♰13 皆で戦う。
「”ーー風よーーヴェンドーー”!」
風魔法の応用で、身体を浮かせて空を飛び、ヨーエルシに向かう。
「”ーー凍てつかせ、氷の矢ーーフレチャレーギャーー”!」
後ろを取り、そこから氷の矢を放つ。
「”ーー風よ踊れーーヴェンドターンーー”!」
また同じ風魔法で、払われた。
「超音波!」
私に向けられる超音波だったが、私につられて背を向けたのは大間違い。
後ろには、アリシアとユーリがいる。
「”ーー水よ弾けろーーリークアエスプローー”!」
「”ーー轟け、雷鳴ーートォノドシティ”!」
水魔法レベル3と雷魔法レベル2の魔法。
水と雷。掛け合わせることで、効果は抜群になる。
背中に弾ける水を浴びせ、そして雷鳴が片方の翼を射抜いた。
超音波は的外れな方へ飛び、建物が一部破壊されたが、私は無事。
それに、ダメージを与えれた。
「小癪な!!」
今度は私に背を向けたから、濡れた背中にお見舞いしてやった。
「”ーー雷よーートォノドーー”!」
「ぐわああっ!!」
イメージを添えた稲妻を、もろに食らう。
「”ーー氷柱ーーフレッドギアーー”!!」
畳みかけようと、アリシアも氷魔法を放つ。
しかし、穴が開いたまま不格好にも、空へと逃げた。
ちっ! このままコンボを決めるのが理想だったが、やはり優先すべきは翼か!
「調子に乗るな!! 人間どもぉおおっ!!」
超音波が上から放たれた。私は素早くユーリの元に駆け込んだ。
ユーリも、頭上に光の壁を張る。
流石に氷の壁を頭上に生やすことは不可能。今回はカモフラージュが出来なかった。
「それは! 壁か!?」
うっすら光る壁に気付かれる。
思ったより、早かったな。
だが、バレたところで、ユーリの光の壁は壊せない。
「”ーー爆風炸裂弾ーーエスプロジオボンヴェンーー”!!」
風魔法を落としてくるが、周囲が吹き飛ぶだけで、私達はノーダメージ。
「落としてくる、着地頼んだ」
ユーリの光の壁から出た私は、その上に飛び乗る。
それから風の魔法を使って、吹っ飛ぶ。
「落ちろ、よっ!」
「バカめ! 空中戦でワタシに勝てると思う」
「”ーー轟け、雷鳴ーートォノドシティ”!」
「なぁ!?」
私の一振りをかわされたが、また忘れている。
私達を相手して戦っていること。
一度、光の壁を解いたユーリが、雷魔法を放つ。
それもなんとかかわしたヨーエルシに、私はとってきをお見舞いする。
「”ーー爆裂業火ーーエスプロジオ・インフェルブルチャーー”!」
爆発を複数回起こす火魔法。かすっても爆風でよろけるはず。
でも、命中した。これは痛いに決まっている。
「かはっ!」
そのまま、ヨーエルシは落下。
私も風魔法の効力が切れて、落ちる。
ちょうどいいから、ヨーエルシの翼を掴み、振り上げた剣で両断した。
これで飛べなくなっただろう。
着地は任せた通り、ユーリが光の壁を用意してくれた。
ほんのちょっと痛みがするが、着地成功。
ヨーエルシの方は、光の壁に衝突して「ぐえ!」と声を洩らす。
「お、おのれぇええっ!!!」
しまった。超音波を、至近距離で受けてしまう。
キーンと耳が鳴り響いて、他の音が聞こえない。
そんな私を、ヨーエルシの大きな右腕がぶつかってきて飛ばす。
民家にすっ飛ばされた私。
今までで一番、痛い攻撃だ。
これがレベル差が10以上ある強敵の攻撃か。
視界が揺らぐが、自力で立ち上がる。
耳がまたキーンと鳴っていて、耳障りだ。
霞む視界で、確認出来た。ユーリの光の壁を壊そうと、ヨーエルシが躍起になっているようだ。
拳を叩き付けては、叫んでいる様子。超音波を放っているのか。
「”ーー風よーーヴェンドーー”」
自分の声すら聞こえないが、魔法は発動したようで、追い風に乗るように駆ける。
図太い左足を切りつけて、ユーリの光の壁の前に立つ。
よろめいて、光の壁に寄り掛かるが、それがふっと消える。
ユーリの光の壁を解いて、私を引き寄せた。
後ろへと簡単に倒れた私を受け止めるのは、ミリア。
何か言っているが、聞き取れない。
とりあえず、治癒魔法をしてくれると思って、頼むとだけ言う。
膝をついて、剣を握ったまま、光を浴びる。
キーンという音が止む。
「あの超音波、至近距離で受けちゃだめだ」
「当たり前でしょう!?」
アリシアに、激怒された。
私は、にへらと笑う。
「さぁ、続けてゴリゴリと削っていこうか」
また唇を舐めると、血の味がした。
頬から血を流したらしいが、もうミリアの治癒で塞がっている。
問題なし。
