キツネとタヌキ

 エレベーターから降りたらそこにはたくさんのモノがあった。

 フィールの見たことないものがあふれる中、ネコはフィールをあるお店に連れて行った。


「あぁ~ら、ネコさんじゃなぁい、いらっしゃいま~せ~。」

 そのお店にはカラフルなヒトがいた。

 頭がピンク色で爆発してるヒト。

 空いているかもわからない目はキラキラ光る青色が塗られていて、お口は真っ赤。

 着ている服もお星さまやハートマークがいっぱいのカラフルなモノ。

 背は高いが、ネコよりかは低め。細い手足は長く、くねくねと動いている。

「おひさしぶりね~。あら、この子は?」

 その男か女か分からない、フィールが初めて見る生き物は、ネコさんに近づいてきて、フィールに気が付くと体をくの字に曲げて顔を覗き込んできた。

 フィールはとっさにネコの後ろに隠れた。

「どうしたの~。ネコさんのお連れさんか。ど~こで拾ってきたのかしら~。」

「ふむ、実は遠いところにあった滅びた世界で、1人助けを求めていたのでね。」

「あらやだ。ホント~に拾ってきたの~。」

 そのカラフルなヒトはしゃがんでフィールに目線を合わせると。

「お嬢さんお名前は。」

「フィ、フィール。ネコ様がつけてくれた名前。」

「フィールちゃんね。可愛い名前じゃな~い。」

 そのヒトはチラリとネコの顔を見る。と、ネコは微かに顔を赤らめて目をそらした。

 照れているのだ。

「フフフのフ~。フィールちゃん、アタシはアカネ、キツネのアカネよ~。よろしく~。」

「キツネのアカネさん?」

「そうよ~。ネコさんと同じキツネの妖なの~。まぁ、ネコさんと比べたら若輩者なんだけど~。」

「アカネさんはヒトとして暮らしてるですか。」

「そうよ~、アタシはここで美容師をしてるの。」

「ビヨウシ?」

「髪の毛を綺麗にするお仕事よ~。」

「髪の毛はネコ様がキレイに洗ってくれたです。」

「あらあら~、ネコさんもやるもんね~。フフフ、でもねフィールちゃん、髪の毛は洗うだけじゃダメなのよ~。ワタシがもっともっと綺麗にしてあげるわ~。」

「え、えっと……。」

「ネコさんもそのつもりで連れて来たのでしょ~。」

「そうなんですか?ネコ様。」

「うむ、吾輩よりずっと上手いのでな。」

「ネコ様はワタシがキレイな方がいいですか。」

「もちろんだとも。」

「えと、――――ではお願いします。」

「りょうか~い、フフフ。こんな大粒の原石なんて初めて、腕が鳴っちゃうわ~。」


 それからしばしの間、フィールは大きな鏡の前でアカネに髪の毛をいじられていた。

 サッサ、ショキンショキン、サッサ。

 鏡には常にネコが映っていて、フィールはそれが見えるのが安心できた。

 ネコはずっとフィールを見守っていた。

 フィールも鏡越しにずっとネコを見ていた。

「はい、できたわよ。」

 だからフィールは鏡の中の自分の変化に気づいていなかった。

 伸び放題だった髪の毛はキレイにまとめられいて、ボサボサからスッとした仕上がりになっている。前髪もキレイに切りそろえられていて、左側に流されていて、右目がちゃんと見えている。

 鏡の中でネコが座っていた椅子から立ち上がった。

 そのまま真っすぐにフィールに近づいてきて、となりに立つ。

 ポン。

 そっとフィールの肩に手を置いてネコは鏡を覗き込んで、

「うん、すっごく綺麗になった。」

 と言った。

 フィールはそっと、鏡越しではなく直接ネコの横顔を見た。

 彫が深いが優し気なしわを刻んだ横顔。

 チャームポイントだと言っていた口ひげ。

 ニコニコと可愛らしい笑顔。

「……。」

 いつの間にかネコは鏡でなく直接フィールの顔を覗き込んでいた。

「………………………………あ、ありがとうございます。ネコ様。」

 ネコの顏から目をそらして見えた鏡に映るフィールの顏は、若干赤くなっていた。

 ついでに鏡の中でアカネがニマーと楽しそうに笑っていた。


「それで、ネコさん。この後の予定は。」

「服を買いに行く予定だけど。」

「つまり常吉つねきちの所ねぇ~。それじゃぁ~付いて行けないわねぇ~。」

「それ以前に君には店があるだろう。」

「それじゃあ代わりに今度おじゃまさせてもらうわね~。」

「――――ふぅ、羽目を外し過ぎないようにな。」

「それではありがとうございましたぁ~。」

「それでは次に行こうか、フィール。」

「はい、ネコ様。」


 アカネの店を出た2人は今度は3階に向かう。

 途中のエスカレーターでひと騒ぎあったが、無事フィールはエスカレーターに乗れた。

 そしてネコが入ったお店は、

「TUNEKITIのファッションショーに、いらっしゃーい。」

 丸いヒトが今度は出迎えてくれた。

「おや、これはネコはんやないかいなぁ。おひさしゅう。って、そちらは?まさかお連れはん。まさか、ネコはんが1人やないですと。」

 体が丸くて、顔も丸くて、手足も丸い、丸い目に丸いめがねをかけたヒトだった。丸い男の人だった。

 そして独特のイントネーションでしゃべるヒトだった。

「えらいべっぴんさんやないですか~。どこで拾いなすったん。」

「常吉、君も拾ったというのか。」

「いやな、だってネコはんが誰か連れてるなんて初めてやさかい。」

「まぁ、拾ったという表現は間違いじゃないのだが。」

「ほな、通報しまひょか。」

「やめたまえ。」

「冗談やぁ~。」

 さっきのアカネとは違う勢いのあるヒトだった。

 またネコの後ろに隠れてしまったフィールにそのヒトは目線をあわせて話しかけて来た。

「おおきに、ワイは常吉や。ネコはんと一緒やゆうことは妖知ってはるんやろ。ワイはタヌキの妖や。」

「フィ、フィールです。よろしく。」

 勢いに押されながらも挨拶をしたフィール。

「こんどはタヌキさん。」

 常吉はそのフィールの呟きを聞いて眉をしかめる。

「なんや、先にあのオカマのところ寄って来はったんかいな、ネコはん。」

「タヌキがオカマをdisるなよ。」

「ネコはん、タヌキにお釜は鬼門でんがな。」

 フィールにはよく分からないことを2人が話している。

「ホンで御用はこの子の御召し物でよろしゅうおすか。」

「ああ、一通りそろえたい。」

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