初めてのいただきます。
お風呂から上がってドライヤーでひと騒ぎを起こした後、ネコは一つ困ったことに気が付いた。
フィールに着せる服がない。
フィールがもともと来ていた服は、服と呼ぶのもおこがましいほどに汚れた布切れだった。そんなものはとっくにゴミ箱行きとなっている。
ならば代わりの服を用意すればいい。
のだが、
この家にはネコしか今は住んでいない。
猫のままなら服を着ないし、人の姿でいる時用の服は男性用だ。
しかもネコの人に化けた姿は180㎝ほどの背丈があり、猫のくせに鍛えられた体格をしていた。
そのためかなり大きいのだ。
だからと言って彼女を裸のままでほっとくわけにもいかない。
「わぁ~。ありがとうございます。ネコ様。」
結局、フィールにはパーカーを着せることにした。
「ネコ様とお揃いの色~。」
そう、ネコが着せたパーカーはネコの毛皮と同じ色をしていた。
すなわち黒である。
ネコが持っている服は大体黒色だった。
そして、やっぱりフィールには大きかった。
襟はブカブカで首元がたるんでしまい、鎖骨どころか胸まで見えちゃいそうだ。
袖も完全に余って萌え袖状態に。
まくってもフィールの腕が細いためまったく止まらない。
裾の方も余りまくっているが、こっちはラッキーだった。
ズボンのサイズも合わないので下に履くものが無かったのだが、これならワンピースのように見えるだろう。
「これはちゃんと服を買いに行かないといけない――――
ぐぅぅぅぅ~~~~~~~~~。
ネコがフィールの姿を眺めていたら、フィールから元気なお腹の音が聞こえてきた。
「はぅぅ。」
「その前にご飯が先かな。」
「わあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、すごいです。」
冷蔵庫には鳥のもも肉が残っていた。
なので、これで中華雑炊を作ろうとネコは考えた。
「ネコ様、すごいです。魔法でお料理できるのですね。」
「いや、魔法で料理してるんじゃなくて、魔法で調理器具を動かしてるんだがね。」
そう言うネコは宙に浮いており、ネコのほかにも土鍋や包丁などが宙を舞う。
「つまり、ちゃんと料理もできるんですね。」
「これぐらい男の1人暮らし、もとい、雄ネコの一匹暮らしならできて当然だよ。」
「でも、ワタシはお料理できません。」
「ならば今度吾輩が教えてあげよう。」
「本当ですか。ネコ様、約束ですよ。」
喜ぶフィールに微笑みながらネコは調理を続ける。
ちなみに雑炊ならば、いつからご飯を食べてないのか分かったものじゃないフィールのお腹にも優しいだろうとの判断だ。
さて、まずは土鍋を用意してそこに水を入れる。
そして、好物の猫まんま用に炊いていたご飯を投入。
さらに、食べやすいように一口大に切って、今回は叩いてさらに柔らかくした鶏ももを入れる。
その後に水を全体がひたひたになるように調節してから、中華スープを溶かす。
ちなみにネコはシャン〇ン派だ。
正直、ウェイ〇ーとの違いは分からんが。
それをグツグツ煮込んで、御飯とお肉がいい感じに柔らかくなるまで水を足しつつ煮込む。
良い感じになったら塩を一つまみ入れて、溶き卵を回し入れたら蓋を閉める。蓋を閉めてから、蓋の穴から蒸気が出てくるまで煮込んで、出てきたら火を止める。
それを30秒ほど置いてから、敷物を引いたこたつの上に移動させる。
ちなみに、ネコの家ではこたつは年中無休である。
こたつの上に土鍋を移動させたら、取り皿とお玉、レンゲと薬味の下ろし生姜を用意して完成である。
「さ、フィールそこに座って。」
ネコはフィールにこたつに足を入れるように促す。
「これは何ですか?」
「中華雑炊という食べ物だよ。」
ネコがそう言うとひとりでに蓋が浮き上がる。
「すごい、ネコ様すごい。」
「いやいや、せめて食べてから誉めてほしいな。」
「いえ、そっちじゃなくて、その触らずに物を動かすのがすごいと思います。」
「これかい。」
そう言って、レンゲを浮き上がらせる。
「それです。はぁ~、何度見てもすごいです~。」
「ははは、ありがとう。でもね、これは形のしっかりしている物しか動かせないんだよ。」
だから髪を洗ったり、水を操ったりはできないんだ。と、猫は言った。
「あと、重すぎたり、大きすぎたりしてもだめなんだ。」
「それがどうしたんですか。ワタシは手で触っても重いものも大きなものも動かせません。髪だって洗えません。だからそれは欠点ではありません。ネコ様はすごいんです。」
「――――――――そうか。うん、ありがとう。」
ネコは真剣にネコを誉めるフィールにやさしい気持ちになる。
「さあ、それよりもご飯にしよう。折角フィールの為に作ったんだ、こっちの感想を聞かせてほしいな。」
「それでネコ様、ネコ様への御祈りはどうしたらいいのですか。」
「お祈り?」
こたつの上で姿勢よく座っている黒猫に向かって、手を組んで祈ろうとしているフィールを見て、ネコは首を傾げた。
「お母さんからご飯を食べる時は神様に祈りなさいって教わりました。でも、神様じゃなくてネコ様が助けてくれました。だからネコ様に祈ります。」
「なるほど、お祈りね。吾輩はお祈りしないがこの言葉を言うよ。まずは手のひらを合わせて。」
「こうですか。」
「猫の手じゃ分かりづらいか、指を伸ばして開かずに合わせるんだ。」
「こ、こうですか。」
「そうそう、それでご飯とご飯を用意してくれたみんなに感謝をしてこういうんだ。
「いただきます。」
「いただきます。これでいいんですか。」
「そうこれがこの世界でのご飯の前の御祈り――――、といか礼儀ってやつかな。」
「分かりました。これからは「いただきます」します。」
「うん、それじゃぁご飯を食べよう。」
「美味しいですぅぅぅぅぅ。う、うええええええええええん。」
「どうしたんだい、急に泣き出して。」
ネコが器用にお玉で雑炊を掬って取り皿に盛ってあげたのを食べたフィールが泣き出した。
「だって、温かいゴハンとか久しぶりで。おとーさんとおかーさんと食べた時のこと思い出したら涙が。」
「そうか。」
ネコはフィールの傍に行くとその頭を優しくなでてあげた。
少しして、フィールが落ち着いてから食事を再開した。
「ガツガツ、むしゃむしゃ、ごくごく、ハグハグ。」
その食べっぷりはすごかった。
これなら栄養状態も早急に改善するだろう。
「そんなに急いで食べなくても誰も取ったりしないよ。」
「あうぅ、そうなのですか。」
少し恥ずかしそうにするフィールにお替りをよそってあげながらネコは言う。
「この世界は人の食べてるものを横取りなんかしない、優しい世界なんだよ。」
ネコの言葉を聞いて安心したのか、フィールはゆっくりとご飯を噛みしめる。
「美味しいです。……それにしても、ネコ様もこの変わったスプーンでご飯を食べるんですね。」
「吾輩、猫であるが紳士でもあるからね。」
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