「!? 光魔法の使い手か! その小娘で、冒険者達の傷も疲れも癒していたのか!!」
「あ、バレた? アンタのことは癒してやらねーけど」
「ふざけるなぁ!!」
私の挑発に、超音波を放つヨーエルシ。
だが、再び張られた光の壁で、防いだ。
「「”ーー凍てつかせ、氷の矢ーーフレチャレーギャーー”!」」
頃合いを見て、光の壁の左右の端から、氷の矢を放つ。
「”ーー風よ踊れーーヴェンドターンーー”!」
同じ魔法で防がれたか。
私は駆けて、体力を削りに向かう。
超音波を放つから、風魔法で身体を飛ばして、横に避けた。
私に構っていれば……。
「”ーー氷結牙ーーギャチャーザンナーー”!」
アリシアから魔法攻撃を食らう。
氷魔法で生み出した氷柱で肩を貫かれたが、ヨーエルシは引き抜いて地面に叩き付けた。
「ちょこまかとっ!!」
アリシアに超音波を飛ばしても、光の壁に隠れれば簡単に防げる。
「卑怯だと思う? いやいや、俺達みーんなアンタよりレベル下。ハンデだと思ってよ」
私に背を向けたヨーエルシの背後から切りかかった。
「なんで、ワタシのレベルを知ってっ!? っあ!!」
右腕を両断。
といきたかったが、流石に硬い。骨に引っかかった。
剣を諦めるところだったが、判断が遅い。
もう片方の手で、がしっと掴まれた。
「死ね!!」
そして、地面に叩き付けられる。
トドメと言わんばかりに、頭を踏み潰そうとした。
「やめろ!!」
「ぐあ!!」
風魔法で逃げる算段はついていたが、それより前にユーリが飛び込んだ。
ヨーエルシの右腕を切断。
続いて、ヨーエルシに氷が襲い掛かる。
「人間風情がぁああっ!!!」
私と剣を拾うユーリが、咄嗟に光の壁を出す。
しかし、離れたアリシアとミリアには、光の壁が届かない。
超音波が放たれ、アリシアは氷の壁を作り上げる。それは呆気なく砕かれた。
すぐに起き上がらせてくれたユーリをしっかり掴み、風魔法でヨーエルシよりも早く駆け付ける。
ユーリはすぐに光の壁を出した。後ろは任せて、アリシアとミリアの無事を確認する。
「アリシアが、盾に!」
「すぐにアリシアの回復!」
「はいっ!」
ミリアは無事。アリシアが気を失ってしまっているが、息はある。
私は軋む身体に鞭を打つように動かす。
私の回復はあとだ。
「ユーリ!」
ユーリに合図をして構えさせる。
屈んだユーリの背中と踏みつけ、肩を踏み台にして、光の壁を超えた。
光の壁を殴り続けていたヨーエルシの脳天目掛けて、剣を突きたてる。
だが、刺さったのは、肩。避けられたか。
「”ーー爆裂」
「っう!!」
「くっ」
ここで私の中で最強な火魔法をぶち込みたかったが、振り払われてしまう。
光の壁に叩き付けられそうになったが、なんとか両足で着地。
光の壁を蹴って、ヨーエルシの胸の心臓を狙って突く。
それも、残る左腕で防がれた。
「”ーー土よーースオローー”!」
弾かれて宙にいる体勢を変えようと、間に土の壁を作る。
壁と言うには強度も何もないそれを通過したヨーエルシが、大口を開けて腹に噛み付いてきた。
ドンッと光の壁に押し付けられながら、食いちぎろうとしてくる。
「ネコさっ」
「壁を解くな!!」
ユーリに光の壁を解くなと叫びながら、私はヨーエルシの顔にしがみ付く。
壁がなきゃ、身体が落ちて、ちぎられる。
そっちが食いつくならばーー……。
相打ち覚悟の大技をぶち込もうとした。
しかし、氷がヨーエルシの身体を覆う。
「なっ……ぁあっ!」
呆気に取られたのか、それとも痛みか。
私の身体に食い込ませた牙を抜き、口を開いて開放した。
ずるっと光の壁に凭れつつ、地面に降り立つ。
私は腹を押さえながら、振り返った。
アリシアがミリアに支えられながら立っている。
起きてくれたか。ははっ。
ヨーエルシは、もう動けない。
こちらの勝ちだ。
「おま、え、何者、だっ」
今更、丈夫な私のことが気になったらしい。
私は笑顔を見せる。
嘲るとかじゃなくて、単純に勝利が嬉しい笑みだ。
「教えてやらない」
知ってもしょうがないでしょう。
「「「「”ーー氷よーーヨギアーー”」」」」
ヨーエルシのトドメは、四人で揃って氷魔法を唱えて、顔も凍らせた。
そして、私とユーリで、雷魔法を放つ。
「「”ーー雷よーートォノドーー”」」
氷漬けの巨体は、雷鳴とともに砕け散った。
粉々だ。
ユーリに凭れて、私は崩れ落ちる。
「ミリア! 治癒を!!」
「内臓出そう、頼む」
「は、はい!! 治癒を始めます!」
