手をつないで。
初めての宝物。
それは両親がくれた、たわいのないおもちゃであった。
まだ自分が「セイハイ」なんて呼ばれる前はそれでばかりで遊んでいた。
それで遊んでいると両親はいつもすごいと誉めてくれた。
近所のおじさんたちにもおもちゃを見せればみんなが笑っていた。
村には当時同年代の子供が居なかった。
若い人はみんな働いている。
ワタシより若い子供は赤ちゃんだった。
だから私はいつもいつも近所のおじいちゃんやおばあちゃんたちと遊んでいた。
みんなに宝物を自慢した。
宝物の使い方を教えてあげた。
そしたら何時しかみんなはワタシのことを「シンドウ」と言いはじめた。
みんなが誉めてくれた。
だからワタシは宝物に夢中になった。
夢中で遊んでいた。
そしたらみんなが居なくなった。
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
わたしはまた同じ失敗をした。
「……ネコ様――――。」
ネコ様と一緒に撮ってもらった「シャシン」。
私の新しい宝物。
可愛いお洋服を着て、ネコ様と並んで写っているそのお札に夢中になっていた。
ネコ様のお話にも、「シャシン」を見ながら話していた。
ネコ様は「ガクブチ」と言う「シャシン」を入れて飾っておけるものも用意してくれると言った。
ワタシはますます嬉しくなった。
ワタシはますます「シャシン」に夢中になった。
だから罰が当たったのかもしれない。
ネコ様が優しくて、それに甘えてばかりで、貰うばかりで、1人で夢中になって、
だから神様が罰を与えたのかもしれない。
おとーさんとおかーさんが居なくなった時と同じように、ネコ様もいなくなってしまったのかもしれない。
呆然とした。
初めて誰かが助けてくれたのに。
自分が他のことに夢中になってしまったからいなくなってしまったのだ。
ただただ、ネコ様だけを見てればよかった。
何も望まなければよかった。
そうすればずっとネコ様と一緒に居れたかもしれないのに。
いつの間にか壁際にいた。
目の前にはたくさんの人たちが歩いている。
昨日までいた世界では、皆がワタシをめぐって争っていた。
ワタシには争う価値なんかない、そう訴えても誰も聞いてはくれなかった。
そして誰もいなくなったのだ。
だけど。
この世界の人達は私には興味がないのだろう。
みんなが笑顔で、幸せそうにしている。
ワタシが居てはいけない世界じゃないのかな。
「君、どうしたの?」
消えちゃいそうになっていたら声を掛けられた。
うつむいて足元を見ていたので最初はワタシに声をかけているとは気が付かなかった。
「ねぇ、もしかして迷子かな。」
優しい声。
おとーさんに似ている。
そう思って顔を上げたら知らない男性がワタシの顔を覗き込んでいた。
「――――え?あの、」
ワタシが戸惑っているともう1人男性が近寄って来た。
「お父さんかお母さんはいないのかい。」
そう聞かれて胸が痛くなった。
「――――おとーさんもおかーさんも、もうどこにもいない。」
ワタシがそう答えると、2人の男性は顔を見合わせて困った顔をしている。
「えっっと、――――お嬢ちゃんの名前は?」
「フィール、ネコ様がくれた名前。」
「フィールちゃんか、それでそのネコ様って人とここに来たのかい。」
「……うん。」
「そのネコ様は何処に居るんだい。」
「ネコ様いなくなっちゃった。ワタシがちゃんとネコ様を見てなかったから。」
「そうなのかい、ねぇ、ネコ様はどんな人。」
「?」
「お兄さんたちがネコ様を探してあげるから、ネコ様のことを教えてくれるかな。」
「え?――――えっと。……ネコ様は黒くてつやつやで、お髭が可愛らしい――――あっ、そうですシャシン。ネコ様と一緒に撮ったシャシンが。」
ワタシは手を見る。
良かった落としていない。
写真を見てみればネコ様もワタシもちゃんと映っている。
消えたりしていない。
「このお爺さんがネコ様かい。」
「はい。」
「よしそれなら――――
「フィール――――。」
そこで微かに私を呼ぶ声が聞こえた。
「っ、――――ネコ様!」
思ったより大きな声が出てしまった。
でもそのおかげでネコ様に届いたみたい。
人波の中からネコ様がやって来る。
その顔には焦りがあった。
あぁ、心配してくれたんだ。
そんなワガママな思いが心の中に沸いて来た。
「フィールよかった。ご――――
「ごめんなさい。」
ワタシはネコ様の顔を見てすぐに謝った。
「ちゃんとネコ様を見て付いて行かなくてごめんなさい。」
ネコ様は驚いた顔をしている。
「ワタシ、……ワタシ、ネコ様と撮ってもらったシャシンに夢中になってしまって――――。」
そしたらネコ様はちょっと困ったような優しい笑顔を浮かべながらワタシの頭をなでてくれました。
それを――――ワタシは謝っている途中だというのに嬉しいと感じてしまったのです。
なんてワガママなんでしょうかワタシの心は。
「フィールが謝ることはないんだよ。謝るべきは吾輩だ。吾輩がしっかりとフィールのことを見ておけば良かったのだ。」
なでなでと、大きな手で優しくネコ様は撫でてくれます。
「何でですか。なんでネコ様が謝るのですか。」
「ではなぜフィールが謝るんだい。」
「それはフィールが悪い子だからです。ワガママな事ばかり考えてしまうから――――」
「そんなことで謝る必要はない。吾輩にはいくらでもわがままを言っていいんだ。」
「何でですか。」
「吾輩がフィールを助けると誓ったからだ。」
ネコ様は空いてる手で私の手を掴んだ。
「この手を放さずに共に生きると、そう誓ったのだ。」
ネコ様の手は大きくて暖かくて、そして肉球みたいに柔らかかった。
「ならばわがままを言います。もっと撫でてください。」
「お安い御用だ。」そう言ってネコ様はワタシの頭をいっぱい撫でてくれた。
ワタシの目から涙がこぼれる。
いつのころからか枯れていた涙があふれてきてしまった。
ワタシはネコ様の手を握って離さないと心の中で誓った。
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