ぼっちな俺がロックと美少女に囲まれてしまったんだが。

クウガ

第1話 出会いはいつも唐突に

「あーあ……」




 また今日も一日が始まる。俺の暗い高校生活の一ページがまた刻まれるってことでもある。




 「はあ……行くか」




 俺は中身の少ない薄い鞄を持って、家を出る。




 「行ってきまーす……」




 家を出る足取りも重い。行きたくねえなあ、高校。行ってもまた昨日と同じように、誰とも口もきかず、机に口づけするかの如く寝てるしかねえもんなあ……はあ……




 ああ、そういえば昨日、転校生が来るとか言ってたっけ。少しは変化があるか……ないか。俺には関係のない話だな。よし、いつものように……




 俺はポケットからスマホを取り出し、イヤホンを耳に着ける。いつも音楽を聴いて、周囲を遮断しながら通学や休み時間を過ごすのが俺の流儀だった。聴くのは気分によって変えるけど、「銀杏BOYZ」が多い。これは親父の影響だったりするが、今の俺にはぴったりの曲が多いのが気に入っている。




 「ん……?」




 見慣れた通学路に、見かけない女子二人がうちの高校の制服を着て、何か喋っているのを見かけた。しかし、見かけただけで、俺には関係のないことだ。そのままスルーして高校に着いた。




 俺は自分のクラスに入ると、誰とも口をきくこともなく、自席に座りイヤホンの音量を上げる。そして、机に突っ伏した。俺はまだ一年だからこんな日々があと2年以上も残ってんのか……想像するだけで胸やけがする。いじめられてないのだけが救いだが、誰からも相手にされないのはいじめられてるのとは違った意味できつい。まあ全てコミュ障の俺のせいなんだろうけど……




 そうしている内にHRが始まった。やれやれしょうがない、俺はイヤホンを取り、教師の言葉を聞くともなしに聞いていた。




 「……えーそういう訳で、今日からこのクラスに転校してきた村田紗奈君だ。皆よろしく頼むぞ。じゃあ自己紹介して」




 「……初めまして、村田紗奈です。よろしくお願いします。」




 急に俺の目の前に現れた(俺が見てなかっただけだが)その子は、静かに自己紹介を済ませると、指定された席に着いた。髪は長いけどきちんとポニーテールにしてあり、身長は150cm位か?結構小柄だな。で結構華奢。そして何よりその顔が……






 今まで見たこともない位、めっっっちゃ可愛い!なんだこれ。俺こんな感情になったことねーぞ。何かすげードキドキする。まともに顔も見れねー。良かった席が隣とかじゃなくて。いや、本音を言えば隣になりたかった。今まで恋なんて歌の中だけのもんだと思ってたのに。これが……恋?




 その日は、イヤホンを耳に当てて曲を聴いてるふりをして、机に突っ伏しながら、村田が何を言ってるのか逐一聞き漏らさない様にした。こんなこと初めてだ。陳腐な表現だけど、今まで灰色だった周囲の世界に急に色が付いたみたいだ。本当にこんなことってあるんだなー。






 ……でも俺はふと自分を振り返ってしまった。コミュ障で友達もいなくて、休み時間は机と接吻している俺があの子と喋れる日なんて来るのかな?




 村田は早速クラスの男子に囲まれて色々質問されていた。それを払いのけるように女子が話しかけて早速何人か友達ができたようだった。






 ……数時間にして遠いところに行ってしまった……






 その日俺は、帰って布団の中で、もう一度村田の顔を思い出して、全力ダッシュしてた。何とかお近づきになりたい……だけどこんな俺じゃあなあ……はあ……そんなことを考えている内に眠ってしまっていた。






 次の日、何だか世界が違って見えたのは気のせいだろうか。学校に行けば、あの子がいる。そう思うと、少しだけ今までとは違う感じがした。




 「行ってきまーす」




 今日はどことなく学校へ向かう足取りも軽い。しばらく行くと、昨日女の子2人を見た場所で、また同じような光景を見た。あの時はスルーしたけど、今度は俺の目が釘付けになった。女の子の片方が、あの村田紗奈だったのだ。急に緊張してきた俺だったが、当然話しかけられる訳もなく、横を通り過ぎていく。めっちゃ心臓がバクバクしてるのが分かった。……やっぱ、可愛いいいいいい!……でももう一人の子は誰なんだろう。俺は聞き耳を立てる。イヤホン何て今日はしていない。




 「もう、だからお姉ちゃんは!」




 「いや、んなこと言ってもさー、いい奴いないんだもん。あ、でも先生に聞いたらあんたのクラスに有望株がいるみたいだね。今日、勧誘しに行くか」




 「まったく、強引なのはやめてよね。そうでなくても転校生ってだけで緊張してるんだから」




 「あんたは、昔っから緊張しいだったからね。まあ、見ときなって」




 「大丈夫かな……」








 何の話か分からんが、イケメンの話でもしてるんだろうか。それにしても姉妹だったんだな。姉の方は村田よりもう少し身長が高くて、ショートカットのボーイッシュな感じだ。だけど、こっちも顔は可愛い。でも村田紗奈には叶わないな。うん。俺は断然妹派だ。




 そんなことを考えながら学校に着く。……急に現実に引き戻された感じだ。俺はいつも通りイヤホンをし、机に突っ伏す。だけど、




 「おはよー」




 村田だ!俺は人知れずイヤホンの音量を下げる。友達と何を話しているんだろう。聞いてると他愛もない世間話だったが、相変わらずスクールカースト上位の男どもが群がっている。くそっ、気安く話しかけてるんじゃねえ!




 そうこうしてる内にHRが始まり、日常が流れ始めた。それが破られたのは昼休みのことだった。




 急にクラスの扉を開け女が一人飛び込んできた。村田の姉ちゃんだ!何だろう、村田に用事でもあんのか?




 「ちょっと!このクラスに遠藤っている?遠藤和人!」




 俺はぼっち飯を食べていたが、思わず吹き出しそうになった。遠藤和人!?それは俺の名前だった。




 ここから、俺の日常は少しずつ変化していくことになる……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る