第22話 佐藤さんと思惑と、時々巨乳
「し、死ぬ……」
救済組織のビルに着いた時ちょうど岸本さんの限界が訪れたようで、おんぶしたまま前倒し、関根くんの下敷きになる形で倒れ込んだ。対して鈴木くんは肋が折れてるとは思えないぐらいにピンピンしている。いったいこの二人の差はなんなんだろう。
「お嬢……すいませんが晩御飯はお弁当買ってきてください」
体力がなくなると言うよりも、気力が尽きたかんじだ。普段魔術なんて使わないのに慣れない身体強化魔術を何十分も使ったんだ、仕方がない。魔術だって身体能力、鍛えれば強くなるし使わなければ劣ってしまう。あとで小倉ちゃんに魔術ジムを教えてもらおう。
「みんなお疲れ〜大丈夫だった?」
噂をすればなんとやら、小倉ちゃんがペットボトルいっぱいに入った麦茶を持って一階まで降りてきた。紙コップに入れて岸本さんに渡すと、頑張って喉も渇いたのだろう、岸本さんはごくごくと休むことなく飲み干した。
「配給所が大変だと避難してきた人に聞いた時は心配したよ。でも渡邊さんも天使様も来てくれてたんだったら要らぬ心配だったね」
手ぶらそして何食わぬ顔でやって来た佐藤さんを見て、岸本さんが声を上げた。
「てっめぇ!お嬢と俺を嵌めやがったな!」
どう言うことだろう。いつも乱暴気味ながらとりあえず人には優しい岸本さんが大きな声を上げた。これはいったい絶対どう言うことなんだろう。
「まあまあ続きは2階で話そうね。ここまでうちのリーダーを運んでくれてありがとう、岸本くん」
ああわかった。この人岸本さんが苦手なタイプだ。手の内が読めなくて、その癖変なところで素直で、それでも得体の知れない人。すごいわかる、私もそういう感じの人怖い。例え変な子でも鈴木君ぐらいの素直さが一番友達にしやすい。
「じゃあリーダーを2階まで運ぼっか。岸本くんもうちょっと頑張ってね」
「またかよ!」
そう言いながらもちゃんとおんぶし直して階段を駆け上がる岸本さんを見て、なんと言うかその、損な性格だなと思った。そして多分確信犯な佐藤さんは私を見て一言。
「……随分と変わったヒトだね」
ゾクッとした。全てを見透かしたようなめで私の心を串刺しにして来た。しかも、まるで仕方がないみたいな諦めとはまた違う目で見られる。なんだか同じ人として扱われていないのではとすらも感じた。
「おい、お前らんとこのリーダーが目ぇ開けたぞ」
上から声がした。希望ちゃんと鈴木くんが2人揃って階段を駆け上がった。佐藤さんはいとも簡単に私から目を離し、2階は一人向かった。私はしばらく動けそうもない、佐藤さんと話すのがちょっと怖い。
「伊藤さん、歩けますか?ひょっとしてまだ治療が済んでいない箇所があるのでは……」
見慣れない女の人に心配された。多分寧々さんじゃ無い方のもう1人の人影の人……かな? 私よりも高い身長、肩につくくらいの髪の毛にキリッとした顔がカッコいい女の人。……どうしても超次元なサイズだろう胸の膨らみに目がいってしまうのは内緒だ。
「あの、なんとお呼びすれば?」
「はい、
さあ御手をとまるで白馬の王子のように振る舞う彼女をかっこいいと思いつつ、それでも強烈な存在感を発する2つの膨らみを見て見ぬふりする。私はおじさんなのかも知れない。
「大丈夫ですよ、渡邊さんは何度もお仕事をしていますが、とてもお優しい方です」
背後にいた寧々さんに私が渡邊さんを警戒していると勘違いされてしまったようだ。大丈夫ですよと一言いって、渡邊さんが差し出してくれた手を握った。
マホウノセカイ 荒瀬竜巻 @momogon_939
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