高きを眺めて

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

 フィールは首を上に向けながら感嘆の声を上げていた。

「不思議なお山がたくさん並んでるです。」

「あれは山じゃないよ。」

「へ、では何ですか。」

「あれはみんな人が建てた建物だよ。」

「え、えええええええええええええええええええええええええ、これを……これほど大きなものが建物。――――し、しかもみんな人が立てたのですか。」

 フィールはネコと一緒にやって来たビル街に驚いていた。

 このビル街へもネコの家がある町から電車でやって来たのだが、その道中も見るものみんな珍しくて、フィールは驚いてばかりだった。

「はわわわわわわわわわわ、びっくりです。今日はずっとびっくりしっぱなしです。もう一生分はびっくりしたかもしれません。」

「はっはっは。それだけ驚いてくれると連れて来たかいがあるってものだよ。でも、フィールの一生はまだまだずっと続くからね、これからもびっくりすることがたくさんあるだろう。」

「そうなんですか。」

「ああ、そうだとも。」


「ピカピカしてきれいです。」

 フィールはきれいに磨かれた床や柱を見てそう言った。

「入り口はみんなが通るからね、皆が入りやすいように綺麗にしてるのさ。」

「ここからこの建物?に入れるですか。」

「そうだよ。」

「わっ、なんか動いたです。」

 自動扉の前に立ったフィールに反応して、ガラスでできた扉が横にスライドして開いた。

 フィールはそれに驚いて飛びのいてしまう。

 それを見ていた他のお客さんたちはほほえましいものを見て笑っていた。

 ネコもフィールを見て微笑んでいる。

「これはお客さんが前に立つと扉が開くドアなんだよ。」

「へええええええ、すごいです。」

「ほらおいで、ここから入るんだよ。」

「ハイ、ネコ様。それでネコ様。」

「なんだい。」

「ここは何の建物なんですか。」

「ここはたくさんのお店が入っているショッピングモールだよ。」

「ショッピングモール。たくさんのお店が入っている?」

 首を傾げるフィールにネコが分かりやすく説明する。

「市場は分かるだろ。」

「はい、食べ物やお洋服なんかが売っていました。」

「その市場がこの建物の中にあるんだよ。」

「そうなんですか。行ってみたいです。」

「ははは、もう来ているよ。」

「……え?」

「この建物全部が市場だから、さっきの扉をくぐった時点で吾輩たちは市場に来たことになるんだ。」

「え、えええええええええええええええええええええええええ、このお山みたいにおっきな建物が市場なんですか。」

 フィールはまたおっきな口を開けて驚いていた。


「フィール。」

「なんですかネコ様。」

「さっき見上げていたこの建物の横にあった建物がなんだかわかるかい。」

「お隣の建物ですか。」

 ショッピングモールに入ったネコは壁際に来てフィールにそう訊ねた。

「隣の建物とは、あの雲に届くかのように高い建物ですか。」

「そうです。あれが何かわかりますか。」

「う~ん。偉い人のお墓ですか。」

「残念、違いますよ。」

 チン。

「わっ、何か音がしました。」

 するとフィールの目の前で壁が左右に割れた。

「わっ、わっ。」

「フィール、こちらにいらっしゃい。降りる人が居るからね。」

「は、はい。って、え、壁から人が出て来た。」

 ネコの傍に立ったフィールの目の前を壁から出てきた人達が通り過ぎていく。

 それをポカンと眺めていたフィールに、

「フィール、これに乗って。」

 と、壁を指さしながらネコが言った。

「え、この壁の中に入るのですか。」

「他にも使う人がいるので急いで。」

「は、はい。」

 言われてフィールが壁の中に入るとその後をネコが付いてきたので、「ほっ、」と、安心した。

「?お外、―――――――じゃ……ない。」

 外の景色が見えるけど手を伸ばせば透明の物に遮られている。

 この透明の物を「ガラス」と言うのをフィールはネコに教えてもらっている。

「ここ、壁の中?」

「これはエレベーターと言って、建物の中を上下に移動する乗り物だよ。」

 そう言うネコは4階のボタンを押して扉を閉める。

 が、フィールからは壁を指さしているようにしか見えないし、また、壁に閉じ込められたようにも感じた。

 ネコが一緒じゃなければ怯えていただろう。

「フィール、あそこに見える建物の答えだけど。」

 そんなフィールにネコは話題を振って気を紛らわせる。

「あれはマンションと言ってね、沢山の人が住む家なんだよ。」

「あれが家なんですか。あんな高いところに住んでる人が……、もしかしてその人は神様ですか。」

「違うよ、神様じゃないよ。まぁ、中には吾輩みたいな妖もいるかもしれないけど、あそこに住んでるのはみんな人間だよ。」

「神様じゃないのにあんな高いとこに住めるのですか。」

「人間は神様に成れない。そうたくさんの人が気づいたから、あれほど大きな家を作れるようになったんだよ。」

 人間は神様に成れない。その言葉はフィールにとっては衝撃だった。



「これで私は神だ。」


「あぁ、聖杯ヨ。ワタクシを神にしてくれ。」


「聖杯、聖杯、聖杯。これこそが神の証だ。」


 たくさんの人が神様になりたくて聖杯フィールに願いを捧げた。

 また、


「神よ。アナタは神になったのよ。」


「神様、どうか助けてくださいませ。」


「かみさま。」「神よ。」「神さま。」神様神様神様神様神様神様神様神様神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神神。


 と、聖杯フィールを神様として扱う人がたくさんいた。

 しかし、この世界では人は神様に成れないという。

 ならばこの世界ではフィールは人間として生きることができるのかもしれない。と思ったのだった。

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