第11話 いざ配給所を目指して
「失礼、俺は
やはり副リーダーかというのは岸本さん、私はそれよりも気になることがある。
「そのぬいぐるみ、ウルタールですか?」
「推定」
「そちらのリーダーさんが探しているらしいんだけど……」
「その疑問には1から説明を。薄汚れたウルタールを洗濯するのを関根伊織が拒否。やむ終えず夜中就寝時に取り出しコインランドリーへ急行した」
……副リーダーの鈴木くんは苦労しているようだ。
「洗濯乾燥ともに無事に終了したが、帰宅時負傷中の高橋勇弥を発見、のちにこれを救出。しかし時間の経過により寝覚めた関根伊織が気付き、探しに外へ出た。俺たちはすれ違った」
成る程。鈴木くんの機械のような喋りかたは少し難解に感じたけれど、要点を掴めば大丈夫。つまりウルタールの洗濯を嫌がった関根くんは鈴木くんが持ち去ったことに気づかず、探し回ってるってことだろう。
あれ、というよりさっき高橋勇弥って言ってなかった鈴木くん?私たち探してるんだけれど……自分でも前のめりだと分かるぐらい鈴木くんに近寄った。
「高橋くんに会ったの?」
「推定」
「いつ何処で、どうして怪我してたの?」
「おおよそ5時55分ごろ、場所はコインランドリー付近。寝袋の損失により彷徨っていたところを野良犬に攻撃されたと予想。治療並びに解毒の魔術を施した」
た、大変だ。高橋くん普通に大ピンチだったんだ。私がのうのうと車の中で2世と遊んでいる早朝一歩手前でそんなことをしていたのか。しかも犬に怪我をさせられるなんて……!
「そいつ今何処にいるか検討つくか?」
高橋くんのことを考えていると上手く唇が動かなくなった私に変わって岸本さんも前のめりに来た。
「推定。手に持つ物は何もなく、更に向かう位置、それらを考慮して検討。結論、配給所の確率が最も高い」
小倉ちゃんと同じ結論に辿り着いた、恐らく間違いはないんだろう。急いで配給所に行かなくちゃ。あと、リーダーさんは何処にいるのか分かったの?
「否定。関根伊織、下層部を縦横無尽に徘徊中と予想、足取りは依然として掴めず」
ぬいぐるみが無くてきっと遠くまで探し回っているんだろうな。でも鈴木くんが持ってるんだから絶対に見つからない。無くしものをした時、特にそれが宝物だった時の不安は計り知れない。少なくとも私は小さい頃だけど、大切なものをなくした時は気が狂いそうな気持ちで涙を流しながら探し回った。早いとこ捜してあげないと。
ふと階段の方からスタスタと降りる音が聞こえる。小倉ちゃんかなと思ったけど、話し声と共にもう一人降りてくるのが分かった。
「おまたー。アオアオと話してたら遅くなっちゃったってズッキー帰って来たんだ、しかもウルタールも一緒じゃん!」
「推定。ウルタールの返還と関根伊織の救出の為、これよりもう一度捜索を始める予定」
「なるなるー!」
「……」
小倉ちゃんより小柄な鈴木くん。やっぱり八王子市の男の人は栄養足りてないのかな。でも、二人の後ろにいる男の子はそうでもないみたい。私のことをじっと見ているその男の人は身長こそは小倉ちゃんよりちょっと高いぐらいだけど、身体は普通だ。確かに痩せ気味ではあるけど他の男の子に比べたら全然しっかりしている。
「失礼、ぼくは
ご丁寧に自己紹介までしてもらった。そういえば、私はまだ佐藤さんや鈴木くんだけじゃ無くて、小倉ちゃんにすらしていないことを思い出した。
「はい、私伊藤妃芽花です。鈴木くんに高橋くんは配給所にいるといわれたんですけど、配給所は何処にありますか?」
「配給場所は入り組んだ道の先にあるから、慣れてない人が行くのは大変だよ。道を教えるぐらいじゃ辿り着けない、道案内を設けないと」
佐藤さんは親切な人だな。この街には怖い人がたくさんいたイメージだけど、こういう人もいるんだと安心する。そして道案内は絶対に必要だ、岸本さんもいるとはいえ私がいる限り永遠に辿り着けない。
「道案内はそうだね。鈴木さんはどうかな? こう見えて傭兵としても使えるんだよ、この子は」
「推定。今後の方針を作り替える。関根伊織の捜索に伊藤妃芽花の護衛を追加」
「と言うわけだ。お互い人探しが目標、利害は一致するんだけど……」
「宜しくお願いします」
「お嬢必死すぎ」
「妃芽りんひょっとして方向音痴?」
食い気味で頭を下げた私に岸本さんはすっかり呆れている。すると佐藤さんは何か思い出したような顔をした。
「そういえば、其方のお付きの人はここで待ってるのがいいと思うよ」
「は?なんでだよ」
急な宣言に岸本さんは反発する。私も岸本さん無しではちょっと不安だ。でも佐藤くんは引かない。
「伊藤さんは女性な上に服や立ち振る舞いが綺麗すぎる。一眼見ただけでお嬢様だと全員が理解できるだろう。しかもお付きの人まで一緒だと、力の弱い人が集まる配給場所はさぞ混乱してしまうだろうね。鈴木くんならここらで顔と名前を覚えられてるから、妃芽花さんだけなら一緒にいても警戒されない」
「う……じゃあせめて俺が鈴木と行く」
「それは無理だ。仮に配給所で高橋勇弥に会えたとしても、君だけでは彼と話すことは不可能だろう?」
岸本さんはまた項垂れる。しかもビルの前に止めている車を魔術で隠すために手伝って欲しいと言われるといよいよ反論できない。
「……パト公と一緒なら考えてもいいぜ」
結局2世と一緒に行くことを条件に、岸本さんは降りたのだった。
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