妖の宴会
「うにゃっ~ぁぁぁん。」
「こらこら、女の子がそんなお腹を出してゴロゴロするのははしたないぞ。」
「そんなこと言ったって~、畳でゴロゴロするの気持ちいいですもん。」
夏を過ぎ秋になる時期だが、日差しはまだ温かくポカポカなのである。
大きくあけ放たれた縁側からはその日差しがたっぷりと差し込んでいた。
「それにネコ様もお腹を出してゴロゴロしてるじゃないですか~。」
「吾輩は猫である。だからいいのだ。」
最近気温が下がり始めて肌寒くなってきたのでこの日向ぼっこはとても気持ちいいのだ。
「はぁ~、畳、いいですね~。ここに来た時汚しちゃいましたけど、ちゃんと綺麗にしといてよかったと思いますよ。」
日向の畳からはイグサの香りがする。フィール大の字になってその香りを胸いっぱいに吸い込む。」
「もう、フィールはワンピースなんだから……、ほら、スカートがめくれてパンツが見えちゃっているよ。」
「ネコ様しか見てないからいいですよ。」
「良くないよ。吾輩は雄だと言っているだろう。」
「いやぁ~、仲がいいね~、お2人さん。ちょいッとお邪魔するよ。」
と、庭から1人の人物が縁側に入って来た。
「あっ、亜羅紗さん。」
その人物を目にするとフィールは足を曲げて持ち上げて、「えいっ、」と上に伸ばして、その勢いで飛び上がるように起き上がった。
「こら、はしたない。」
とネコが怒る通りフィールのスカートは盛大にめくれ上がりおへそや鼠径部が見えてしまっていた。
「ははは、元気になったようじゃのう。」
フィールを見て亜羅紗嬉しそうに笑う。
「最初に会った時はネコの後ろに隠れておったのになぁ、うむ、顔色もいいしいい表情をするようにもなった。」
「えへへ、ネコ様のおかげです。美味しいご飯をいっぱい食べさせてくれましたから。」
言う通り、フィールはいまだ小柄でやせているが、その肌の色は血色がよく、肌の荒れも治まって艶やかになっている。
「それでネコよ。今日は暇か?」
「見ての通りゴロゴロしてますが。」
「私が来たとたん置物みたいに姿勢を正しておいてか。」
「客人が来れば姿勢を正す、それは紳士としての振る舞いですから。」
「私としてはさっきのへそ天でもてなしてもらいたいところだあがな。」
「ご冗談を、天主殿にそのような姿は失礼になります。」
「そんなことないのだがな。なぁ、お嬢さん。」
「そうですね。ネコ様のお腹はモフモフしているのですごく気持ちいいですよ。」
「という訳で私にもモフらせたまえ。」
「嫌ですよ。それより今日はどんな御用で、」
「なに、宴会しようぜ。と誘いにきた。」
「それで、どうして吾輩の家で宴会になるのだ。」
ぼやくネコの前でネコの家の大広間が飾りつけされていく。
「そりゃぁ今回の宴会の主賓はフィールの嬢ちゃんだからな。題して「フィールちゃん歓迎会。in猫屋敷」だ。」
そのまんまである。
広間にはひな壇が作られてそこにフィールが据え置かれている。
その上には「フィールちゃんようこそ猫屋敷町へ」と書かれた垂れ幕が下がっている。
他にも飾りがあるが、酒やご馳走が目立つ。
働いているのはほとんどが二足歩行をする小動物達だ。
ネコの住む街は猫の妖を中心にした町だ。
「他所の街からも集めたのですか。」
「もちろん。なんたってアンタが眷属を作ったんだからね。みんな祝いたがっているよ。」
そう言われては文句が言えなくなる猫だった。
その後飾り付けが終わり、夜のとばりがおり始めた頃に宴会は始まった。
始まると同時にネコの部屋には客人たちがやって来た。
「おおきにフィールはん。」
「あっ、常吉さんこんばんわです。」
最初にやって来たのは妻のヨシコを連れたタヌキの常吉だった。
「こんばんわ。よう似合っておりますな。」
今のフィールはひな壇らしく着飾っている。
さすがに十二単ではないが秋らしいイチョウ柄の着物である。
「これは送った甲斐もありますわ。」
「ありがとうございます。」
「またお店にもおこしやす。」
そう言って常吉は順番を譲ってお酒の席に移動する。
「おこんばんわ~。」
「おこんばんわ~。アカネさん。」
「いや~ん、ノリがいいわね~。オネエサン嬉しいわ~。」
次はアカネだった。
アカネと常吉夫妻はフィールの着付けの為に準備段階から来ていたので挨拶も最初になった。
だから挨拶もそこそこですぐにお酒の席に移っていった。
その後は知らないヒトたちが挨拶に訪れた。
みんなまずはフィールの横にちょこんと座ったネコに挨拶をしてからネコの紹介でフィールに挨拶をする。
「このヒトたちみんな妖なのですか。」
挨拶が一通り済んだところで、フィールはネコに質問した。
「中にはさっきの常吉の妻のように人間の連れが居たりするけど、今回は天主殿を顔役としている妖たちの代表が招かれたようだね。」
「へ~。イタチさんやカラスさん、コウモリさんなんかは分かりますが、ムジナさんてなんですか。」
「日本の古来からいる妖で、人に化けるのが上手い。だから人に見つかることが少なく多くが人間として生きてる妖さ。」
「そうなんですか。なんだか不思議な方でした。」
「いたずら好きが多いから気を付けるように。」
「ハイ。」
「それじゃぁ乾杯の音頭は私、亜羅紗がとるのじゃ。野郎ども、
と言った感じで、
「カンパーイ。」
「「「「カンパーイ。」」」」
宴会は始まった。
にぎやかでみんな仲が良かった。
対立しているような気配を見せていた常吉とアカネもケンカはするけど仲良くお酒を飲んでいた。
それを見ながらジュースを飲んでいたフィールは気分が良くなってきて。
「イエーィ、みんな仲良くしてますかああああああ。」
「お、フィールはん急にテンション上がったなぁ。」
「あら~、ほんとね~。この前とは見違えるくらいいい笑顔じゃない。」
とみんなもいい気分になて来ていた。
が、
「ちょっと、誰だ。フィールにお酒飲ましたのは。」
と、ネコが慌てている。
それを見てみんなは顔を見合わせて自分は違うと首を振る。
「ははははははははははははははははははは。」
フィールはフィールで笑い上戸だった。
「あっ、これネコさん用のマタタビジュースよ。」
フィールのグラスを見ていたヨシコがそう言った。
「吾輩の?」
「多分間違えて飲んだんじゃない。」
「いや、だが人間がマタタビで酔うの。」
そのネコの疑問に、
「我々も人に化けてからは人の酒で酔うようになりましたからな。」
「ネコはんの眷属になったフィールはんもマタタビに酔うようになったんとちゃう。」
「なるほど、あり得る。」
「みんなもっと飲め―。仲良く飲め―。」
上機嫌なフィールと顔を覆うネコ。
しかし宴会は始まったばかりだった。
「とりあえず、フィールはこれ以上マタタビはダメ。お水、お水飲んで。」
「ははははははははははははははははははは。」
ちなみに次の日フィールは二日酔いになった。
「ネコ様~。頭が痛いです~。」
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