♰12 強敵襲来。



「ということで、相手は強敵。俺達で連携して戦うわけなんだが……仲良くしよう? な?」


 翌日、手の空いたミリアにも来てもらい、連携して戦うことを話す。

 しかし、ユーリとアリシアが険悪ムードである。

 バチバチと火花を散るくらい睨み合いをしていた。

 ユーリは、女嫌いだ。触れることも嫌うほどの。

 なのに、私は好きという。男装しているからしょうがないが。

 そして、アリシアの性格はアレである。

 好きな私に対しての数々の無礼な発言を知って、ユーリはアリシアに怒っていた。

 衝突は、免れない。


 でも、まぁ……私に無礼をしたことなら、ユーリも負けていないんだけれどね。

 勇者に夜這い未遂とか。王子としてやばいぞ。


 それは置いといて、私は睨みをやめさせるために、グローブを嵌めた手を思いっきり叩く。


「ユーリ! ユーリの光の壁で、皆を守るんだ。そんな敵意剥き出しな目を向けるな。アリシアも! これらから守ってもらう相手に対してそれはないだろう。ユーリの光の壁は、絶対に壊れない。勇者の俺が、保証してやる」


 コン、と胸当てをつけた胸を叩いて張ってみた。

 しぶしぶ、二人は睨み合いをやめてくれる。


「あの、発言をお許しください」

「何、ミリア」

「本当にわたしが参加していいのでしょうか? 足手まといではないでしょうか……?」


 ミリアが挙手しては、控えめに遠慮したい発言をした。


「いや、ミリアがいないとだめなんだ」

「はうっ!?」

「神エゼ様の加護を持っている俺を信じろ!」

「は、はうっ!!」


 それは、返事でいいのか?

 この中で一番扱いやすい子だ。ミリア。


「ちょっと! ネコ! ミリアをおちょくらないでくれる!? ただでさえ修道女で異性に免疫ない上に、神エゼ様の加護を持つアンタを崇拝してるんだから!!」

「あ、アリシア!! 言わないで!!」


 友人のために怒ったアリシアだが、ミリアにダメージがいっている。


 崇拝するほどなの? ミリアの中の勇者すごいな。


「勇者様に向かって呼び捨てはないだろう!? 年上だし、世界を救う方だぞ! 敬え!!」

「はぁ? アタシはネコの師匠でもあるんだから、別にいいでしょうが。だいたい、ネコ本人がそう呼べって言ったのよ!」

「それでも、遠慮というものがないのか! 伯爵令嬢のくせに!」

「アタシは貴族だろうが王子だろうが、こびへつらわないわよ!」


 ふんっとふんぞり返るアリシア。


 ん? こびへつらう女性陣が嫌いなユーリには、実はぴったりな相手なのでは?

 なんて過ったが、イケメン王子のユーリは現在私に想いを寄せているせいか、アリシアに激怒している。

 もう殴ろうと拳を固めていた。

 おいおい、女嫌いだからって、女の子殴っちゃいかんぞ。


 私が止めるより先に、手が出たのはクスベェ師匠だった。

 容赦なく、拳骨をユーリとアリシアの脳天に落とす。


「いったぁーっ!!」

「クスベリータ様!?」

「次口論したら、勇者様の拳が落ちるぞ。言っとくが、勇者様の本気の拳を受けたら……死ぬからな」

「「死……!!」」


 おい。師匠。

 真顔で嘘つくな。

 少年少女が信じて、黙り込んだじゃないか。

 え? ちょっと待って。

 私は一発で人を……?

 いやいや。まさか、ねぇ。


「それで? ネコ様。ユーリウス殿下の光の壁で回復役のミリアや後方攻撃をするアリシア嬢を守り、ネコ様とオレで相手の体力を削っていく。怪我を負ったら、回復してもらう。そういう戦法で間違いないか?」

「そうです。自分とユーリと師匠は連携に慣れていますが、アリシアもほぼ一人で戦ったことしかないし、ミリアに至っては実戦経験がない。いつ魔王軍の指揮官が来るかわからないですが、一刻も早く慣れるしかないでしょう。魔王軍のその他の魔物は、騎士団と冒険者達に討伐してもらいます。自分達が、指揮官を討つ。それが最善かと」

