第10話 空腹が満たされると別のことが気になる

そのころユキは城をうろちょろしながらドアを開けていた。

鎧庫。

寝室。

書物庫。

「おっかしいな。」

 彼女はミサの様子が気になり自分なりに城の捜索に出た、わけではない。トイレにいった帰りに迷ってしまったのだ。

「だから広いうちは嫌いなんだ!目印もないし!森のほうがよっぽどわかりやすい。」

 確かに同じようなレンガの壁と廊下が続いているのでわかりにくいが、森のほうがわかりやすいと普通の人ではあまり理解できない文句を言いながら城内を駆け回った。

「…しかたないなぁ。」

彼女は最後の手段に出ることにした。目を瞑り神経を鼻に集中させる。説明すると彼女は森で育った野生児であり感覚、特に嗅覚は人の数倍の能力を持っているのだ。これによって今まで平らげまくっていた美味しい料理のにおいを嗅ぎ取り宴会場に戻ろうという結構いやしい手段を使おうとしているのだ。

 しかし、彼女の鼻に入ってきたのは違う匂いだった。

 妙に鼻につくお香のにおいだ。彼女がまだ森で暮らす前に義母の部屋を覗いたとき、これに近い匂いを嗅いだような気がした。この匂いがじゃまで料理の匂いがかげない。匂いの先は宴会場ではなさそうだが、人がいることは確かだ。その人に聞いてみよう、とユキはその部屋に走って向かった。

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