第26話 待つわ

 「えええええ、えーと、それは、あれかな、俺の曲が好きになったってことかな」




 自分で言ってて白々しい。




 「違います!遠藤さんのことが……好きになっちゃったみたいなんです……あ、いや、曲も好きなんですけど、男性としてっていうか……」




 なんじゃあこりゃあ!!!!




 助けて松田優作!




 「あ、そ、そうなんだ。いや、それは、嬉しいな~。ははは」




 「ははは」じゃねーよ俺!どうする?どうする?5ちゃんねるにスレ立てて、誰かに助けてもらうか?いや電車男はもう大分昔の話だ。そんなことしてる暇もない!それに……俺には付き合ってる紗奈さんがいるではないか。もう、正直に言うしかない……か。




 「遠藤さん……私のことを励ましてくれようとして、色んな歌を歌ってくれたんですよね。私それが、嬉しくって……あんまり、人に優しくされたことなかったし……だからって訳じゃないんですけど、それから遠藤さんのことを見る度に、どきどきするようになって……好きになっちゃいました!」




 「うん、ありがとう……愛花ちゃん。愛花ちゃんの気持ちはとっても嬉しい。だけど……」




 「分かってます。紗奈さんと付き合ってるんですよね」




 えええええ!?知ってたの?つーかバレてたの?あんなにステルスに行動してたのに!?




 「あー、まあ、そういうことなんだよね。うん。だから愛花ちゃんの気持ちは嬉しいんだけど……」




 「待ってください!遠藤さんは紗奈さんと付き合っていてもいいんです!むしろ二人はお似合いです!……って何言ってんだろ私」




 こほん、と一度咳ばらいをして、深呼吸をする音が聞こえた後、愛花ちゃんは話し出す。




 「私、それでもいいって決めたんです。例え遠藤さんの本命が私でなくても、私は2番手だろうと3番手だろうと、それでも遠藤さんを好きでいようって決めたんです。それが私を変えてくれた遠藤さんへの私の思いです。……迷惑なら言って下さい。そしたら……すごい悲しいけど、頑張って遠藤さんのこと嫌いになりますから……」




 けなげや~。こんなけなげな子のこと嫌いになれんぞ~。そこまで俺、鬼になれんぞ~。




 「分かった。愛花ちゃんの気持ちはよく分かったよ。愛花ちゃんがそういうなら、無理に俺を嫌いになって欲しくなんかないし、それは俺も悲しい。だから、これはもしかしたら酷なことかもしれないんだけど、今まで通り俺と接して欲しい。俺だけじゃなくて皆と。そうしている内に、もしかしたらお互いに心境の変化があるかもしれないしさ。それに……せっかく軽音部に入ったんだから、仲よくしよ!だから、結論を言うと、愛花ちゃんの気持ちは俺の中に秘めておく。周りには今までと同じように接する。これでいいかな?」




 「分かりました!私今まで通り皆さんと接します。あ、だけど、一つだけ、心境の変化って言いましたけど、私から遠藤さんを嫌いになることは多分ないです。だから、待ってますね!ずっと!」




 いい娘や~、何でこんな娘がいじめられるんだ。ほんとに世の中は不条理だ。




 「うん、ありがとう。あ、俺も最後に誤解のないように言っとくけど、愛花ちゃんのことは好きだよ。可愛らしいし、いい子だし。だから、明日からも自信を持って学校に来て。そして部室でまたお喋りしよう」




 「はい!よろしくお願いします!」




 「それと、同級生なんだから敬語じゃなくてもいいよ」




 「いや、遠藤さんにため口なんかきけないですよ~。じゃあ、明日また部室で!私の気持ち、聞いてくれてありがとうございました!」




 「うん、じゃあ、また明日ね」




 「はい!失礼します!」




 電話を切る。






 ……ふううううううう……疲れた……








 まさかの展開だったな……しっかし、ここにきて俺はモテキが到来してるのか?まさか他のメンバーも……何てね。しかし、どうしよう、愛花ちゃんと2人きりになって、凄い押して来たら。断れるかな、俺。








 「遠藤さん……やっと2人きりになれましたね。」




 「う、うん、そうだね愛花ちゃん」




 「この前の電話で言った気持ち、私まだ全然変わってませんからね」




 「そうなんだ。それは嬉しいよ」




 「だけど……気付いたんです。いつまでも待ってるだけじゃダメだって」




 「え?それはどういう……」




 愛花ちゃんが俺に近づいてきて、俺の手を取る。そしてそれを自分の左胸に当てる。




 「分かりますか?私の心臓、凄いどきどきしてるんですよ」




 「い、いや分かるけど、それより……胸が……」




 「いいんです。私の全部は遠藤さんの物だから。遠藤さん、今だけ私のこと……好きにしていいんですよ?」




 この言葉に俺も理性を保つことができなくなる。




 「愛花ちゃん!」




 俺は乱暴に愛花ちゃんを引き寄せると、ぎゅっと抱きしめる。




 「遠藤さん……やっと私の方向いてくれましたね……嬉しい……」




 愛花ちゃんは泣きそうになっている。泣いてしまう前に俺は、唇を自分の唇で塞ぐ。




 「ん……」




 永遠とも思える一瞬のキスを終えると、愛花ちゃんの頬は赤く紅潮していて、息が荒くなっている。




 「遠藤さん……私の全部、貰ってくれますか?」




 「俺でいいのかい?愛花ちゃん」




 「遠藤さんじゃなきゃダメなんです。どうか、私の初めてを……貰って下さい」




 そういうと、愛花ちゃんは俺の手を取り、自分の下半身へ……










 だーーーーーー!!!!また妄想してしまった!……俺最近こんなんばっかだな……でも今日のあの電話は妄想のネタになるよ。妄想してくれって言ってるようなもんだよ。ずるいよ。だから、今回俺は悪くない。紗奈さん、裏切ってないよ!そして、紗奈さんでは妄想してないよ!だから安心してね!




 あ、紗奈さんに電話してみようかな……でも、こんなことがあったから今電話するとちょっとな……明日にしよう。それに本人に確認を取ってからにしよう。




 今日は寝よう……疲れたぜ……






 こうしてLINE交換してから初の事件は終わったが、まだまだ事件は続くのであった。


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