第17話 伏線としての靴

 空は雲ひとつない晴天で再び歩き出すには絶好の天気だった。

「まさか、あなたが蛇だとは思いませんでした。」

「違う!!」

 ミサの言葉をサタナは必死に否定した。

「俺が今、堕天使だから蛇なんだ。本当の姿はあれじゃねえ。」

「でも、随分ゲテモノ好きだね。」

 ユキの言葉も否定した。

「腹に罪人を入れて天界に運ぶのが俺の仕事なんだ。別に好きで男なんか食べてんじゃねえ。」

 サタナはミサの手を握った。

「俺が食べてえのはお前みたいな面白い女だ。」

「まあ。」

 ミサは竹箒でサタナをぶっ飛ばした。

「私はそう簡単にはいただけませんよ。」

 サタナは痛そうだが、嬉しそうな表情をしていた。

 サタナの背中に大きな羽が生えた。

「じゃあ、俺は行く。色々忙しいんでな。」

「他にも仕事があるんですの?」

 ティカは昨日の怒りが治まっていないのか不機嫌に質問した。

「もう一つな。次会った時に話すさ。」

 サタナは大きく羽ばたいた。

「私は別に会わなくてもいいのですが。」

 ミサの言葉にサタナは苦笑いした。

 そして太陽のほうへサタナは飛んでいった。

 ミサは先ほど握られた手をゆっくり開いて中を見た。

「困りましたね…」

もう片方の手で包んで、飛んでいった方向をしばらく見つめていた。



「あー疲れた!!休もうよー!!」

「もうですか?まだ昼ですよ。」

「朝から歩きどおしだったらだいたいの人間は昼には疲れますわよ。」

 そのとき、ティカは道の端に『泉はこちら→』という看板を見つけた。

「ねぇ、ミ・サ。向こうに泉がありますの。綺麗な泉を見ながらティータイムって素敵ですわ。」

 ミサはピタリと立ち止まって考え始めた。

 そのミサを二人はぐいぐい押して無理やり泉の前に連れて行った。


「うわー!!きれい!!」

 ユキは泉のほうへ子犬のように走って泉のすぐそばまで行き、荷物を置いて手で水をすくって遊び始めた。

 小鳥がチイチイと鳴き、木々の間から光が差していた。

「のどかですね。」

「ええ…」

「そういえば、ミサ。」

 ティカがミサの顔をぐいっと覗き込んだ。

「何でしょうか。」

「先ほど、何をもらいましたの。あの堕天使から。」

 ミサは一瞬ぴたりと止まり、ティカから目を逸らした。

「何のことでしょう?」

「とぼけても無駄ですわ。あれは手を握ったのではなく、何か握らされたんじゃなくて?」

「…」

 ミサはこのまま黙っていても仕方がない、とため息をついてポケットの中から渡されたものを取り出した。

「困った贈り物なんです。」

「どうしてですの?」

 ミサが取り出したものはペンダントだった。ペンダントをもらった事は問題ではない。問題は先についているものだ。

 先には小さな片方のガラスの靴がついていた。

「これを持っていたら、いつか迎えに来てしまうではないですか。」

「困りますの?」

 ティカが意地悪く質問すると、ミサは唇に人差し指をあててウインクした。

「企業秘密です。」

 ティカはやれやれと両手をあげた。

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