第24話 童貞ソーヤング

 俺は家に帰ると早速LINEの設定をした。すると電話帳から連絡先がばーっと出てきたが、ほとんど皆黒歴史だ。こういうのはシカトしよう。でも、向こうにも通知が行ってるとしたら……ぞっとする。何か設定で電話番号で通知されない様にするのができたような……でもよく分からん。自分の原始人ぶりに少し驚嘆してしまうぜ。皆よく使いこなせるよなー。現代をサヴァイヴするのはぼっちには障壁が高いな……改めて、自分というものを思い知らされる。しかし、LINE一つでこんなに悩む高校生も俺位なもんか。いや、もっといるはずだ。顕在化しないだけで。まあ、これもリア充への第一歩だ。それに、よく分かんないのは明日、紗奈さんにでも教えて貰おう。




 ……俺、いつまで自分の彼女を「さん」付けで呼ぶのかな。いつか呼び捨てにしたいな……






 「かーずと!」




 「ん?どうした、紗奈」




 「LINE交換しよ!」




 「おお、いいぜ、でもどうやんのか今一分かんねーんだ。教えてくれねーか?」




 「簡単だよー。こうやってさ、お互いのスマホを近づけて、フリフリすれば……」




 「おお!こんなやり方があったのか!さっすが紗奈だな。分かんねーことあったらもう紗奈に何でも聞いちゃうわ」




 「別にいいけど、既読スルーとかやめてね。……寂しくなっちゃうから。ちゃんと、終わりのスタンプとかも決めとこ!」




 「スタンプってのもよく分かんねーんだよな……」




 「簡単だよー!貸して!私が無料のやつ入れてあげるから!」




 「おお、頼むわ」








 ……うん、こんな流れが理想的だな。まあ、現実、そんな風にはいかないんだろうけどさ。妄想は自由だ!バンドがGIRLS FREE!!なら妄想はBOYS FREE!!だ。思春期男子をなめちゃいけねーぜ。そう、妄想の中なら一線を越えることだって……いやいや、それは彼女を汚すことになる。それはやめとこう。……でも紗奈さん以外だったら……








 「和人」




 「ん?どうしました?加奈さん」




 「前も言ったけど、私あなたのこと……」




 「いや、加奈さん俺やっぱり紗奈さんを裏切れないよ。それは分かって」




 「分かってる!分かってるけど……どうしても、気持ちが抑えられないのよ!……一日だけでもいい。いえ、この一瞬だけでもいいから、私だけを見て……!」




 そう言うと加奈さんは制服を脱ぎだす。




 「ちょっ……加奈さん、何を……!」




 「和人は、こういうの嫌い?」




 「いや、嫌いとかじゃなくて……」




 「私、和人にだったら、私の全部をあげられる。それが、例え今この一瞬だけだとしても」




 するすると上も下も制服を脱ぎ、下着姿になる加奈さん。




 「和人……」




 迫ってくる加奈さんを、俺はそっと抱きしめる。




 「分かったよ。今だけ。今だけ紗奈さんのことを忘れる。加奈さんのことしか見ない」




 「……さん付けはやめて。呼び捨てで呼んでよ」




 「……可愛いよ、加奈」




 「和人……大好き」




 「俺もだよ」




 ぎゅっと強く加奈を抱きしめる。そして、唇と唇を重ねる。




 加奈の吐息はとても甘く、本当に一瞬だけど、紗奈さんのことを忘れさせてくれた。




 そして、どちらからともなく、舌を絡め合う。とても濃厚な味のするキス。一体どの位の時間が経っただろう。


 そしてやっぱり体は正直だ、自分の意志とは無関係に、下半身の一部が反応してしまう。それがどうしても加奈の体に当たってしまう。




 唇を離した加奈が呟く。




 「もう……和人ってば、Hなんだから」




 加奈がそういって笑う。そして優しく手を伸ばすと、俺の下半身に触れ……










 だーーーーー!!!!!ここまで!ここまでにしよう!これ以上行ったら、明日加奈さんに会うときに赤面してしまう!大体妄想してる場合じゃなかった!オリジナルの曲をきちんと仕上げないと。折角明日LINEの交換しても、時間を無駄にしてしまう。




 俺はもう一人の恋人ギブソンレスポールを手に取ると、曲を作り始めた。一度集中すると結構のめり込んでしまう。それが俺の良いところでもある。




 「展開は……こうして、サビのメロがな……やっぱメロディが命だからな……」




 こうして俺の夜は更けていくのであった。








 次の日。








 俺は多少寝不足ながら、ギターを抱えて登校していった。




 「おっはよー」




 加奈さんが元気に挨拶してくる。




 「おはよー遠藤君」




 紗奈さんはいつも通り奥ゆかしい。加奈さんに分からない様に目と目で合図をする。この瞬間がたまらなく好きだったりする。




 こうして加奈さんと紗奈さんにいつも通り出会う。二人とも俺が昨日妄想の中でしたことなど知る由もないのだ。……俺サトラレじゃないよな。




 「ん?どうしたの遠藤君」




 「い、いや、何でもないです。あ、LINEインストールしましたけど、やっぱりよく分かんないですね」




 良かった。俺はサトラレじゃなさそうだ。




 「LINEなんて簡単だよ。まあ、昼休み皆が集まったら全員で交換しよっ!」




 加奈さんはほんと元気だし、人を引き付けるよなー。加奈さんがいなかったら俺多分LINEなんて一生使わなかったもんな。




 「でさー。LINEでグループ作ったら、遠藤君そこにスマホで曲弾いてる動画撮って、上げてくれない?それ位はできるっしょ」




 「まあそれ位ならできると思います」




 「そうやって皆で共有しながら曲作っていこ。やっぱあるものは有効に使わないとね」




 成る程ね。で、できたアレンジをそれぞれがまた動画で上げれば確かにイメージは共有できる。時短になって効率的だ。




 俺は昼休みが楽しみになった。そして、このLINEの交換がまた、俺の妄想魂に火をつけることを俺はまだ知らなかった。


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