エピローグ

 幽世に帰って来た。

 トメさんの駄菓子屋を通って来たが、トメさんの姿はなく、幽世に入るとすぐにネコは猫の姿に戻った。

「やっぱりネコ様は猫の姿でも素敵です。」

「そうかい。褒められて悪い気はしないね。」

 ネコの尻尾は嬉しそうに立っていた。

「ネコ様の毛皮は夜空みたいにきれいです。」

「ふふん、吾輩の毛皮もいいが、夜空も綺麗だぞ。見てみたまえ、今夜は月がキレイだ。」

 ネコに言われて夜空を見上げるフィール。

「うわああああぁぁぁぁぁ、本当です。マンマルお月さまです。」

 夜空を見上げながら笑うフィールをネコは足元で優しそうに見上げている。



 吾輩は猫である。

 しかし長いこと生きてきて人に化けることができるようになってからは、人として生きた時代もあった。

 その中には数多くの出会いがあり、別れがあった。

 しかし、フィールは違う。

 彼女を助けるために眷属の契約を交わした。

 彼女とは死が分かつまで共に生きることになる。

 なぜ彼女を助けたのか、今日会った友人たちは誰も聞かない。

 これは吾輩だけの思いだ。

 一匹の猫が一度だけ人間に救われ共に生きたことがあるように、1人の少女を救って共に生きてみたくなったのだ。

 彼女の横顔はあの人に似ている。

 現代では人の歴史に残る人物だったのだが、何故か女性を男性として伝えている。

 そのため実在も疑われ始めているが、吾輩の中に今も残っている思い出が、あの人がいた確かな証拠だ。


「貴方は神様ですか?」

 そう聞いた吾輩に、

「ワタシは人間である。多くの者が神様と勘違いしているけど、ちょっと不思議な力を持つだけの人間さ。だからできることは限られている。猫ちゃんを一匹助けるくらいはできるけどね。」

 そう言っていたあの人は、確かにちょっと不思議なだけでやっぱり人間だった。

 だから妖となった吾輩を置いて先に逝ってしまったのだ。


 吾輩はフィールにあの人の面影を見る。

 見てしまったのだ。

 そしたら助けを求めていた。

 それはもう助けずにはいられなかった。

 今日1日、共に過ごして感じたのは懐かしさと温かさ。

 大切な何かを取り戻した実感だった。


「吾輩は、恩返しができるのだろうか。」

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