第15話 トラブル発生

高橋くんはえっと……だとかうーんだとか、変な言葉を発し続けていた。そして、


「こ、怖いから無理です」


顔を深く落とした。その声は最後には聞こえないぐらいに小さくなってしまっていた。


「そっか……怖いなら仕方がないかな……」


私は彼の気持ちがわかる。どれだけ正義感があっても、どれだけ力や可能性があったって、怖いものは怖いんだと思う。同時にそれが悪いことじゃないことも知っていた。だって人はなんでもないことを怖いとは思わない、ちゃんと怖い理由があるから怖がるんだ。それを否定してはいけないと思う。


「で、でも……戦うことはできないけど、ついて行くことなら出来ると思います」


私が落ち込んでいるのが顔でわかってしまったのか、申し訳なさそうに小さく呟かれたそれは、確かに私の耳に届いた。


「僕、昔は日本中旅をしたくていっぱい勉強してたんですよ。まあ結局行けず仕舞いでしたけど……」


たしかに高橋くんみたいに行ったことがない人でも多少知識がある人がいた方がいいかもしれない。私は千代田区に軟禁されてたし、岸本さんがどれだけ日本中のことを知っているのかも分からない。それに高橋くんが行きたいってのなら止めたくはない。だから、


「じゃあ、一緒に行こう。で、2人の夢を叶えよう!」


「2人の?」


「うん。私は仲間を探して魔術議員になる、高橋くんは日本中を旅する。夢を同時に叶えられるよ!」


「な、なるほど?」


2人の夢を同時に叶えればいい。そのうえ私に関しては、高橋くんの予備知識がもらえるという利点もある。それにひょっとしたら気が変わって仲間になってくれるかもしれない、みたいな風に考えている自分の気配も感じていた。


「じゃあ、早速岸本さんの所に……と思ったけど、まだやることがあるや」


「どうしました?」


「鈴木くんと2世を探そう、多分関根くんを探しているはずなんだけど」


2世を迎えに行かなきゃだし、鈴木君には色々と恩がある。出来れば一緒に探すことでそれを返してあげたい。うどんも食料も配給場所は配り終えた配給所は人が減り始めて、今もここを出ようと準備をする人が目に入る。そんな中でも関根くんは一向に姿を見せない。


「とりあえず、まずは鈴木さんを探しましょう」


高橋くんが一足先に立って鈴木さんがいるであろう場所に向かった。私も急ごう、もしはぐれたら帰れない。その時の事だった。





コンクリートの壁が壊れる破壊音が鼓膜を突き抜けた。何が起こったのかよく分からなかった。鉄筋が剥き出しになったそれが空高く舞う、そして重力に耐えきれずに空から手を離し、雨のように降り注いだ。


「高橋くん、危ない!」


コンクリートの放物線の行く末に放心状態で立っていた高橋くんを咄嗟に全身で押し倒した。私達、もっと言うと高橋くんがもとより立っていた所はコンクリートの大きな塊がまるで突き刺さるようにあった。どうしてあの状況で動けたのかは知らない、考えるより先に体が動いた、よく分からないけど動いたものは動いたのだ。


「伊藤さん……?」


ようやく正気を取り戻した様子の高橋くんを無理矢理立たせて出口に走り出した。出口には狭い道で将棋倒しにならないように、避難誘導する希望さんが見えた。私も急がないと。


「伊藤さん、上!」


「!?爆破エクスプロジオン! 」


上から降るコンクリートを爆破しながらも走るスピードを落とさない。本来なら攻撃魔術はあんまり使っちゃダメだけど、これはコンクリートに対する正当防衛だ。というよりなんで私こんなに冷静なんだろう。ここまで来ると逆に冷静になるものなのかもしれない、逆に。


「中島さん、僕たちも手伝います」


「い、いけません!逃げてください!」


「大丈夫です、私今結構冷静なので!」


希望ちゃんはそれでも首を横に振っていた。そんなに私たちは邪魔だったのかと思っていたら、首を振る以外の応答をしてくれた。


「その、もうそろそろ「大きい」のが来ますので……急いで下さい!」


避難誘導を終えた希望ちゃん言葉が、一瞬どういった意味なのか分からなかった。でもすぐにわかる時が来た。


「き、来ます!伏せてください!」


希望ちゃんに押しつぶされる形で、私たち2人は地面にひれ伏した。その刹那、その瞬間の出来事だった。


私達が丁度うどんを配っていたであろう所に、黒い影が現れた。

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