第8話 曲芸なんてテンション上がらないと見てられない

城では鯛や平目の舞い踊りは無かったが、青年たちによるショーが繰り広げられていた。玉乗り、ブランコ、軟体ショー。しかし、張り付いた笑顔のまま踊り飛び回る青年たちは明らかに気持ちが悪かった。

――― 一向に楽しめません…

ミサはお酒にも飽き、仕方なくそのショーをしばらく見ていた。ティカはそのとき、革貼りの大きな椅子に座り、次々にお酒を飲み干して青年たちに歓声を上げられている。

 ユキにも言ったとおり、料理に問題は無かった。問題は料理以外のこの空間そのものだ。ミサには違和感しか感じられない。

 そして、もうひとつの違和感を発見した。

「…ユキさん。」

 先ほどから、今まで料理をかたっぱしから平らげていたユキが見当たらない。

 ミサが辺りを見回しユキを探し、ふと出口に目をやると、ちょうど部屋を出る人影が見えた。身にまとった鎧から見るにサタナである。

 彼はこの宴会の中で普通だった。何も気になるところはなかった。しかし、それが逆にあやしい。この違和感だらけの青年の中であの青年だけは普通の表情。しかも、ショーに参加するわけでもお酒を注ぐわけでもなく、ワイングラスを持って時々ミサに「楽しんでますか。」と声をかけているだけだ。

―――私と同じなんでしょうか。

 青年たちのような主催者側でもなくこの宴会を楽しんでいるのではなく、観察する傍観者。それが、何故この宴会にいるのだろうか。

 ミサはユキを探すべきか彼を追うべきか少し考え、サタナの後を追った。

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