第10話 リーダーと副リーダー
小さなビルの2階、魔式エレベーターがとある理由で動かないという事で、階段を登って応接室まで案内してくれた小倉さんに紅茶を入れてもらう。
「食べる?バウムクーヘン、美味しいよ!」
「はい!甘いもの大好きです」
「お嬢、紅茶は角砂糖とミルクは入れますか?」
「角砂糖6個でミルクあり!」
「お、ウチのリーダー並みの甘党!」
「そっちのリーダーやべえな。こんなん飲むのお嬢だけかと思ってた」
「いくつになっても甘い物は大好きだよ!」
そういえば、救済組織のリーダーな関根くんはどこにいるんだろう。この前のお礼を言いたい。
「マジ?関根っちとも仲良いの、ありがとね!ウチらのリーダーなかなか人と話すの得意じゃないからさ!」
「で、その関根は?」
「今迷子!」
そっか迷子なのかって迷子なの。リーダーじゃなかったの?聞けば、迷子なのは関根くんの方じゃなくて「ぬいぐるみ」の方らしい。
「ぬいぐるみってあの、関根くんがずっと抱っこしてた猫のやつ?」
「そうそう、ウルタールって言うんだ。朝目が覚めたら居なくなってたらしいの。ウルタール達がいないと夜眠れないって一人で探しに行っちゃった」
成る程。大切そうに抱き抱えていたからさぞ大切なんだと思っていたけれどここまでとは。というよりウルタール達ってことは……
「小倉さん、ウルタール以外にもぬいぐるみがいるの?」
「うん。ウルタール以外は恥ずかしがり屋だって中々外には出さないけれど、他にもいっぱいぬいぐるみ居るよ。なんなら全員に名前が付いている」
やっぱりか。そんなにぬいぐるみに囲まれてる人だとは思わなかった。
「あと、さん付けじゃなくていいよ。ちゃんの方が可愛い!」
小倉さ、小倉ちゃんは救済組織でお留守番を頼まれているらしい。リーダーがぬいぐるみ無くして血眼になって下層部を探し回って、そのリーダーを探す人員が足りないらしい。他の救済組織のメンバーはというと、生活困難者の配給をしているとの事。
「良ければなんだけどさ、勇弥っち探すついでにリーダーも連れ戻してくんない?しかも副リーダー的なのもいなくってさその子もよかったら是非」
「いいですよ」
「即答ですかいお嬢」
「マジ!?親切!勇弥っち多分配給所か闇市にあるから。ちな副リーダーは背が小さくて、でも力と喧嘩は強くて、髪と服ボサボサだよ!」
「副リーダーについては淡白な説明だな!」
小倉ちゃんはすっかり喜んで、そこら辺を動き回りながらぴょこぴょことした動きをとる。その流れで三階の事務所の管理人に、今日の配給場所を聞きに向かった。
「救済組織のリーダーってのは随分と乙女趣味全開な人なんですね」
「話した感じそうでもなかったけどね。それにその趣味も私の友達にもこういう人いて、そんなに珍しくないと思うし」
「しっかしまあ全員に名前つけて一緒になるってのは珍しいもんですよ。小さい頃から持っている人形やらタオルやらを大人になっても大事にする人は珍しくないすけど、何匹も名前つけて囲まれて寝るのは変わってると思います」
小倉ちゃんが降りてくるまでそんな他愛無い話で時間を使うことにした。途中に飲む紅茶はうん、いい茶葉を使っていると思う。こういうのはお母様なら強いと思うんだけどな、私にはさっぱり。
さて、救済組織について話に花を咲かせていたところ、誰かが一階から入って来たようだ。コツコツと階段を登る音がする。そちらの方に向くと、ボロボロで質素な服を着た男の子が入って来た。小柄な体格に対してやけに筋肉質な腕には猫のぬいぐるみが握られている。
無色無機質な、何処にいても違和感があるほどに異端に見える彼を見て、岸本さんが耳打ちをして来た。
「あの人副リーダーじゃ無いっすか?」
確かに髪も服もボロボロで、身長も男の子なのに私と大して変わらない、しかも筋肉質。条件は見事に合致している。そんな風に怪しんでいる私たちに気が付いたのか、無表情無感情な彼はこちらにやって来た。
岸本さんは多少怖がりながらも彼に尋ねた、何者かと。千代田区に居たら間違いなく異常者扱いの浮浪者のような風貌の男の子が猫のぬいぐるみを首根っこから掴んでいたら確かに怖いのもわかる。あれ?あの猫のぬいぐるみって……」
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