第2話 自己紹介を紅茶と共に

「シンデレラってえとあのガラスの靴とかで有名な…」

「ええ、でも、貴女方の知っている話とはだいぶ違うようです。確かに私の継母とその長女は性根の腐った方々でしたが、次女のトゥラ姉様はとても優しい人でした。ですから、姉様へのせめてものお礼としてガラスの靴はあげてしまいました。」

「よく、その王子様はお気づきになりませんでしたわね。」

「王子様はド近眼でしたから…」

「………」

 おっとりがにっこり笑って続ける。

「そして、私の家族は城へ住み、自由になった私は旅に出ることにしたんです。ちなみにシンデレラというのは私の地方の悪口で、本名はミサといいます。」

 二人は“ミサ”があまりにもすらすら話すのでしばし呆然としていた。

 が、先に咳払いをして口を開いたのは高飛車のほうだった。さっきまでの動揺を消すように優雅にティーカップを皿に置く。

「この紅茶、なかなか美味しくてよ、ありがとう。ワタクシの名前はターリア。某F国の王女ですの。下界の民はワタクシのことを眠り姫と呼びますわ。」

「眠り姫ぇ?!」

 おてんばがまたお茶を噴出して今度は立ちあがった。ミサがすかさず次のお茶をカップに入れる。

「でも私の聞いた話じゃ、王子様がなんやかんやの試練を乗り越えてあんたを迎えに来てキスまでしたっていうだよね。こんなところで旅なんかできるわけが…」

「オーホホホホホ!!貴女方もだまされましたわね。」

 彼女は立ち上がり、舞台の上で舞うように話し始めた。

「あれはお芝居…そう、素敵な殿方を引っ掛けるための…」

 そういって彼女は大げさに倒れこみ泣くまねをした。

「イバラの道を切り裂き、竜を倒したぐらいの勇気に満ち溢れた殿方ならさぞかし容姿、頭脳ともに素晴らしい人だろうと思ってましたのに…来るのは高貴なワタクシにはとても似つかわしくない不細工庶民顔ばかり・・・城に雇っていたエキストラ代が無駄になってしまいましたわ。」

 そしてターリアは天を見上げこぶしを握り締める。

「私はその不細工庶民顔を見て誓ったのです。旅に出て、私に似合う最高の殿方を探し、自国の王にしようと!!」

 ミサは舞台を一個見終わったように笑顔で拍手をしていた。

 おてんばは開いた口がふさがっていなかった。

ああ、哀れ。お姫様のお話の中ではトップクラスのロマンチックさを誇る『眠り姫』の真実。いやそれよりもおてんばの中では、こんな自分の男探しのためにこんな計画を立てる女がこの世にいることにカルチャーショックを受けた。

 しかし、世に流れる物語と真実が違うことはおてんば自身が身をもってよく知っていることだった。

 おてんばは紅茶をぐいっと一気飲みした。

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