第12話 いたずらっ子 世にはばかる。

部屋の扉は鉄製で、ユキの身長の三倍近くの高さがあった。その扉の横には複雑なパネルが何枚も積み重なったものがはめ込まれていた。どうやらパズルのようで、これを解けば自動的に扉が開く仕組みになっているようだ。

 しかし、ユキはそんな細かいところに神経が行く性格ではなかった。

「どんな扉でも、押せば開くよね。」

 そういうとぐいっと扉を押した。が、少し音がした程度で扉が開くわけではなかった。

 ユキは少しイライラしてその扉を強く蹴った。パキパキという音が聞こえた。この音は扉ではなく蝶番の壊れる音だった。

 当然、蝶番の壊れた扉は部屋の内側に盛大に音を立てて倒れた。

「開いたよ!何でかな?」

「ぎゃー!!」

 倒れた扉よりも奥のほうで誰かが叫んでいた。その声が響いていることからかなり広い部屋のようだった。

 ユキはゆっくりと声のほうに近づいた。

 先ほど、ユキが嗅いだ匂いが不快なほど立ち込めていた。大小と水晶玉が数え切れないほど転がしてある。鼓動のように点滅して、ユキの足元を邪魔した。インテリアも断末魔をあげる動物たちをかたどったオブジェが何体も並び、照明はそれをあざ笑うかのような悪魔が天井から釣り下がった形をしていた。

 そのオブジェに囲まれた中央に天井近くまで伸びた高いやぐらが組まれ、その上にベールにつつまれた大きな卵があった。

「あの中に人がいるんだ。」

 ユキはサルのごとくやぐらをすばやくよじ登り、ベールを掴んだ。そして

「誰かいませんか。」

 と軽くベールを引っ張った。いや、彼女にとっては軽く引っ張った。

ベリベリベリベリ

ベールは無残にも破けた。その敗れた穴からユキは卵の中に進入した。

中には人がいた。その人影にユキは見覚えがあった。

「昼間の亀さんだ!」

 そう亀ではなく、昼間若者にいじめられていた甲羅を背負っていた老人である。

小さな老人は震えていた。当然だ。あんなでかい鉄の扉をぶっ壊し、高いやぐらをいとも簡単に登ってきた不法侵入者だ。誰だって怖い。

「こ、小娘…いいからあっちに言ってなさい。」

 聞こえるか聞こえないかのか細い振り絞った声だ。老人の顔は恐怖もあるが、かなり疲れたようで青ざめていた。

 その後ろで青白く輝いているものが見えた。それをユキは甲羅だと思っていたが、器のような形をした鏡だった。

「…早く出て行きなされ。」

 老人は小さく手でユキをはらったが、ユキは近くで座り込み自分の家のごとくリラックスしていた。

「疲れてるみたいだから亀さんも休んじゃえばいいじゃん。」

「そんなことをすれば、あやつらになんと言われるか…」

 そういって老人は後ろにおいてある鏡をちらちら見た。

 ユキがその鏡に手を伸ばそうとすると必死の形相で鏡を隠した。

「ねえねえ、それなあに?」

 ユキの顔はたちの悪いいたずら小僧と同じ笑顔だった。

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