第3話 結婚破談からの珍道中
「私は、白雪姫。」
二人はへぇと少しもらしたぐらいだった。そりゃそうだ。ここまできたらそんなことでは驚かないだろう。
ただ、自分の話であまりリアクションが取れなかったことは正直残念だった。
「私さ、鏡うぬぼれババァの手下に殺されそうになって城を逃げてきてさ、ドワーフのおっちゃん達と宝石鉱山で9年間働いてたんだ。」
彼女は腕まくりをした。
「で、ついたのはこの筋肉。」
たしかに、彼女の体系にしては不必要なほどの力こぶがそこにあった。二人は少々たじろいた。
「生まれたころに白くて雪のような肌をしてたかなんかで白雪姫って名前をつけられたけど、それも今じゃ小麦色。鉱山を襲いにくる盗賊なんかを倒してたから、戦闘が趣味になっちゃった。」
「ストップ。」
ターリアが話を止めた。
「なに?」
「貴女にもあるんじゃなくて?ワタクシ達の知らない物語の真実が。」
「言ってもないのによく分かったね。でもこの物語的にはあって当然なんだけどさ。」
白雪姫は茶菓子の中からアップルパイを取り出した。
「私は、確かにあのババァからもらった毒林檎を食べた。でも、その毒、健康的な私には全然効かなくって、とうとう十個めで毒が効いたと思ったら…」
二人は身を乗り出して聞いていた。
「その毒…下剤だったの!もう死ぬほどおなか痛くなってぶっ倒れたら、おっちゃん達が何を勘違いしたのか私を棺桶に入れちゃうし、王子があけるまで必死に我慢して・・・で、王子が蓋を開けた瞬間に家に帰ってトイレに行って、戻ってきたら王子がまだいて、なんか結婚してくれとか言うからNOの一言でKO!!どう、びっくりした?」
二人はティーカップを落とした。びっくりとかではない。彼女の話には救いようがなかった。王子が哀れすぎる。
まだ自分たちのほうがましだと思った。
「そんで、このままいつまでもおっちゃん達の世話になるのは悪いなと思って旅に出ることにしたってわけ。旅に出ればもっと強いやつとあってすごいやつと手合わせできるだろうしね!」
白雪姫は先ほどのアップルパイを一口でほおばり、すぐに飲み込んで手を上げた。
「ハイ!ここで提案があります!別にみんなには目的地がちゃんとあるわけじゃないみたいだから、ここから先三人で旅をしない?」
ミサとオーロラは顔を見合わせ、すぐに白雪姫の方を向いた。
「確かに、目的地はありませんわね。超殿方生息地なんてわかりませんし。」
「こうしてすぐにお茶会が開けてるんだから、気は合ってると思うし。」
「似たもの同士ですし。」
「よし!決まり!旅は道連れ世は情けだよね!!」
「でしたら…」
ミサは手を出した。
「握手をしましょうか。白雪姫さん、ターリア姫さん。」
白雪姫は力いっぱいミサの手を握った。
「よろしく。でも白雪姫は長いからユキでいいよ!」
その言葉にターリアが反応し、握ろうとした手が止まった。
「どうしたの?」
「某F国王女ターリアの名前は目立ちますわね…」
「じゃあティカで!」
ユキは即答した。
「ティカ?」
「今飲んでる紅茶のティーに高飛車のカでティカ。」
「誰が高飛車ですって!!」
また喧嘩をし始めそうな二人をミサがやんわり止める。二人が呼吸を整えた。
「まぁ、この名前としては庶民の考えにしては上出来の部類ですわね。」
「何それ?まぁいいや。よろしく、ミサ。ティカ。」
「「ええ。」」
「そこまでだ、お嬢ちゃんたち…」
森の中にどすぐらい声が響いた。人の気配がだんだん増えている。
「なんですの?」
ティカの言葉にユキが耳をすませる。
「たぶん…盗賊」
「なんでわかるんですの?」
「勘?」
「さすが野生育ち…」
「それは余計。」
ティカは優雅に立ち上がりかばんの中から小さな杖を取り出した。ユキは背負っていた斧を手に持って可憐に戦闘態勢。
緊張感があたりに漂っている。
そのときミサは華麗にお茶会セットをしまっていた。
すると、ミサの後ろから男が登場した。
「身ぐるみ全部おいていきな!!」
ミサは聞いていないのか無視しているのかまだしまっている。
「おじ様方が素晴らしく素敵な殿方ならばすぐにでも置いていくのでしょうけど…」
「私のぼろい服なんて売れないよ。」
「足、ランチョンマット踏んでます。どいてください。」
何にも動じない彼女に男はいらだった。
「うるさい女だ!!やっちまえ!」
その言葉に草むらに隠れていた盗賊が現れ、三人にじりじりと近寄ってくる。
「大丈夫?」
「これくらいは余裕ですわ!」
「なんとかなると思いますよ。」
「弱そうだし!」
そういってユキは斧を振り上げ盗賊を一人なぎ倒した。
ティカは杖を小さく振ると杖が光り、盗賊が三、四人吹っ飛ぶ。そして、残りの男たちがまだ片付けているミサの元に行く。
「ミサ!危ない!」
そのとき、ミサに向かって武器を出した男たちが一斉に倒れた。倒れた男たちの真ん中に竹箒を持ったミサが立っている。
ミサがゆっくりと息を吐いた。
「危なかったですね。」
二人は疑問があった。ミサが強いことじゃない。この長い竹箒がどこにあったかだ。
最初に出てきた男は青ざめて腰を抜かし、立つこともままならないのか這いつくばったまま虫のように逃げていった。
そして、お茶会セットはやっと片付いた。
盗賊よりもミサのマイペースが二人は怖かった。ので、ミサには最初に話をふらず、ティカはユキに話しかけた。
「その斧はどうしたんですの?」
「…あ、おっちゃん達に護身用にもらったの。その杖は?」
「ええ…旅立つときに妖精の一人からいただきまして…」
二人はゆっくりと視線をミサに戻した。
「この竹箒は、家から…」
「どっから出したの!?」
ユキは思い切って聞いたが、ミサは不敵な笑みを浮かべるだけだった。二人はそれに合わせて無理して笑顔を作った。
「行きませんか?」
「…そうですわね。」
「…いこっか!!」
麗かな春の昼下がり、こうして三人の姫君たちの奇妙な旅が始まった。
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