第12話 犬と傭兵

不満そうな岸本さん、微笑みを絶やさない佐藤さん、2世を気に入った小倉ちゃんに行ってらっしゃいと言われ、私たちは配給所へ向かうことに。


「任務の遂行開始を宣言する。これより俺は任務達成までお前の傭兵だ。馬車馬の如く、道具のように使い潰すのを推奨」


「そんなことしないよ!」


始まって早々にこんな事をいうのもなんだけど、鈴木くんは危うい。高橋くんは言わずもがな心配だし関根くんも危なっかしいところがある事が分かったけど、鈴木くんはその2人とは違った危険性がある。


「配給所が近い、ここより中立地帯。治安は良行。敵性反応、関根伊織の反応双方ともはないが、依然として警戒を続ける」


前には鈴木くん、背後には2世がいる。守られている立場から見ると完璧なボディーガード人だと思う。でもこのままだとちょっと気まずい、何か話をしたいけれど……


「えっと……鈴木くんは、歳はいくつ?」


「……不明。誕生年、誕生月、誕生日、全てにおいて情報無し。巡った年の数から推測。誤差はあるが、恐らく14歳」


思ったよりすぐそして普通に教えてくれた。回答こそは普通ではなかったけれど、変わった話し方以外にコミュニケーションには苦労しなさそうだね。とりあえず話を広げよう。


「私も中2だから後ちょっとで14歳だよ、同じぐらいだったんだね」


「一部推定。歳に誤差があろうと身長に関してもほぼ変わらない、あってもおよそ3㎝。同じと言う言葉に否定はしない」


「でも鈴木くんは男の子だからもっと大きくなるよ。学校で習ったんだ、男の子は私たちぐらいの歳でおっきくなるんだよ!」


「疑問、関根伊織よりも大きくなるか?」


「それはわからないけど、関根くんぐらいの歳になると、今よりきっと大きくなってるよ」


「感謝……それは非常に幸福だ」


歳と身長に関してなんとかと話題を広げる。あとは何がいいかな、血液型かな、魔力に関する話しがいいかな?好きな食べ物もありだけど……


「疑問。犬の歳は?」


「2世の歳?」


「推定」


まさかそっちから話題を振ってくれるとは。背後からずっとついて来ていた当の本人はやっと出番が来たかと言わんばかりに前はお踊り出た。そんな2世の頭を優しく撫でた。


「2世は私が6歳の時にお母様達が買ってくれたの。だから……7歳!」


「感謝。想像より年下である事が判明。……疑問、初代は何処にいる?」


鈴木くんは私の真似をするように、慣れてない事が丸わかりの手つきで2世の頭をそっと撫でている。犬好きなのかな?


因みに2世と言うだけあって初代というか、1世はいる。絵本の中に。


「……理解不能。妃芽花の手元にいない、現実に存在しない、何故?」


「ひょっとして鈴木くん、フランダースの犬知らないの?」


「推定。フランダースの犬、記憶に覚えは無し」


そうなんだ……読む機会がなかったのか、はたまた読めなかったのかは苦しいから考えたくない。この際だから知ってもらおうか。フランダースの犬の良さを。


フランダースの犬は、絵を描くのが得意なネロという男の子とパトラッシュという老犬のお話。後ろ指刺されながらもおじいさんと暮らしていたけど、そのお爺さんが死んでしまう。路頭に迷い食べ物も無くなり、絵画コンクールも落選。クリスマスイブ雪の降り頻る夜、教会で憧れていたルーベンスを絵を奇跡的に見て、パトラッシュと共に天国へ旅立ったというお話だ。


「このお話を5歳の時に読んだ私が号泣しちゃって。そのままだと手がつけられないかったそうで……6歳の誕生日に両親が2世を買ってくれたの」


「疑問、なぜ少年ネロのパトラッシュを一代目と定めた?」


「それは、、あの時の私の犬の全部はパラトラッシュだったから。犬といえばパトラッシュ、でももうネロと天国で幸せになったから、私は2世ってつけたの。2世には天国じゃなくて生きてるうちに幸せになって欲しいな。まあ2世は芝犬だから犬種が違うけど」


「……感謝。幸せ者なマサムネ。主人を守る事を誇りに思え。俺も同じく主人を守ると言う命令に従い行動する」


マサムネじゃないけどとか言う野暮な話はしない。2世はマサムネというのが誰なのかわかっていないようだけど、ヨシヨシされて気分がいいようだ。頼れる愛犬と何処までも純粋な傭兵と共に、配給所へ乗り込んだ。

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