「……うむ。オレも同感だ」


 クスベェ師匠が賛同してくれる。


「オレが敵役をやろう。本気で切る。だから、回復役も気を抜くなよ」

「は、はい!」


 強者が敵役をやってくれるのは願ってもない。

 相手は強敵なのだ。クスベェ師匠ほどの相手ではないと、特訓にもならない。

 ミリアに激励を送るために、ポンと背中を叩く。


「始めるぞ」

「はい!」


 クスベェ師匠の特殊スキル・白光の斬撃が、飛ぶ。

 本当に、本気で切る勢いだ。

 実戦と変わりない。

 間一髪、アリシアと一緒にユーリの後ろに移動。

 ユーリの特殊スキル・光の壁で防いだあと、すぐさま風を纏い、猛スピードで挑む。

 アリシアの氷魔法の援護射撃の中、避けつつも剣を交じり合わせるクスベェ師匠。

 やはり強い。


「オレなら回復役から潰しにかかるぞ!」


 普段は待ち構えるようなスタイルなのに、ミリアを狙って突っ込んできた。

 回復役から潰すのは定石だ。

 ユーリの光の壁を乗り越える。


「させるか!!」

「させない!!」


 アリシアと私は、同時にクスベェ師匠の行く手を阻もうとした。

 それが連携と呼ぶにはお粗末すぎるもので、私の左腕が凍らされる。

 骨まで凍るような痛みに、呻いた。


 いくら耐性があっても痛いものは痛いなぁ!!


