第9話 口説くなら月夜の晩に
月明かりが雲に少し隠れ、また顔を出す。そんなことを繰り返していた。
その月がよく見えるテラスに一人の青年がいた。サタナである。
サタナはグラスに紫色のカクテルを入れ、そのカクテルに月を映していた。
そのグラスに自分の姿も映る。
「あいつらも、ただの生贄に終わるか。少しは期待していたんだが。」
「私たちのことですか?」
サタナがギョッとして振り返るとそこにはミサが笑顔でたっていた。
「い、いつ…」
「さっきからいましたわよ。」
サタナはミサが手に持っている竹箒を指差した。
「いつ、どっからだした。」
ミサはにっこり笑った。
「企業秘密です。」
そういった後、サタナの視界から一瞬ミサが消え、再び現れたときには箒の柄を彼の首筋に当てていた。
箒で首筋が切れるはずがないのにサタナの額から一筋の汗が流れた。
「どういうつもりだ。」
「それはこっちの台詞です。私たちを術で動けなくしてどうするつもりだったんです?」
彼の表情が一瞬こわばったが、やがて楽しそうに笑い出した。土で遊んでいた子どもが見たことのない虫を見つけたような無邪気かつ残酷な表情だ。
「村の名前、この前手配書で見た盗賊名と同じだったので警戒はしていました。この村に呼んだ人々が宴会に夢中になっている最中にだんだんと術で動けなくしてすべての有り金を取っていく。動かなくていい簡単な強奪方法ですね。」
「そこまでわかってるわりにちょっと抵抗しただけで簡単に城まできたじゃないか。」
ミサはその言葉に月明かりのごとく冷たく微笑んだ。
「たまにはこういう歓迎を受けるのもお二人には楽しいかと思いまして。それに」
ミサはさらに強く首筋に箒を押し付けた。
「まずくなったら私がここにいる全員を倒せばいい話です。」
ミサははっきりと言った。その表情からサタナはハッタリではないと察した。
「で、全員倒すはずのお前が、なぜ俺のところへ来たんだ。」
「あなたが一番危険だからです。」
サタナの表情が消えた。
サタナはじっとミサの瞳の奥を見つめた。紅茶色の瞳は夜空を映してより不思議な色に染まっていた。
「…俺だって普通の男だぞ。」
「私の鼻を見くびってもらっては困りますね。これでも少しは魔法にかかった身。魔法使いと何度か触れて“魔”というものを感じ取れるようになりました。」
ミサの目が厳しくなる。
「貴方は魔族でしょう?」
―――カシャンッ
サタナの持っていたカクテルグラスが噴出した水しぶきのように割れた。
サタナの瞳孔が猫のように細くなった。
「……お前、何もんだ?」
その質問にミサは微笑んでこう答えた。
「通りすがりの元シンデレラです。」
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