけまへんか?」


六 師匠が漆雕開の仕事を世話しはった。漆雕開は「僕は勉強不足で未熟者ですから、まだお仕事をする自信が無いです。」て辞退した。師匠はその学問好きで謙虚な姿勢に感心してエラい喜ばはった。(三年学びて穀に至らざるは得易すからざるのみ。)


七 師匠は言わはった「世の中に道理が無い。ワシ、もう嫌になってきた。いっそ筏で海に漕ぎ出そうかな?ワシに付いて来るのは、まぁ子路くらいか?」それを聞いた子路はエラい喜んだ。師匠は「おお、子路はワシより勇ましいな。せやけど、筏造る材木はどっから運んでくるんや?」言うてからこうた。


八 猛武伯が「子路は仁ですか?」て師匠に尋ねた。師匠は答えはった「そんなことし知りまへんな。」しつこく尋ねた。師匠は答えはった「子路はどんな大国でもその軍事を治められるけどな、仁かどうかは知りまへん。」「冉有はどうです?」「あいつはどんな省や自治体、大企業でもその長を務められるけど、仁かどうかは知りまへん。」「公西赤は?」「あいつは正装させて、公の場に立たせたら、大事なお客さんのおもてなしを任せられるけど、仁かどうかは知りまへん。」


九 師匠が子貢に「お前、自分の方が顔淵より賢いて思てるか?」て尋ねはった。小貢は慌てて答えた「そんなとんでもないです、顔淵の方がずっと賢いに決まってますわ。僕は一を聞いたらせいぜい二が分かる(往を聞きて来を知る)くらいのもんですけど、顔淵は一を聞いたら十くらいのことが分かります。」師匠は言わはった「せやな。ワシもお前も顔淵にだけは負けるで。」


十 宰予が授業中居眠りしよった。師匠は言わはった「腐った木に彫刻はでけん。粘土の壁に左官はでけん。宰予みたいな奴は言うても無駄や。ワシも昔は人の言葉を信じて損した。今は言葉を聞いてから、その行いを良う見る様になった。宰予みたいな奴のお蔭で一つ賢うなったわ。」

十一 師匠は言わはった「ワシは未だにホンマもんの豪の者を見たことが無いわ。」ある人が「申棖はどないですか?」て尋ねた。師匠は答えはった「あいつにはまだ欲があるさかい、ホンマもんとは言えんな。」


十二 小貢が「僕、人さんが僕にしたないて思うことは、僕も人さんにせえへんよう心掛けたい思いますわ。」て言うた。師匠は言わはった「小貢や、お前如きが出来る業や無いわ。」(己の欲せざる所、人に施す事勿れ。)


十三 小貢が言うた「師匠の文章は読みやすく分かりやすい。せやけど、師匠が人間の本性や、世の森羅万象について話さはることは、難し過ぎて訳が分からん。」


十四 子路は何か教えてもろて、まだそれが上手いことでけへん内は、他のことを教えてもらうのを無茶苦茶嫌がった。


十五 小貢が「孔文子さんの名前には、何で“文”の一字が入ってるんですか?」て尋ねた。師匠は答えはった「仕事が早うて勉強好きで、知らんことは目下のもんにでも恥ずかしがらんと教えてもらう。そういう人柄やこそ“文”の一字が相応しいんや。」


十六 師匠は子産のことを「君子として四つの道を良う心得てはった。自分の行いは恭しく、人さんに敬意を持ってお仕えして、人民を養うには恵み深く、道義が無いことは国民にさせんかった。」言うて尊敬してはった。(恵人なり)


十七 師匠は言わはった「晏平仲は人付き合いが上手やったし、古馴染みになっても畏敬の念を忘れへんかったで。」


十八 師匠は言わはった「臧文仲は占いの道具を仕舞い込んで、箪笥の肥やしにしてしもてるし、家の天井の梁に、天子の真似して壮美な装飾をしとる。とてもや無いけど知とは言えんな。」

十九 子張が「元宰相の子文は三回宰相になったけど、別に嬉しそうやなかったし、三回ともクビになったけど特に気に病む様子も有りまへんでした。その上、毎回後任への政務の引き継ぎも忘れまへんでした。どないですか?」て尋ねた。師匠は答えはった「忠実やな。」「仁やて言えますか?」「必ずしも知やとは言い切れん、何で仁やて言い切れるねんな。」また尋ねた「崔子が斉の君主を殺し成り替わったので、陳文子は莫大な財産を捨てて斉を去りました。移り住んだ先でも『ここもウチの崔子と一緒や。』や言うて、また違う国に行きました。そこでも同じこと言うてまた去りました。どないですか?」「清廉やな。」「仁やて言えますか?」「必ずしも知やとは言い切れん、何で仁やて言い切れるねんな。」


二十 季文子は何でも三回、良う考えてから実行した。師匠はそれを聞いて言わはった「そんなもん、二回考えたら十分や。」


二十一 師匠は言わはった「甯武子は国に道理が有ったら、持ち前のインテリジェンスを発揮したけど、せやなかったらアホの振りしてた。インテリ振るのは難しいことやないけど、アホの振りするのは中々できるもんやないで。」


二十二 師匠が陳の国にいてはった時言わはった「早よ帰ろ、早よ帰ろ。うちの若い連中は、大志を抱いてせっかく美しい文章を織り成してるのに、肝心の編集が下手や。帰ってワシが直々に教せたるわ。」


二十三 師匠は言わはった「伯夷と叔斉は、どんな悪さでも何時までも憎まんかったさかい、怨まれることも無かったで。」

二十四 師匠は言わはった「誰やねん?微生高は率直や、なんて見当違い言う奴。あいつはお酢を分けてくれ。て頼まれた時、わざわざ隣の人に酢借りて渡す様なセコイ奴やで。」


二十五 師匠は言わはった「口先上手でルックスだけで、余りにも腰が低いのは左丘明は恥とした、ワシも又恥とする。ホンマはいけ好かんて思うてるのに、そいつと友達付き合いするのは左丘明は恥とした、ワシも又恥とする。」

二十六 顔淵と子路がお側にいた時、師匠は言わはった「お前らそれぞれ、自分の志を言うてみいや。」子路は「車や服やなんかを友達と使い回して、例えオシャカにされても何とも思わんくらい心が広うなりたいです。」て言うた。顔淵は「エエ行いをひけらかすこと無く、人さんに迷惑をかけとう無いです。」て言うた。子路が「でけたら師匠の志を聞かせてもらえまっか?」て尋ねた。師匠は答えはった「目上の方には安心してもろうて、友達には信頼されて、若いもんには懐かれたいもんやな。」


二十七 師匠は言わはった「もうアカンな。ワシは何か間違いが有った時、その間違いを良う観て、原因を自分に探す奴を未だに見たことが無いわ。」


二十八 師匠は言わはった「どんな所にもワシ程度の忠信者はおるな。せやけどワシ程の学問好きはまずおらんで。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る