第13話 再開
こんな場所通っても良いのかと心配になる程の細く長い道を歩く。不思議な体験だった。どんどん廃れていくのに人の声が、もっと言うと賑わいを感じる事ができたのだから。
「配給所到着を確認。第二命令における第一段階終了を宣言」
人間1人しか入れない細々とした路地裏を抜けて現れ出たのは殺風景な空き地……ではなく、市場のような空間だった。
ボロボロの服を着た男の人がごった返しているそこは、同じくボロボロでガタが来ている木造の出店のようなものがいくつもある。辛うじて見えた奥の方には、古びて使わなくなったものや恐らく経済的理由で手放さねばなかった様なものがバザーのようにずらりと並んでいた。まるで昔に写真で見た戦後の闇市のような光景が広がっている。
……そして何よりも、この異臭はなんだろう
「風呂入ることさえ不可能なものの臭い、衣服に気を使う余裕がないものの臭いである確率が非常に高い。それに……血だ。よくある事」
それぞれ自己主張の激し過ぎる臭いはとてもではないが耐えられたものではなかった。しかしその中に美味しそうな、ささやか過ぎる匂いがあるのを感じる。
「ここは配給所だけじゃないのですか?」
「推定。元々領地の空き地を用いて簡易的な食料を配る以外の用途は無かった。しかし人が集まるにつれ用途は千差万別、市場としてもここは役割を果たしている」
つまりメインは後ろの、もっと裏にいると言う事なんだろう。高橋くんはここの何処かにいるかな。
「不明。よって奥で配給をしている
希望……さん?に聞けばいいのかな。なら急いで行こう!
「了解。希望の場所を目的地とする。……忠告、怖い人間もいるが恐るな。皆生きるのに必死な奴等だ」
言っている意味はよく分からなかったけど、とりあえずついて行くことに。背後に2世がいる事を確認しながら前へと進んでいった。
……鈴木くんの言葉の意味がわかった。
「お、女だ……」
「しかもいいとこの奴だぜ、千代田区の女じゃねえか……」
「雨月さんもいるし、新しい救済組織のメンバーじゃねえか?」
「あ、ありがてぇ」
コソコソと声が聞こえる。みんな遠巻きに私を見ているのが痛いほどわかる。視線は嫉妬や憎悪も感じる。でも、それ以前に期待とか、恐れとか、弱々しいものが物量となって押し寄せてくる。そして……
「お嬢さん、いいとこの人だろ……?恵んでくれ、もう生きていけないんだ!」
「俺も……」
「金持ちなんだからケチケチすんなよ……」
おじさんに腕を掴まれた時はちょっとビックリしたけど、すぐに弱々しい人達が目に入った。今にも消えてなくなりそうなか細い声や腕はとても見るに堪えない。
「お前たち、配給はこの奥だ」
「雨月さん……すみません」
鈴木くんは無慈悲に手を振り払った。ちょっと可哀想だと思ってしまう。
「そうだ。疑問、ここに高橋勇弥の姿はなかったか」
「ん、勇弥ですか? あいつなら配給所で炊き出し手伝ってると思いますけど……」
「感謝」
私が会話に入ることはなかったけれど、とてつもなく嬉しかった。またあの人に会えるんだもの。もう決めているんだ、最初の仲間は高橋勇弥がいいと。
背後から聞こえる鈴木くんの静止の声を振り切りながら、私は奥へ奥へと足を進めた。道中私に驚く男の人がたくさんいたけれど、その一人一人にごめんなさいと言いながら避けて或いは避けられて、ついに配給所とデカデカと書かれている運動会で見かける4本足のテントにたどり着いた。
「伊藤妃芽花を確認、無事に合流を果たした。内部警戒体制を更に引き上げ」
息を切らしている間に鈴木くんが追いついたようだ。再び私の前へ出た、2世も私の背後を徹底マークしている。
「はい、今日はお水と乾パンですよ。明日はお肉の干し物が食べれますよ」
「明日は久しぶりの肉か……ありがとう」
「向こうではあったかいうどんの炊き出しをしています、お腹いっぱいになるまで食べてください。といっても具材のない素うどんですけど……」
「全然有難いぜ……いつもありがとうございます、希望さん」
希望と呼ばれているセミロングの女の子は、決められた分の配給品を渡しながら1人でこの大人数の男の人を相手にしている。
「凄いね……」
「
あれ、いいのかな?そう思ったけれど、すぐに2世なら信頼できると付け足した。とうの2世はというと、鈴木くんの周りを歩き回っている。かなり懐いたようだ。
「じゃあ行ってくるね、鈴木くん」
「了解」
短く挨拶をして、炊き出しをしている空間に乗り込んだ。恐らく高橋くんのように手伝っている人が作っている素うどんを男の人が無心で食べている、中にはもう何杯も食べているであろう人もいた。
そしてその受付の奥に。うどんの湯切りをしていた、ボロボロのエプロンをしている、茶髪でガリガリでちょっと動きが鈍臭い、ついに見つけた。
「高橋くん!」
一瞬ビクリとしていた。でも彼は確かに私の方を向いてくれたのだ。そして、
「……伊藤さん?」
昨日ぶりではあるが、私にとっては数ヶ月も探し回ったような気がした。
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