私の才能

第21話  柳眉倒豎と満身創痍

「貴女は素晴らしい人ね」


「自慢の妹だわ」


「きっとすごい魔術師になれるよ」


私は昔から、あの人が苦手だった。まるで妹を世界の宝物のように扱って、それこそ花よ蝶よと愛でてくる。まるで自分の事を疎かにして、いつだって自分の才能を他人のために使い続けた。


そのくせ自分が傷つくことに心の底では耐えきれない人で、誰よりも愛を欲している。だからこそあの人は誰よりも人々を愛し尽くしている。一人一人をに入れて、溺死されるかのような手口で。


私は……今も昔もあの人が嫌いだ。さっさと忘れて、目を覚そう。




私は目覚めた。まるで熱を出した子供のような夢を見てしまったような気がした。身体が揺れている、誰かにおぶられている感覚だ。体は痛くはない、あんなメチャクチャな魔術を使ったんだ、すっかり手の先が壊死しているものだと思っていた。肝心のその人は、見たことがある。そうだ、高橋勇弥だ。


「高橋くん、大丈夫?」


「あ!目が覚めたのですね。よかった、天使様が回復魔術を施して起きなかった時はどうしようかと思っていました!」


私の小さな小さな虫みたいな声はしっかりと聞こえていたみたいで、おんぶされている私にもわかるぐらいに元気になった。右横にはまるで私を護衛するかのように2世がいた。

左前には高橋くんの背中越しではっきりとは見えなかったけれど、希望ちゃんと鈴木くんだ。希望ちゃんが負傷した鈴木くんを支える形で隣り合って歩いている。


更に前にも人がいるけれど、駄目だ見れない。痩せているとはいえ高橋くんの背中は思ったよりも大きい。身体を起こす気力もない私は誰だろうと言う疑問を抱えつつ、前の背中にもたれかかることしかできなかった。


それにしてもよかった、高橋くんは無事だったんだ。あの時は自分と関根くんのことで頭がいっぱいだって……関根くんは何処に?結構キツイの食らわせちゃったから謝りたい。


「関根さんはほら、後ろにいますよ。天使様達と一緒に来た男の人におんぶされています。えっと……伊藤さんの家政夫さんでしたね」


「え?き、岸本さん?」


重い身体をなんとかとして振り返った。バランスが悪い私に気を遣ってくれているのか、スピードを落としてくれているのがわかる、ありがとう。


背後にいたのは岸本さん。同じかそれ以上の身長のある関根くんを持ち上げていた。魔術で身体強化しないと出来ないことだね……それでもあっちへ行ったりこっちへ行ったりとフラフラしている。隣で髪の長い女の人にサポートされていた。……あの人誰だろう。


しばらくして図体の大きい関根くんを持ち上げていて余裕のない岸本さんより、サポートしながらあたりを見回っていた彼女の方が早くにじっと見ていた私に気が付いた。


「初めまして妃芽花ちゃん。私は黒木寧々くろきねね。身体は大丈夫?何処も痛くない?」


寧々さんと名乗ったその人は、私よりも多分だけど10㎝以上は背の高いひとだった。サラサラで黒い髪はきちんと手入れされているのだろう、とても綺麗だった。私も同じぐらいの髪の長さだからわかる。ここまで長いと絡まったり先の痛んで色が茶色くなったりして薄くなる人もいる、私がそうだ。でもこの人はすごく綺麗だった。


「お、お嬢……無事だったんスね……」


次点で気が付いた岸本さんは、起こることもなく私に声をかけてくれた。でもかなり歩いたのだろう。おんぶされっぱなしの私より今はそっちの方が満身創痍に見える。


「私も手伝うよ、高橋くん降ろして」


「はい、お気をつけて」


「駄目です、治療魔術を施したとしても2、3日は安静にしておいてください!高橋くんもちゃんと見張っておいてね!」


寧々さんに突然凄まれた。美人を怒らせると怖いって昔岸本さんが言ってたから言う通りにしておいた方が身のためだ。老婆やさんにも美人が怒った時の四文字熟語を習ったことがある、もう忘れたから習ったとは言わないかもだけど。


私は結局何も出来ずに、多分今日一の重労働をやっている岸本さんに茶々入れしつつ見守っていた。

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