♰17 話し合い。



 本能でわかったって、結局のところどういう意味だったのだろうか。

 あれか。性的な本能ってやつ?

 確か性的本能は、動物が子孫を残すために発達したとか言われている本能。

 まぁつまりは性的な目で見ていること。心より身体が求めている。

 そういう意味だろうか。動物らしい。そして、狼らしさもある。

 狼って、男は皆狼って言葉のせいで、誰構わず性的に食べるような印象を持たれがちだけれど、実際の生態は一途らしい。

 一夫一妻で群れを成すはず。

 一匹狼であるフォティがそれに当てはまるかは知らないが、とにかく今は私を襲う気はないらしい。

 クスベェ師匠とともに、見張りをしてくれた。

 私が身体を拭いている間、近付くなと睨みを利かせたらしい。

 クスベェ師匠曰く「勇者は裸を見られたくない理由を持っている」と言っただけで、誰も覗こうとしなくなったそうな。

 各々がどういう想像したのか気になってしまうが、まぁ性別がバレないならどうでもいい。


「黒炎」


 特殊スキル・黒炎魔法の使い方は、簡単だった。

 念じるだけで、自在につけたり消したり出来るが、威力はやっぱり大技の方が強い。

 けれども、これで魔力の消費がないってのは、大きいか。

 どこまで火柱が立つか。試したくて、夜空に黒い炎を上げてみた。

 んー、三メートルが限界か。


「あの、フェンリルのフォティ様。厚かましいと思いますが、自分にも加護をいただけないでしょうか?」


 黒炎魔法を使っていた私を見て、羨ましくなったようで、ユーリがフォティに頼んでみた。


「厚かましいな。加護はオレを救ってくれたネコへの礼だ。お前に与える筋合いはない」


 きっぱりと、フォティは断る。

 しぶしぶユーリは引き下がり、しょんぼりと俯く。

 普通に会ったら、もらえたか疑わしい。


「いいことはするもんだろ?」


 なんて、笑って場を和ませようとした。


「例えあの愚か者に捕まっていなくても、会えばネコだけは例外で与えたはずだ」


 大きな大きな大狼の姿をしたフォティに、凭れ掛かっていた私は固まる。

 もふもふが気持ちよくて、顔を埋めようともしていたのだが、この発言を聞いたユーリの顔付きが変わった。

 一瞬わからないと顔を歪めていたが、やがて深い意味があると知って驚きの表情をする。

 この場に、ミリアとアリシアがいなくてよかった。食いついていたかもしれない。

 ちなみに二人は、氷の壁の向こうで身体を拭いているのである。

 アリシアに覗きがバレたら、ただではすまないけれど、恐らく騎士であるジーンさん達はそんなことはしないだろう。

 現に、下ネタな話題なんて、全然出てこない。男が集まると普通に話すと思っていた。

 偏見だった、ごめん。


「勇者だからね!」


 誤魔化しを入れてみた。


「勇者を抜きにしても、与えた」


 フォティは、空気を読まない。


「フォティ様には……ネコ様が特別なのですか?」

「そう言っている」


 わなわなと震えているユーリが、完全に恋敵だと認識してしまった瞬間。


 め、めんどくせぇええっ!!!


 モテるって、こんな面倒なのか。

 好き好きと言い寄られては、バチバチ火花を散らされるのかよ。

 モテると修羅場ってセットなのか。そんなモテ期、嫌だ。


 ちらりとクスベェ師匠を見たが、笑っているだけだった。


『人族 猫宮理奈 29 女 勇者 レベル34/99

ステータス

 体力 2200/2200 魔力 1850/1850

 攻撃力 750 防御力 1070

 素早さ 1080

 耐性 火・水・土・風・氷・雷・黒炎

スキル

 火魔法 (レベル5) 水魔法 (レベル5)

 土魔法 (レベル1) 風魔法 (レベル2)

 氷魔法 (レベル2) 雷魔法 (レベル1)