ユーリが慌てて呼べば、ミリアもアリシアを連れて駆け付けた。
また白い光を浴びることになる。
「よくやった。皆」
「……危うくネコが死ぬところだったけれど。まぁ、倒せたわね」
「アリシア、よく起きれたね」
「アタシを舐めてるの?」
「助かった、ありがとう」
「ふ、ふんっ! 別に礼なんていいんだから!」
痛みが和らぐまで、お腹を押さえ続けて、私はとにかく一同を労う。
「ユーリも助けに入ってくれてありがとう。頭潰されてたら戦闘不能だった」
その場合、どうやって私は生き返るのだろう。
ちょっと疑問。
「縁起でもない……。ミリアを危険にさらして、申し訳ないです」
「本当よ。盾が突っ込む? フツー」
「俺の代わりに、ミリアを守ってくれてありがとう。アリシア」
「だ、だから! 別に礼なんていいんだから!」
それから、謝らないといけないな。
「俺が守るって約束したのに、怖い思いさせて、ごめん。ミリア」
守り役のユーリが敵に突っ込んだのは、私を助けるため。
今まで守ってもらっていたのに、無防備になった瞬間は一番恐ろしかったのではないだろうか。
……あれ? ミリアから返答がない。
あっ。治癒魔法中は、口を開けない?
「……勇者、さまっ」
光がなくなり、視界が良好になると、真っ先に見下ろすミリアの泣き顔を見た。
えっ、泣くの?
泣くほど怖かった?
「勇者様ぁ!!」
「お、おう。落ち着け、ミリア」
「なんてお優しいんですか!! 慈愛に満ちているんですね!! こんな怪我を負って……わたし達を労い、お礼まで伝えて……ふわあああんっ!!」
「泣くなって、ミリア」
「お慕いしています!!」
泣きながら胸当てに顔を擦り寄せてくるミリア。
「「なっ!!」」
ミリアの突然の告白に驚くのは、私よりユーリとアリシアだ。
「オレのネコ様から離れろ!!」
「オレの!? 何バカ言っているのよ! ミリア、はしたないわよ!! だいたい修道女が男に告白なんて!!」
「勇者様は特別なんですぅううっ!!」
「離れて!!」
「離れろ!!」
ユーリが私の腕を引っ張り、アリシアがミリアの腕を引っ張り、離そうとする。
アリシアは病み上がりで、なかなか引き剥がせないようだ。
それとも、ミリアの力がわりと強いのだろうか。
「あー……どういう状況だ? これぁ」
そこで、しぶめの声がかけられる。
顔を上げれば、クスベェ師匠が立っていた。
戦闘した跡のようで、返り血を浴びている。
「遅いよ、師匠。どこで道草食ってたのさ」
「前線が押されていたからよ、手伝ってた。すまん、遅れて気付いた。で、どういう状況だ?」
「例の指揮官は倒したけれど……修羅場?」
「はははっ。強敵打破、おめでとうさん」
修羅場だってことはスルーなの?
でも、ありがとう。
ちょっと、さっきの戦闘を振り返って、私は思ったことをユーリに伝えた。
「ユーリ」
「なんですか?」
「こうやって皆で戦うのも悪くないね」
ゆくゆくは一人で無双するほど強くなりたい。
けれど、こうして結託して強敵を打破するのも悪くはないと思った。
「……そう、ですね。はい。俺もそう思います。だから、一人にならないでくださいね」
ユーリは、そう薄く笑う。
それは私の返答をわかっていたからだろうか。
「ううん。いずれは一人で魔王軍を蹴散らせるほど、強くなる」
「多分、魔王と対峙する時もこんな感じになるような気がします」
「んぅーそうかもしれないけれど……」
きっぱりと言うユーリに、私はふくれっ面をする。
流石に魔王の元まで行き着いたら、一対一で戦えるほど強くなりたいものだ。
しかし、まだまだ遠いだろう。
「さて。まだ魔王軍いるみたいだし、指揮官が死んだって知らせて退散してもらおうか」
まだ戦っている音が耳に届く。
私は立ち上がって、砕けたヨーエルシの残骸を探す。
「おいおい、強敵を倒したんだ。もう休め」
「負ける気はないし、まだ気持ちが高ぶってんだよね。蹴散らしてくる」
「俺も行きます!!」
「アタシだって!!」
「わ、わたしも! 皆の治癒をしに行きます!!」
休み気がないのは、私だけではない。
ヨーエルシの残骸を見せて、押し寄せていた残党の戦意を消す。
まだ戦おうとする魔物を討伐。逃げるものは、追わなかった。
魔物を全て殲滅しろとは言われていないからね。
こうして、私達は、シンティリオ王国に攻め入ろうとした最高レベル40の魔王軍に勝利した。
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