第20話 カオスブレイク
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とにかくありったけの魔術を同時掛けする。人差し指の先端にもうぐっちゃぐちゃに混ざった魔術の塊といってもいいそれが集まっていく。触手も尻込みしている、顔はもちろん表情もないのに慌てているのが目に見えてわかった。当然だ、基礎とはいえこんな使い方する人間見たことがないだろう。実際私も自分以外知らない。
特徴は兎に角施工が簡単なこと。炉管起動後短い詠唱を唱えれば幼稚園生でも使えるお手軽仕様。魔力消費も並で、使える魔術もトップレベルで多い、汎用性の高さなら右に出るものはいない。
そのかわり欠点として、それぞれの自己主張が激しいんだ。まるで水に溶けない油の様に、それぞれが他の魔術と組み合わさることを断固反対している。たとえ同じ系統の爆破と炎の魔術を使っても、お互いがその効果しか発揮せずに、交わらない。最悪両方が相殺する。つまりは汎用性に振り切って独創性を切り離したのがそれなのだ。
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「伊藤さん、どうなってるんですか!?」
でも私は違う。正確にいうと、私の使う原語魔術は普通じゃないんだ。昔からどういうわけか原語魔術を混ぜ合わせることができた。家族は勿論クラスメイトも魔術の先生も、お姉様だって真似出来ない小さい頃からの唯一無二の特技だった。どうやってやるのかと散々聞かれてきたけれど、普通にやったら出来るとしかいえなかった。
沢山の魔術が詰まったそれは、もう一つ一つが輝くというよりかは一つの塊、魔力の結晶という言葉がふさわしいほどに黒くもあり、白くもある、そんなものと化していた。こんな物食らったらひとたまりもないなんてこと百も承知だ。でも私の炉管もそろそろピキピキと傷み始めた、ここで打つか。
息を吸い覚悟を決める、本当は全然迷いがないわけじゃなかったけれど、今の私はそれを見て見ぬ振りをする事でしか覚悟が決められなかった。今だけは、今のうちは、それでも許して欲しい、こんな中途半端な覚悟でしか立ち上がれない私をどうか許して欲しい。
衝撃に備えて仁王立ちに、踏ん張れる体制に入る。標的は目前の触手たち、関根くんではない。小さい頃から秘密裏に考えていたこの特技の名前は、そう、
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私の人差し指から解放されたそれは、ただ真っ直ぐに触手目掛けて飛んでいった。触手が宿主を守ろうと食らいつくがもう遅い。超超超高密度な兵器と化した魔力の塊はたかが触手と削る様に失速とは無限のスピードで前進する。触手に風穴が空き、苦しみもがいているのがなんとも滑稽で、可哀想で。
正になす術なく。触手たちは一瞬にして削り取られ、この世から引き摺り下ろされた。降ろされた先に何があるかなんて、そんな物は知ったこっちゃない。トドメと言わんばかりに黒い塊に直撃、流石に失速した様に見えたけれど、中にあるものを助けること以外に能はなかったようで、2つの塊は解ける様に消失、相殺という形を取った。
静かだった。放心状態の私、言葉を失う高橋くん、後ろ姿よくわからないけれど多分希望ちゃんも鈴木くんも喋ることはしなかった。目の前に倒れるは気絶状態の関根くん。辛かったんだろうな、涙を流した後が真っ赤っかに張り付いている。もう大丈夫だよ。貴方も、私達も。
2世の犬特有の息が聞こえる。それ以外の音を感じられない中で、身体が泥の様に崩れた、土特有のじわじわくる痛みが全身を襲った。ポヤポヤとする、音が聞こえない様で聞こえる様で。心配して駆け寄ってくる2世、泣きそうな顔をした高橋くん、手当てをしようと駆け寄ってくる希望ちゃん、全部がなんだか客観的に見えた。妙にゆっくり閉じる様な気がした瞼の先に、何やら誰かがいる様な……。2人の人影の詳細を捉えることなく、私の意識の糸はぷつりと切れた。
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