 光魔法 (レベル1) 闇魔法 (レベル1)

特殊スキル

 黒炎魔法

加護

 神の加護 黒炎のフェンリルの加護』


 ミリアに鑑定してもらった。

 今回は板すらないので、地面に焼き付けるように出してもらう。


「勇者ネコ様の記録を出来ないなんて……なんてことでしょう。ああやはり成長過程をしっかり記録すべきだと思うのですが」


 保存出来ないことに文句を洩らすが、いつものミリアのことだから、聞き流す。

 どうせ読めるのは私だけだから、記録も何もないでしょう。

 ちゃんと特殊スキルの欄が出来て、しかも耐性までついた。

 しかし、やっぱりレベルアップがしたいと、むむっと唸ってしまう。

 経験値を総取りしてしまいたくなる。無双したい。


 フォティと行動をともにして、二日が経つ。

 フォティがあっさり魔物を倒してしまったせいで、活躍出来ないし経験値がもらえないと文句を言うと。


「先に獲物を狩ってしまえばいいじゃないか」


 そう返された。


「よし、わかった!! これからは早いもん勝ち!!」


 私はやけくそになって、魔物討伐は早い者勝ちで決める。


「フン! アタシから獲物を奪えると思わないでよ!」


 アリシアが、やる気満々だ。

 ミリアは、オロオロしている。


「オレだって、絶対に負けません!!」


 ギロッとユーリが、フォティを睨んだ。

 フォティは、知らん顔。


「クスベェ師匠達は援護よろしく!」


 投げやりである。

 クスベェ師匠は肩を竦めただけで、別に反対はしなかった。


 経験値獲り合戦は、カオスだ。

 先手必勝と黒炎魔法を使うが、それをアリシアの氷魔法で凍らされる。

 フォティの黒炎魔法は、ユーリの光の壁が遮った。

 それの繰り返しだ。魔物討伐どころではない。

 足の引っ張り合いじゃないか。


「よしわかった、やめよう!!」


 二戦やってから、私はやめさせることにした。


「なんか超疲れる。無駄な動きばかり増えてしょうがない……お前らさぁ、ちょっとは勇者の顔を立てて経験値を譲ってくれてもいいんじゃない?」

「アンタばかり強くなろうなんて許さないんだから!」


 アリシアの性格上、誰かの顔を立てるとか無理だ。

 あまり膨れてない胸を張られた。


「オレはあなたに置いていかれたくない!!」


 ユーリだって、意地がある。

 早く一人で無双したいが、やはり現状は頑張って協調性を出して、皆と戦うことがベストなのだろうか。


「邪魔だ! オレが焼き尽くしてやる!!」


 フォティは協調性がない。

 こいつが一番、危ないなぁ。


「あのぉ、ネコ様。やはり、協力して戦う方がいいと思います。仲間なのに命を取り合って、とても醜いです……」


 控え目に発言したミリアが、醜いときっぱりと言った。


「うん、そうだねぇ、ごめんね?」

「いえ、滅相もございません!」


 ぺこぺこと頭を下げるけれど、醜いって言った時、すごく軽蔑した目をしていたよ。ミリアさん。


「そうだよな、いくら敵でも、命は命だ。あまり経験値に拘るのはよくないかもしれないな」


 ゲームでは無限に敵は出てくるけれど、そうもいかない現実がある。

 命は奪っているのだ。

 相手も奪おうとしているから、お互い様だけれど。


「いいえ、拘るべきでしょう。少なくても、ネコが今以上に強くならないと、命は消える一方なのよ。アンタだって、一刻も早く世界を救いたいでしょう?」


 アリシアが、否定した。


「それがアンタの使命なんだから! わかったわよ! アンタが優先にレベルアップしなさいよ!!」


 ぷいっとそっぽを向いたアリシア。


「オレも自分のことばかり考えてました!! ネコ様が優先ですよね!!」


 アリシアに続いて、ユーリが頭を下げて譲る。

 いや、今更譲られても……。


「いいよ。仲間なんだし、力を合わせて頑張ろうよ?」

「っ……」

