世界に人あればそこにはいつも。アジア圏モデルの異世界ファンタジー!

  • ★★★ Excellent!!!

 異世界ファンタジーといえば、中世ヨーロッパがモデルの舞台になっている事が多いですが、このジャンルでありながら、アジア圏がモデル。アジア圏作品としても中国やインド等の大国ではなく、タイやベトナム、東南アジアの雰囲気です。

 今時のファンタジーの衛生観念は現代日本レベルというパターンが多く、お風呂に入る、洗濯はこまめにという事で、とにかく綺麗で清潔な世界が多いですが、人間がまだ未熟な文化でいるとき、実際はそんなに清潔なはずはなく。
 美しいものを美しく書かれた物語は多いけれど、汚いとされるものを魅力的に書く作品は少ない。その稀有な方です。

 主人公マルは貧しい物乞いで、イボイボ病。不衛生からくる皮膚の病気なのですが、刺激を与えれば潰れて膿が出る、足の裏から表情がわからないぐらい顔まですべて覆われている状態。ビジュアル的には、到底美しいとはいえないけれど、彼の性格や行動全てが可愛くて愛おしく、魔女が彼を独り占めしたいがためにそういう病気にしたのだという作中のお話が、まさにそうなのではないかと思える感じで。気付けば泥にまみれドロドロになっていても美しい。彼はしっかり生きて輝いている。才能もすさまじく、まさに原石。

 植民地支配、身分や性別での差別がメインプロットに存在し、清濁が混在し現実的。社会派的な切り口もあって奥深いです。

 真っすぐで純真なたくさんの個性的な子供達が、差別や新たな文化の潮流に翻弄されながら、ヒサリ先生という若い情熱をもって導かれていく成長の物語。先生自身も若く、成長過程にあるという。皆が、未来に向けて進んでいく力強さを覚える名著。

 学びの大切さ、世界への視野、文化への憧憬、社会の歪み。読めば必ず何かを心に残す、示唆に富んだ内容です。

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