面白いです。読んで損はありません。ガンガン読みましょう。
正直これ以上の説明はいらない気がするのですが、本作は大変興味がそそられる作品です。
少しダーク寄りですが、異世界の人間と魔物が共存している世界で、相手の悪夢を食べて生きる主人公の物語。この時点で凄くそそられます。
この「悪夢」と言うのがミソ。単純なファンタジー世界で有りながら、悪夢を見る原因に切り込む、一種の心理スリラー的な重厚さもあり、単純なヒューマンドラマとは一線を画します。何故ならファンタジー世界だから!
この発想は無かった、と思わされる設定にストーリ。悪夢を食べると言う話の流れ上、ダークファンタジー的な要素を持ちながらハッピーな方向に向かう。
実に味わい深い作品です。
人と魔物がルールを持って共存する世界のお話。
主人公は『悪夢』を全て喰らうことのできるバクのエル。
夢の交換が可能なことによる、夢屋、そして夢喰屋の存在。
悪夢もまた記憶の財産。
不用意に夢を喰らい尽せば、魂を傷つけるし、己も囚われかねない――
独特の価値観、法則に基く幻想世界。
これだけでもうどっぷりと浸れそうなのだが、そこに住まう登場人物たちがまたいい味を出して世界と融和している。
のんびり屋で面倒くさがり、嘘がつけない主人公のエルクラート。
たしかにそう。でも代々続く夢喰屋として確かな矜持と夢への欲をもつ。
彼からして濃い。
しかし騒々しさの類はなく、まるで語り手である彼がリズムを刻む……揺り篭の中で微睡むようにして物語を味わえエル。
そんな夢喰屋に、あなたも立ち寄ってみませんか?
これぞファンタジーの面白さだよ、と夢中になって読みました。
なんといっても、切り口がとってもいいんです。主人公である『エルクラートさん』は、バクという『人型の魔物』として異世界に存在しています。そしてバクなので、やはり『夢』が主食。
そんなバクの異世界での生活というものが丁寧に描かれていて、序盤から一気にこのファンタジー世界に引き込まれて行きます。『夢』を食糧として売っている店があり、そこに猫の夢などが出てくる。普段はそこで買い物をするなどして飢えを満たし、時には依頼を受け、やってきた客の夢を食べる。
そこで出てくる客というのがまた面白い。セイレーンやバンシーなど、異世界における妖精や魔物に該当する存在。そういう存在の見る『夢』に触れ、それらを食べていく展開になります。
夢にも色々あって悪夢とか予知夢など種類が分けられますが、人間以外のセイレーンなどは一体どんな夢を見るのか。このコンセプトが提示された段階で、俄然興味を惹かれるというもの。ここまで来たら、もうこの作品の虜になること間違いなしです。
更に更に、展開としても気になる伏線まで登場。エルクラートさんがアップルパイと出会った時の話。
『バクという存在は、カスタードのような味がしている。だから、カスタードの使われたアップルパイは食べられない』と述懐する場面が。
一体、彼の過去に何が? 一体どんな状況で、彼は『カスタードの味』を口にすることになったのか。
登場するキャラクターやその関係性も生き生きとしていて、とにかく読み手を飽きさせない作品です。緻密に作られたオリジナリティの高いファンタジー世界。そして気になる伏線の数々。
まさに傑作です!
町の夢喰屋・エルクラートさんの元には今日もお客様がやってきます。みんなの依頼は一つ、「店主に悪夢を食べてもらう」こと。
エルクラートさんはお客様から取り出した悪夢をどうするのかというと、食べます。悪夢を取り出せるのは人間からだけでなく、犬や猫、さらには人ならざる魔物からも可能です。
取り出した悪夢ってどんな形状なの?どうやって食べるの?どんな味なの?
そのあたりの描写がこの小説を読む大きな楽しみの一つです。それぞれの悪夢の形や固さ、そして匂いや味まで、読みながら想像して楽しむことができます。
ファンタジーでありながらも、夢を題材としたミステリー要素もあり、先が気になり読み進めてしまいます。
そして、主人公でもあるエルクラートさんの人物像。本人は淡々として大真面目、はたから見ると天然なタイプか?と思いきや、仕事やライフスタイルには誇りとこだわりがあり、一本筋の通ったかっこよさがあります。これは無自覚にモテるタイプだろうなあと思ったら、そのとおりでした!
ほんのりと恋愛要素もあり、完全にはくっつききらない距離感が大好物の私には刺さりました。
夜にベッドに入り眠る前の読書にピッタリな、睡眠と夢にまつわるファンタジーです!
最初に作者にお詫びします。冒頭の描写にもかかわらず、第1話を読んでいる間ずっと、主人公を「頭部だけバク(動物)のハンフリー・ボガート」で脳内描写してました。それはただのトレンチコート着たバクな気がしますが、だってハードボイルドなんだもん。
夢を喰らうとされる魔獣・バク。ファンタジー世界との相性も良く、バクを扱った作品は決して珍しくありませんが、この作品は別格。「悪夢を切らす」という概念。悪夢を紅茶に入れてリラックスする主人公。そして往年のハードボイルド小説を彷彿とさせる主人公の言動。不思議な、しかし妙に懐かしい雰囲気を楽しめる一作です。
「今夜もこの作品読むの?」と聞かれたら、「そんな先のことは分からない」と答えるのがハードボイルドの王道回答ですが、私はボガートではないのでこう答えます――「読むに決まってんだろ!」