畳の部屋

 フィールはお風呂から上がってドライヤーというもので髪をゴーとされた。

 それもあってかフィールの体はぽかぽかになっている。

「はれ?ネコ様、そう言えば靴は?」

「この世界ではね、家の中では靴は履かないんだよ。」

「そうなのですか。――――はっ、まさか今ネコ様が床を拭いてるのはフィールが汚したからですか。」

 慌てて自分が、と手を伸ばすも。

「いいからいいから、フィールをいきなり部屋の中に連れて来たのは吾輩なのだから。」

 そう言ってネコは猫の姿で雑巾がけをしていた。

「フィール、ここはいいからあの座布団、ふんわりした敷物の上に座ってなさい。」

「いやです。ネコ様、ワタシはただ座っているだけより働いてるほうがいいです。」

「そうかい、それじゃあ手伝ってもらおうかな。」


 ネコは用意していたバケツにもう1枚ぞうきんを入れて硬く絞る。

「はい、これを使って。ただ、まだこっちに来たばかりだ。無理をせずに疲れたらすぐに休むんだよ。」

「ハイ、です。」

 元気に返事をしたフィールは受け取った雑巾で早速床を磨く。

「ところでネコ様、この緑の床は何ですか。」

「これは畳さ。」

「タ・タ・ミ?」

 と首を傾げるフィール。

「畳とはイグサという植物を編み込んだ、日本の伝統的な床だよ。」

「へ~、植物を。だから緑色なんですね。でも枯れたりしないのですか。」

「大事に使えば何年も使えるよ。それに、畳は交換がしやすいから裕福な家は毎年交換したりするね。」

「この畳、いい匂いがします。新しいやつですね。ネコ様はお金持ち。」

「いやいや、そこそこため込んではいるけどお金持ちじゃ……

いや、あるのかな?う~ん、比べたことないし。まぁ、生活に困るほどじゃないよ。この畳だってたまたま変えたばかりだっただけだよ。」

「ですか。」


「いいかい、フィール。」

「ハイ、何ですかネコ様。」

「畳には目がある。」

「目があるんですか。生きているんですか。」

「そう言う意味じゃないよ。この編み込みの向きのことを「目」と呼ぶんだ。」

「ほ~う、なるほど。」

「じっと見てると目に見えるからなんだけどね。」

「おおう、確かに。」

「それでこの目だけど、拭きやすい方向と拭きずらい方向がある。」

「ん、確かに。」

「吹きやすい方向に吹くのが正しい拭き方。これを目に沿って、と言う。」

「分かりました。」

「これを間違った方向で拭くと畳を傷つけちゃうから気を付けてね。」

「ハイ。」


 フィールはネコと一緒に床を拭いてピカピカにした。

「きれいになったです。嬉しいです。」

 そう言って笑うフィール。

 ネコはそれを笑って眺めながら雑巾などをかたずける。

 その時ふと目に付いたもので思った。

 フィールに掃除機を使わせたらどんな反応をするだろう、と。

 今度掃除で試してみようと思うのだった。

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