正しい人、立派な人って何だろう

教育の理想に燃える若き女教師オモ・ヒサリ先生。彼女はカサンという帝国の出身であり、帝国の植民地であるアジェンナ国のさらに田舎にある村に自らの希望で赴任します。そこには差別されている「妖人」と呼ばれる身分の人々がおり、さらに貧しい人々もいます。
そこで出会ういろいろな子供達、中でも皮膚病を患うマルという少年は歌を歌って物乞いをして生きています。ヒサリ先生は彼の中にとんでもない宝物、まさに天賦の才を見出し、彼を「立派なカサンの臣民」に育てようと心に誓うのですが……

マルをはじめとした子供達の行動や思いが、いわゆる「大人が思い描く子供」ではなく、大変リアルにみずみずしく描かれています。読んでいるうちに、彼らと一緒に心が子供時代に戻るような感覚がありました。あの頃周囲にいた大人やクラスメイトの行動、自分が抱いていた苛立ち、大切な友人、初恋……。
大人になった私がいつの間にか忘れていたもの、仕方がないと清濁併せ飲んでしまっていたものが、当時の感覚のままよみがえり、とても素敵な読書経験をさせていただいております。

そしてヒサリ先生。若く理想に燃える先生は、きっと子供の頃に出会っていれば私の大好きな先生になっていたでしょう。彼女は子供たちに教えます。「人はみな平等です」「カサン帝国の臣民であることに、何ら違いはありません」「知識だけでなく、カサンの精神を身に着け、立派な帝国臣民とならなければいけません」……彼女の言葉にマルは純粋に思います「立派な帝国臣民にならないと、どうしていけないのかなあ。そんなことより先生にほめてもらいたいし、喜んでもらいたい」と。

作者様いわく、お話は最終章に入っています。(私は115話ほど読んでいますが、まだ最終章ではありません)作中ではすでに何年もの時が過ぎ、生徒達の中にはそろそろ将来のことを考え始める子も。そうなのです。「学校」という場所には、人生でほんの数年しか身を置くことができません。そこで出会う「先生」という人は、子供にとって大きな存在です。ヒサリ先生に出会った子供達がどのように成長して巣立っていくのか。この先も見守らせていただきたいと思います。

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