「ネコ様……」


 微笑めば、アリシアとユーリは頬を赤らめる。


「それがいいです!!」


 ミリアは推してくれた。


「十分強くなったらあとは、全部俺に任せろ。一人で暴れて無双してやるよ」


 キリッと決め顔で、告げておく。


「……ネコ様」

「はぁああ!? 一人で暴れるって、バッカじゃないの!?」

「基本一人で戦っていたアリシアに言われたくない」


 ブーイングか。解せぬ。


「レベルが違うでしょうが!! 南に行くほど魔物は強くなっていくんだから!! 一人で全部倒す気!?」

「そっ。蹂躙してやるのが、俺の目標だ」

「バカじゃないの!?」


 もう一回、決め顔したのに。解せぬ。

 まぁ、命がどうのって話した蹂躙するなんて言っているから、おかしなものか。


「オレは反対ですからね!!」


 そこで声を張り上げたユーリが、反対をした。


「また無謀なことをして、世界の命運は一人で背負わなくていいんですよ!!」

「そ、そうよ!!」


 ユーリの言葉に、ハッとなったようにアリシアが便乗する。


「一人で突っ込むなんて無謀よ!! 仲間ならそれは許さないわ!!」

「そうです!! 仲間なら、一緒に戦いましょう!!」


 ええーっ。

 そこで仲間を使うのは、ずるい。

 無双するなってこと?

 酷い。人が掲げている目標を妨げるなんて。


「と、とにかく、当分は協力して戦おう。決定」

「ちょっと! 当分じゃないわよ!! 決定じゃない!」

「ネコ様! 約束してください!!」

「わーっ、わーっ!」


 聞こえないと耳を塞ぐ。


「この前は大人ぶっていたくせに、子どもみたいな真似して!!」


 きこえなーい。


「おい。てめぇら、喧しいぞ。ネコ、煩わしいならオレが焼き尽くしてやる」


 物騒なのがいるー。


「幻獣だからって図に乗らないでくれる!?」

「てめぇの氷魔法なんぞ、オレには効かんぞ?」

「やってみる!?」

「落ち着けアリシア! この幻獣はオレが叩き潰す!!」

「やれるもんか、クソガキが」


 挑発するフォティに、毛を逆立てる勢いのアリシアとユーリ。

 そこの二人と一匹、落ち着け。

 何バチバチ火花散らせているの。


「最近、クスベェ師匠は口出ししないって言うか、傍観しすぎじゃない?」

「お前が、リーダーだ。口出すわけにはいかんだろう」

「え!? いつから!?」


 いつリーダーを押し付けられたの!?

 クスベェ師匠に苦情を入れたのに、とんでもない返しをされてしまった。


「仲間は大事にしろよ、リーダー」

「ええー……」


 もう、まとめるの大変じゃん。

 確かに勇者=リーダーなイメージがあるけれど、私に務まるだろうか。

 クスベェ師匠にポンッと肩を叩かれて、私はその肩を落とした。


「お前ら!! いい加減にしないとぶん殴るぞ!!」


 以前、クスベェ師匠が言ったことを覚えていたらしく、ビクッと震え上がってアリシアとユーリは黙り込んだ。

 いや、私も人を殺すようなパンチを、仲間にしたりしないから。

 加減するよ。傷つくわ。


「フォティも! 同行する以上は、協調することを心掛けてくれ! お前も仲間だぞ! わかったな!?」

「……グルル」


 唸るが、後ろで尻尾がご機嫌に揺れた。

 一匹狼だったからか、仲間扱いされて喜んでいるのだろうか。

 素直に喜んでいいんだけれど。

 案外、この仲間は、扱いやすいのかもしれない。



 

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男装勇者は一人で無双したい! ~勇者として召喚された干物女ですが、男と間違えられたので自棄で男装を貫いたら男女ともにメロメロらしいです。~ 三月べに @benihane3

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