第8話 スタートダッシュ
「私達はね、妃芽花を応援したいの」
え?っと素っ頓狂な声が出た。思ってた言葉と全然違う。でもそんなのお構いなしにお母様は私に話しかけてくる。
「どうして魔術議員になりたいと思ったの?」
「……このままじゃいけないと思ったから」
そんな根本的なことを聞いて来たって答えは明白だ。このままじゃ男の人があまりに可哀想だ、生まれた性別が原因で差別されるなんて酷すぎる。……それに高橋くんも助けてあげたい。
「……お姉ちゃんと戦うことになるのよ」
お母様達は私とお姉様の関係をよく知っている。だからこそそれを武器に否定はしないんだろう、むしろ心配をしてくれている。私も言葉を返さないと、お姉様に驚いていちゃいけない、もうあの
「私は戦うよ!仲間を集めて、チーム作って、お姉様と戦うもん!だから____」
「うん、もうわかった」
全部を言い切る前に、お母様は私をぎゅっと抱きしめた。まるで私がそこにいるかを確かめるように、両手を使ってしっかりと。
「困ったら嫌になったら帰って来なさい」
「……嫌になったりなんかしないよ」
私もギュッとお母様を抱きしめた。10秒ほどずっと。長いような、短いような、そんな10秒間だった。不意に玄関からガチャリと家に入ってくる音がして、ハッと抱きしめていた手を離した。
「準備終わったっすよ」
岸本さんが疲れた様子で帰って来た。いやどこに行っていたのかは知らないけれど。
「妃芽花はこれからチームを作らなきゃいけないんでしょ?なら善は急げ、車を準備したからすぐにでも遠くの外に行けるわ!」
お母様がとんでもないこと言ってる。いや、確かにチームを作るためには外へ出ることが欠かせない。でもいきなり車を出される事は違う問題だ、さっきから思ってたのと違いすぎる。
「いきなりですみません。母さんは一度決めると聞かないから……本当に良く似ていますよ、この家族の女性はじっとしていられないんですね」
「はい、そう言う家系なんでしょうね」
お父様と老婆やさんが困ったように、だけど微笑みを何処かに残す顔をしていた。出て行こうとしていた手前あれだけど私の不安は後をたたない。
「車使って大丈夫?」
「2台あるうちの大きいやつだから大丈夫よ。どうせあんな大型車ここに住むうちはそう使わないわ」
「ご飯はどうすれば良い?」
「お金はちゃんと仕送りしておくわ、なんだったら新しくチームに入るだろう子の分もね」
「私車運転できないよ」
「大丈夫、健ちゃんに任せるわ」
「え?いきなり?」
「健ちゃん免許持ってるもの」
不安なことを質問しているなか、岸本さんが被爆した。老婆やさんが1人で家事が出来るか不安だったみたいだけど、
「私はまだ77ですよ、問題ありません」
「ま、まだ?」
「健太郎くん、妃芽花さんをよろしくお願いします」
と言う謎の貫禄で丸み込まれた。しかもお父様にも背中を押されて流れる術はない。そしてしばらく項垂れた後、全てを諦めたような顔をした。
「じゃあ俺は俺の準備をしてあと、このパト公を車の物置に押込んどくんで、妃芽花さんもしばらく会えなくなるから挨拶を済ませといてください」
岸本さんは暴れるなと言いながらパトラッシュ2世を連れながら準備を始めた。さて、私も挨拶をしよう。
「お母さんはもう話すことはないわ、お父さんと老婆やさんにしっかりバイバイして来なさい」
お母様の微笑みを背に、私はお父様にギュッと抱きついた。そしてまもなく、私はその力強い手で持ち上げられた。
「妃芽花さん、上手くいかなかったらいつでも戻って来てもいいんですよ」
「大丈夫よお父様、絶対なってみせるんだから!」
「じゃっじゃあせめて連絡は、手紙でも電話でもメールでもいいから、ちゃんと下さいね」
「……わかった。ちゃんと連絡するよ」
しばらく痛いぐらい抱きしめられた後、老婆やさんに一礼を入れた。昔は私より大きかったはずだけど、すっかり目線が下になっているのが目に見えてわかる。
「老婆やさん、私絶対魔術議員になって来ますので、待っていて下さい」
「わかりました、お嬢様。……随分と大きくなられましたね。老婆やは嬉しゅうございます」
老婆やさんを優しく抱きしめた。老婆やさんの優しい匂いがずっと大好きだ。そして3人で、これだけを。
いってらっしゃい。それはそれはとても短い音の響きだ。
涙が流れる中、3人が手を振ってくれる。車のアクセルの音がバイバイの声で掻き消される。手を振る左手が痛くなっても振るのをやめない、、
…………
………………
……………………
荷物入れの中に押し込められていた2世が私の元へきたがっている。
「いいよ2世、おいで。今日は一緒に寝よっか」
2世を後部座席の私の隣に連れて来た。確か私のカバンに2世のご飯とかおやつが入ってたな……
「それでえっと、、お嬢はどちらへ向かうんですか?仲間探すって言ってもそう簡単には見つからなそうっすけど」
カバンの中を漁り犬用おやつであるの骨型クッキーを取り出した頃、運転席にいる岸本さんにそう聞かれた。大丈夫だ、1人目は彼がいいと決めている。おやつをあげながら話を進める。
「岸本さん、八王子市まで走ってくれますか?」
「八王子ですか?そこに仲間の目処でも?」
元気よくはいと頷いた。
「そこで探しましょう、高橋勇弥くんを!」
誰それ、なんてぼやいている岸本さんだったけれど、すぐに八王子に向かって全速前進した。因みにこの後すぐ晩御飯食べるのを忘れた事に気づき、私たちは笑い合って近くのマクドナルドで済ませた。
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