第25話 世界はそれを愛と呼ぶんだぜ

 そして待望の昼休みがやってきた。俺はギターと自分のスマホを大事に抱え、颯爽と部室に赴く。勿論紗奈さんも一緒だ。これで、誰もいなかったら、しばらく紗奈さんとキャッキャウフフできるんだけど……




 部室の扉を開けると、既に愛花ちゃんがいた。残念……という訳でもない。愛花ちゃんの顔が元気そうだからだ。俺は少しほっとする。……あれ?何か俺の後ろの紗奈さんの姿を見たら少しだけ表情が曇ったような……まあ、気のせいだろう。




 「愛花ちゃん早いねー。スマホ持ってきた?」




 俺は気さくに声を掛ける。こういう何気ないやり取りが大事なんだよなー、と元ぼっちの俺は知っている。そこにいるのにいないかのように扱われる辛さは、他に類を見ない。




 「も、も、持ってきました!これで、遠藤さんとLINE……交換できるんですよね……?」




 「まあ、俺だけじゃないけど……皆で交換しようよ。俺まだ使い方がよく分かんなくってさー。紗奈さん教えて~」




 「私もそんなに使いこなしてるわけじゃないけど……でも、普通にトークしたり無料通話したりはできるよ」




 「無料通話!金かかんねーんだ。それはいいね」




 コミュ障の俺は電話が嫌いだ。だけど、その相手が紗奈さんなら話は違う。もう、100年位無料通話していたい。




 「愛花ちゃんはLINE使ってる?」




 ……不用意に聞いた俺の質問に少しだけ愛花ちゃんの顔が曇る。




 「……私は基本ブロックしてるんで……連絡先で登録されない様にしてるし……あんまり、楽しい会話ないんで……」




 しまった。いじめられっ子になんてことを聞いたんだ俺は!そんなん使いこなしてたら、いじめの材料になるだけだろ!俺のバカ!




 「い、いや、じゃあ俺らと沢山トークしよ!ね!曲の感想とかも聞きたいし!」




 俺は慌ててフォローする。……気まずい。




 運がいいことに、その気まずい状況を打破するように加奈さんとまどかさん、カスミさんが入ってきた。良かった。




 「お、皆揃ってるね。愛花ちゃんもちゃんと来てくれたんだ。いいでしょ、軽音部」




 「はい、お陰様で。私のためにライブまでやってくれたし、本当にありがとうございました!」




 「いいっていいって。私らも人前で演奏するのに慣れなきゃいけないしね。んじゃ、ご飯食べようか」




 いつものように弁当を食べながら、LINEの交換の話になる。




 「じゃあ、皆LINE交換しよ。で、私グループ作ったからさ。皆を招待するよ」




 こうして、俺らは全員でLINEの交換をした。一人一人の連絡先も全てゲットした。……紗奈さん。もう、あなたに眠れる夜はこないよ……なーんて。




 んで、その場で皆軽音部のグループを登録する。




 「じゃあ、何か連絡があったら基本このLINEでやるから。皆からも何かあったらどんどん使って!あ、ただ誹謗中傷はなしね。仲良く!ラブ&ピースで行きましょう」




 しかし俺がこんなに美少女達のLINEを一度にゲットできる日が来るとは……人生何が起こるか分からんもんだ。でも俺の目的はただ一人!村田紗奈!俺は一途なのだ。浮気なんかしない!多分しないと思う。しないんじゃないかな……まあちょっと覚悟はしておいてもらって……って「関白宣言」か!恐らくここにいる誰も知らないだろうが。




 LINEを登録したおかげで、帰ってからが楽しみになった。その日の練習はいつもより少し身が入ってなかったかもしれない。




 そして、一日が終わり、家に帰る。晩飯を食べ、風呂に入り……さて、というところで、LINEの着信音が鳴る。見てみるとグループに加奈さんが投稿している。しかも俺宛だ。曲を動画で撮ってアップしてくれだって。そうか、まずそっちをこなさなきゃ。俺は早速スマホでギター動画を取り、グループに上げる。すぐに幾つか反応が来る。




 「いいね!」




 「素敵な曲です~」




 俺も返信する。




 「アレンジはお任せします。歌詞はメロに合わせて考えてみてください」




 ふう。慣れないことをするのは労力がいるぜ。ちょっと一息つくか……何て考えていたら、今度は無料通話の着信音が鳴る。紗奈さん!?




 ……違った、愛花ちゃんだ。どうしたんだろう。とりあえず取ってみる。




 「もしもし?」




 「あ、遠藤さんですか!あ、あの、愛花です!」




 「うん、分かってるから大丈夫だよ。どしたの?」




 「いや、ちょっと、何ていうか、その……」




 中々本題に入らない。何なんだろう。




 「慌てなくていいよ。愛花ちゃんさ、今だから言うけど、俺もかなりのコミュ障なんだよね。加奈さんや紗奈さんのお蔭で大分良くなったけど。だから、落ち着いて話してみて」




 「……優しいんですね。遠藤さんって。急に電話したのに、いやな感じも出さないし……」




 「いやなんてことあるわけないじゃん。愛花ちゃんとの電話ならいつでもOKだよ」




 俺がそう言うと、電話口で「ぼっ」と音がした気がしたが、きっと気のせいだろう。




 「それで、何かあった?悩みがあるなら聞くよ?」




 「いや、あの、悩みとかじゃないんですけど……遠藤さんの声が聞きたかっていうか……私ライブのお礼も言えてなかったし……」




 「あー、そんなの気にしなくていいよ。俺が歌いたい歌を歌っただけだから。……でも、もしあの歌を聞いて愛花ちゃんが元気になってくれたら嬉しいな」




 「……私、遠藤さんの歌を聞いてから、考え方を変えてみたんです。そしたら、今日はいじめられませんでした。やっぱり自分で何か行動することって大事だなって思って……それで、今日勇気を出して電話してみたんです」




 「そんな、俺に電話するのに勇気なんていらないよ。まあ、俺もコミュ障だから気持ちは分かるけどね」




 「そうじゃないんです!……遠藤さん、私……遠藤さんのことが……好きになっちゃったみたいです!」












 なにいいいいいいいい!!!!!なんだこの予想してなかった展開!どうする俺!


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