「中断。ミリア、治癒魔法を頼む」

「は、はい!」

「こんな感じか。二、三日では、そう簡単に連携は取れないぞ。敵さんがそれまで待ってくれるといいが」

「ぐぅううっ」


 ミリアに治癒をしてもらいつつ、私は悔しくてクスベェ師匠を睨む。


「ネコが飛び出すから!」

「そうやって責任転換するな!」

「口論やめろ」


 アリシアが私のせいにするから、ユーリが怒る。

 それを一言で止めておく。


「アリシア。なんかその言動に信念的なものを感じるが、不老不死とはいえ人に怪我を負わせたんだ。ここは謝るべきだろう?」

「っ……。……ごめん、なさい」

「うむ、謝罪を受け入れる。俺も配慮が足りなかった。すまない」


 アリシアを叱れば、躊躇のあとに謝罪を口にした。

 それから、私も謝っておく。


「なんで、ネコ様が謝るんですか?」


 納得いかないとむすっとした顔をするユーリ。


「俺がフォローに回ればいい話だ。大魔法使いのアリシアに、存分に魔法を発揮してもらうためにな」

「それでは、勇者ネコ様の負担が大きいのでは……?」


 また挙手をして発言をするミリアに笑って見せる。


「大丈夫。俺は一番体力があるし、素早さも一番のはず。それに、こんなちっこいけど、俺は大人だ。任せとけ」


 グッと親指を立てて見せれば、またミリアが「はうっ!」と顔を覆った。


「もう一回、お願いします。クスベェ師匠」

「おう。行くぞ」


 距離を取ってから、再開。

 その日は魔王軍の襲撃はなかったため、夜が暮れるまで続けた。

 翌日も、完全回復したアリシアがやる気満々だったため、朝早くから行う。

 昼に差し掛かる時間帯になると、魔王軍が向かってくるという情報が届けられた。


「ミリア。行けるか?」

「はい! 覚悟は決まりました!」

「よし。俺が運ぶ」

「はひっ!?」


 ミリアの意志を確認した私は、ミリアをお姫様抱っこする。

 これ以上ないくらい顔を真っ赤にしているが、ミリアのいつもの反応だ。

 お構いなく、風の魔法を行使して、吹っ飛ぶように戦場に赴いた。

 幸い、例の魔王軍の指揮官はいない。

 いつもの捨て駒を送り込んだのだろう。

 だから、ミリアの実戦慣れのためにも、強敵の打破のためにも、連携を保ちつつ挑んだ。

 そんな日々が、一週間続く。

 ミリアの鑑定の結果、私のレベルはレベル29まで上がった。

 あと1で、レベル30だ。

 もう少し、あと少し。

 レベル30なら、なんとか余裕で行けると思う。

 しかし、もう時間はもらえなかった。

 一服していた夜に、襲撃が来たのだ。

 それも街の真ん中に、魔王軍の指揮官である魔物が現れた。


「飛んできてあげたわよー! さぁ、根絶やしにしてあげるわ!! あはははっ!!」


 吹っ飛んできたらしい。文字通り。

 念のため、ドワイド伯爵の家で寝泊まりしていたアリシアとミリア。

 そしてユーリとともに、高らかに笑いながら街を破壊する魔物に向かう。


「クスベリータ師匠は!?」

「どこかに出掛けてしまいました!」

「くっ……!」


 クスベェ師匠だけがいない。

 街の前線では冒険者や騎士団が戦っているようで、爆破の音がここまで聞こえてくる。

 もしかしたら、夜たまにそっちに顔を出していた。

 足止めを食っている可能性がある。


「やるしかない、な」

「っ、ですね」

「やってやろうじゃない」

「はい!」


 クスベェ師匠という大きな戦力が欠けていても、戦うしかない。

 ここまで侵入されたのだ。街が完全崩壊させられる前に、倒す。

 話では聞いていたが、三メートルの巨体は思ったより大きく感じる。

 そして、肌にビリビリと感じる嫌な気配。

 初めて対峙した魔物とは比較にもならない。

 圧倒的な強敵。

 私がここまで感じるのだ。

 ミリアやユーリの反応が気になる。大丈夫だろうか。


「あーら? あなた、この前深手を負わせた冒険者の小娘じゃない」


 私達を目で確認すると、強敵は真っ先にアリシアに声をかけた。


「傷が治っているわね……」


 不思議そうに、長い爪の生えた指を頬に当てるが、可愛くない。

 ビキニのような布で隠してある巨乳があるが、顔が狼のような、蝙蝠のような、またはそれを合わせたような顔立ちだからだろうか。

 蝙蝠の魔物と言われれば、納得だ。

 手足はアリシアの報告通りの筋肉質であり、もふもふに包まれていた。

 背中には巨大な蝙蝠の翼を生やしていて、バサバサと羽ばたかせて飛んでいる。

 全体的に黒い巨体だ。


「アタシは小娘じゃない!! アリシアよ!!」


 どんっと言い放つアリシア。


「あら、それは失礼したわ。でも、これから殺すんだから覚えても無駄じゃない?」


 にんまり、と口を歪めて嘲る強敵。


「そう言うなよ。これからアンタを倒す連中の名前くらい覚えた方がいいんじゃないの?」


 私はそう声をかけておく。


「あなた……女? 男?」

「うっせーわ!!」


 同情の目を注いでくれるから、私は一蹴した。


 胸か!? 今胸に注目したな!? 男装中なんだからいいんだよ!!!


「俺の名前はネコ!」

「ユーリウス」

「み、ミリアと申します!」


 私に続いて、ユーリもミリアも名乗った。


「それで? したっぱ魔王軍の指揮官さんのお名前は?」

「したっぱぁ? 言ってくれるじゃない。でも猫が毛を逆立てているようにしか見えないわね。教えてあげる。ワタシの名前は、ヨーエルシ! このシンティリオ王国を壊滅するように、偉大な魔王様から任命されたのよ! 光栄に思いなさい!」

「ヨーエルシ。では命懸けの勝負をしようじゃん。アンタは強いから、俺達四人を一度に相手にしても構わないよな?」


 ヨーエルシという名前の魔物に許可を求める。


 まぁ、嫌だと言っても、多数で挑むことはすでに決定事項だけれどね。


「来なさいよ! 蹂躙してやるわ!!」

「”ーー氷壁ーーヨギアムーローー”!」


 瞬時に、アリシアが氷の壁を作り上げる。

 ヨーエルシの視界を遮ったところで、ユーリの後ろに移動した。


「特殊スキル・超音波!!」


 事前に聞いていたヨーエルシの特殊スキル。

 氷の壁を打ち砕くが、光の壁には通用しない。

 特殊スキル・超音波が止んだとほぼ同時に、私もアリシアも前に出て、攻撃を仕掛ける。


「「”ーー凍てつかせ、氷の矢ーーフレチャレーギャーー”!」」


 これも打ち合わせ通り。

 氷の弓矢を当てようと、アリシアと一緒に矢を放つ。


「何故怯まない!?」


 光の壁にまだ気付いていないヨーエルシは、驚きを見せる。

 これも作戦通り。

 ヨーエルシの情報は、多少手に入れている。超音波を受ければ、怯むになるのだ。アリシアが身を持って味わっているから、知っている。

 しかし、ヨーエルシの方はこちらの得意な魔法などを把握していない。

 何故なら、送り込んだ魔物はちゃんと仕留めていた。だから、こちらの戦力も、ろくに把握していないのだ。

 レベルは上でも、戦いは有利のはず。


「”ーー風よ踊れーーヴェンドターンーー”!」


 風魔法で、氷の矢を全て叩き落した。

 問題は、そう。

 クスベェ師匠抜きで、私達が、どれほど体力を削り続けられるかだ。

 レベル差を、このメンバーでカバーし、倒す。

 私はぺろりと自分の乾いた唇を舐めたあと、ニヤリと口角を上げた。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る