第2話 一人で

八王子市、同じ東京にありながらその姿を全然知らなかった。もっと言うと知る術がなかった。女性のバスガイドさんの説明を友達と談笑しつつ聞いていた。そしていよいよ初めてその土地に踏み出したのだが……


「思ったより普通?」


「うん……そうだね」


言うほど物珍しいものはなかった。いや確かに、中央にそびえるタワーや少し歩いた先にある公園なんかは、私たちが見たことのないものだった。しかし、想像していたよりも驚きがないと言えばそうであった。


恐らく会社員であろう女性が道を歩き、子供たちが公園で遊ぶ。タワーにはエレベーターが登っているのが見える、多分普通の魔式エレベーターだろう。千代田区はお金持ちが多いからそっちの方が豪華と言うことと、八王子市の方が人が少ない様な気がするって言うこと以外何も変わらない。要するに建物以外は千代田区と変わらないような気がする。


最初はみんな楽しみにしてたのにとガッカリしていた。でもよく考えたら少し場所が変わったくらいで結局は同じ都内なんだからあんまり変わらないよね、と思い直したようで、あまり気にしなくなった。現地女性のガイドさんが説明してくれるのを聞きながら街を見学して、昼食を取り、時は午後に移る。しかし、私は自分の悪い癖をこんな所で発動させてしまった。


「ま、迷子になっちゃった……」


そう、迷子だ。ただ友達と話しながら街を歩いていただけなのに、ちょっとボーッとすると直ぐこれだ。すぐに会えるとフラフラしていたら気が付いたら路地裏に迷い込んでいた、本当に心の底からどうして。


昔からいかんせん方向感覚が乏しい。地図の逆さ読みは当たり前、そもそも地図を見てもどっちが北でどっちが南なのかすらも分からない、やっと地図通りだと思ってもそれもどこかで読み間違えてる。それだけじゃない。どっちに進んでも目的地から遠ざかるし、子供の頃方向音痴を治すためとちょと大きめの駅に1人で入り2時間出口を求めて彷徨った経験がある。


魔式のスマートフォンの地図機能は現在地&音声機能だけでは無く、間違った道に行けば注意をしてくれる機能もある。それでも迷った時は人に聞けばいい、特に交番の警察さんは優しく教えてくれる。それだけあるんだからもうリスクの大きすぎる治す努力はやめにして、スマホと人の良心に頼って生きていこうと小学校六年生の時に決意した。


「3時まで自由時間ですよ。5分前行動です、2時55分までにはバスにいるように」


先生の言葉を思い出す。体内の魔力炉管が指し示す時間は……2時15分とのことだ。これはまずいな、魔式スマホもないこの状況ではなす術がない。先生に黙って持っておけばっていやそれもある意味ダメだよね。魔力炉管は念じるだけで時間がわかる他にも心拍数や血圧が分かる機能もあるのだけれど……地図機能も追加してくれないかな。


「とにかく大通りに出ればいい……かな?」


少し長くなった前髪を弄りながら考えた。こんな路地裏に居るからか、人には全く出会えない。人通りのある道に出れば私の伝家の宝刀にして十八番芸、人に聞きまくって目的地に向かう名付けて「RPGの勇者戦法」が出来る。それが出来たらこっちのもんだ、とにかく行こう。どうせ遠回りになるんだ、あんまり考えずにゴリゴリ歩いてたら大丈夫だろうと言う希望的観測で道を突き進んだ。


私は更に迷子になってこの事を後悔することになるのだけれど……そんな物はすぐにかき消されることになる。この時の私は1つ、大きな疑問を見落としていたんだ。


男性の無許可での移住を完全に禁止しているのは千代田区だけだ。行ったことはないけど

他にもその周りの区である台東、中央、港、新宿、文京なんかも最近は男性禁止法案を審議中らしいけど、実際は普通に男性もいるらしい。八王子市なんて尚更だろう。


しかし私が見た限りでは、女性の数が圧倒的に多かった。それも千代田区みたいに本来居る男性の数だけ女性がいる感じではない。男性だけがすっぽり抜けた感じだ。恐らく人が少なく感じたのは私が人の多い場所に住んでいたから少なく感じたんじゃなくって、シンプルに女性だけ、人口の半分しかいなかったからだ。


私は知る事となる。人口のあと半分、男性がどこに居るのかを。2080年現代日本の真実を。

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