手に槌をもって夢を掴む

「フィールのご家族は?」

「家族かい。」

「そう、両親はどうした。」

 紳士なネコは空気を読む。

 だから踏み込んじゃいけない話題なら踏み込まない。

 だけど、このフィールからは聞くなよ、っていう気配は感じられなかった。

 むしろ聞いてくれ、という気配を感じたほどだ。


「ワタシの両親なら夢の向こうに行っちまったよ。」

「夢の向こう?」

「そう、この空の、雲の向こうにはまだ見ぬ世界があると、飛んで行っちまったらしい。」

「それは誰から聞いたんだい。」

「じいちゃんとばあちゃん。」

「お2人はどうしている。」

「ばあちゃんはワタシが小さい頃に、じいちゃんはついこの前に死んじゃった。」

「……そうか。」


「それでフィールは何をしているのだい。」

「何って?」

「その金属や金づち、何か仕事をしているのかい。」

「あ~~~~、仕事は別、これはアタシの夢だ。」

「コレが夢?」

「ああ、これで父さんたちの後を追うのが夢なんだ。」

「雲の向こうへ行くのが夢なのかい。」

「そう言う事。だからワタシを救うために夢をかなえるって言うなら、ワタシを雲の向こうへ連れて行ってよ。」

「それは吾輩の力でかい。」

「いや、ワタシの力で。」

「……良いだろう。協力しよう。」


 ネコが見上げたその先には、組み立て途中の流線型をした金属が横たわっていた。

「……飛行機というよりロケットだな。」



 それからネコとフィールの生活は始まった。

 しかし猫が手伝うことはフィールの生活の助けばかりだった。

 何故なら、

「あぁ~、違うそこはそうじゃない。違うってばそうじゃないって言ってるだろう。」

 と、弟子を叱る親方みたいに口を出したネコに、

「だぁあああああああああ!ワタシの力でやるっつっただろうが、黙っていろ。」

 と、フィールがキレて。

「そんなことを言ってもそれじゃあ何年かかるか分からん、吾輩がイイとこを見せてやろう。」

「いらん、お節介焼のジジネコ。」

「吾輩をジジと呼ぶな。」

 と、しっぽをピンと伸ばして怒るネコと喧嘩になったのだ。


「ジジネコはジジネコだろ。冷や水垂らして耳の穴に流し込んでくる。」

「なんだその例えは。あとジジをやめないと君のことをキキと呼ぶぞ。」

「何でだよ。そっちこそ意味わかんねぇこと言うなよ。」


 あ~だこ~だと言い合った末、結局ネコはフィールの作業そのものには手を出させてもらえないことになり、ネコの手は彼女の生活をサポートするのにつかわれることになった。


「ほら、御飯が出来たぞ。」

「おお~う、適当に口につ込んでおいてくれ。」

「ダメだ。ちゃんとテーブルについて食べなさい。約束だろ。」

「はいはい、分かりましたぁ~。」

 と、こんな感じである。


 フィールはネコが世話をしなければ食事すらまともに食べないで作業をしようとする。

 適当に工具と一緒に持ち込んだシシナとかいう白いごぼうみたいなのをガジガジとかじりながら作業をするのだ。

 しかも手持ちのものが無くなっても補充せずに作業を続けるものだから、ネコと初めて会った日みたいにぶっ倒れかねないのである。

 だからネコが生活の世話をするのだ。


「おお~、今日はカレーか。」

 テーブルに用意されている料理を見てフィールは喜色を浮かべた。

「おや?カレーを知っているのかい。」

「この前夢で見た。夢の中のワタシが何か猫と料理をしてる夢で、作っていたのがカレーだった。」

「ふむ、どれくらいはっきりと覚えている。」

「真似は絶対できない。」

「なるほど。」

 つまり、テレビで料理番組を見ただけでは料理ができるようにならないのと同じだろう。

「確かワクワクcookingだっけ。」

「ふむそこまでわかるのかい。」

「なんて言ったらいいのか分からないけど、もう1人の自分を見ているような気分になったかな。あっちのワタシは幸せそうだったな。」

 ワタシもああなれたらなぁ、そう言いながらカレーを口に運んだフィール。


「っ!ゥ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 途端に顔を真っ赤にして悶えるフィール。

「どうしたフィール!」

「っ、辛、かかかかかかかかか、カラ、辛い~~~~~~~。」

「そんな馬鹿な。向こうのフィールは普通に食べていたぞ。」

「水水水みず~~~~~~~~~~~。」

「ええいこういう時はラッシーだ。それこれを飲め。」

「ひいいいいいいいいぃぃぃぃぃ。ゴクゴクゴク。」

「ふぅ。まさか世界が違うと性格だけじゃなくて味覚まで変わるものなのか。」

 初めての眷属ゆえに驚きを隠せないネコであった。――――が、そのせいでフィールからすっごく睨まれてしまった。

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猫又と生贄の少女 軽井 空気 @airiiolove

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