第17話 名状し難きそれは
「提案、俺が触手を殲滅する。希望は2人と2世を守り、2人で関根伊織を引き摺り出す。2世はそうだな……護衛が望ましい」
鈴木くんはそれではと言ったのち、すぐさまに触手の山に飛び移った。私達の答えを聞かずにだ。焦っているのだろうけどそういうのを提案とは言わない気がする。
「私たちも行こう!危ないから絶対後ろ!」
希望ちゃんの後ろに張り付く形で道を切り開き続ける鈴木くんの後ろをキープしている。先頭の彼はまるで荒波のような鋭く巨大な触手をバッサバッサと狩り尽くしている。せっかく魔術で作った槍が、その先端が、赤黒くどろどろとしたものに覆われるのはあまり見たくはなかったけれど。
希望ちゃんはというと、ポケットから押し花?の施された長細いしおりを数枚取り出したかと思うと、魔術施工に取り掛かった。
「「柊」の名を得て命ずる!その純白善性の花ともって、名状し難き邪神の手先から我々を守りたまえ。【
目の前に広がるは大きな大きな純白の花のような大盾だった。地上から数センチ浮いたそれは、私の何倍も大きいのに花びらの如く軽そうで、それでいて強固だった。希望ちゃんが大切に握っているその押し花は柊のものだろう、それを触媒に魔術を使ったんだ。
でも普通の魔術に比べて炉管起動に必要な魔力が少ない、花によれば大魔術も安易に使える、あと
鈴木くんが撃ち漏らした触手が、私たちの元へは……来ない。というより盾にすら当たっていない。魔法を施行しているサインとしてしおりが光っている。しかも花の誓いで青い光もあってとても綺麗だった。
「押し花さんが壊れちゃう前に行きましょう。2人とも、リーダーを助けてね!犬さんも一緒に頑張ろう?」
「勿論です」
「頑張ります!2世もお願いね!」
2世の威勢のいい鳴き声と共に、私達は一歩一歩前に進んだ。希望ちゃんを先頭に、私、高橋くん、最後尾に2世だ。一歩進むたびに柊の盾も前進する。近づくにつれて触手の密度が高くなり、鈴木くんだけでは手に負えなくなる。それでも盾は一向に攻撃を通さず、むしろ弾き返すように軌道を逸らし、遠くのコンクリートの地面を深く削るだけに終わる。
「報告、急所を発見。提案、俺がそこに一撃叩き込む、後は引っこ抜くだけ」
「触手が怯んでいる隙を狙う……という事ですか?」
「推定」
花の盾に割り込んできた鈴木くんが更なる説明に入る。先ずは鈴木くんが中央の触手の温床であろう黒いドロドロに重めの一発を叩き込む、急所にだ。触手が怯んだ隙に私達3人と一匹がドロドロの中にいる関根くんを探す。触手は私達に攻撃を仕掛けてくるだろう、でも直ぐに鈴木くんがもう一撃叩き込む。
こうする事で、触手は私たちへの攻撃と鈴木くんへの攻撃、更に急所への攻撃に対する防御をしなくちゃいけない。そこで私と高橋くんが引っこ抜き、希望ちゃんと2世が防衛に回る事で仕事がまた増える、指揮統制の完全なる麻痺を狙うんだ。
「鈴木くんあったまいい!じゃあそれにしよっか!」
「ええ。直ちにリーダーを助けましょう」
これでいける、なんとかなる。そう思っていた。最初に言っておこう。10秒後、ボロボロの配給所は地獄と化す。私達は甘く見てた、関根くんの力を、まさか、こんな状況で魔術を使うことはないと過信していた。
「ウルタールどこ? 君がいないと寂しいよ、君がいないと僕は………………探さなきゃ、友達を助けにいかなきゃ!」
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう
るるいえ うがふなぐる ふたぐん!」
関根くんの聞いたことのない詠唱が、警鐘のように、地を這うようにきこえた。言葉には表せない、冒涜的なものを感じた。
「みんな隠れて!
希望ちゃんのひっくり返るほどの声を聞いた。何かがくる、でかいのが。心臓が痛い、喉の奥から鉄みたいな味がする、ゴーゴーズーズーとした音を最後に私はしゃがみ、目を閉じた。
大きな何かが、這い寄る音がする。
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