第27話 バームクーヘン
次の日、昼休み、紗奈さんと部室に行くともう愛花ちゃんは来ていた。一瞬昨日の電話のことがよぎったが、愛花ちゃんの方は全くそんな様子を見せることなく、いつも通り接してくれた。ほんとにいい子だ。紗奈さんとも、仲よく話している。けなげや~。でも、何でばれたんだろう、俺と紗奈さんが付き合ってるの。2人ともかなり気を使っているはずなのだが……
そうこうしている内に、上級生3人組が来た。いつもの昼食会が始まる。この日の話題は、俺がLINEに上げた曲の話題が中心だった。
「遠藤君、中々センスあるよ。あんなメロそんなに出てこないって」
珍しくまどかさんが褒めてくれた。結構幅広く音楽聞いてるまどかさんからそういう言葉が聞けると嬉しい。
「展開なんだけどさ、やっぱり最初はオーソドックスに、Aメロ、Bメロ、サビ、Aメロ、Bメロ、サビ、Cメロ、サビ、サビ、みたいな展開がいいのかなって思うんだけど、どうかな。最初だからいきなり冒険するのはやめた方がいいと思うんだけど」
加奈さんが急に突っ込んだことを言い出す。
「うーん、最初はとりあえずそれで練習してみて、気持ちいい展開にしていくように色々いじってみたらいいんじゃないかな。私のドラムも、いきなりレゲエとか入れないで、ストレートにメロコア調で行くからさ」
まどかさんは至って正論。やはりこの2人がバンドの要だね。
「私のキーボードはどうしたらいいんでしょう~?」
そうかと思うとカスミさんがちょっと困り顔だ。思えば確かにカスミさんはそれ程メロコアに造詣が深いという訳でもない。好きな曲をジャンル問わず聞くのがスタイルだったはずだ。だから、メロコアにバシっとはまるキーボードが思いつかないんだろう。「夜王子と月の姫」では上手くアレンジして弾いていたし、シンセじゃないと出せない音もあったから、助かったんだけど……どうすっかな……
……うーん、困ったときはハイロウズだな!
「カスミさん!今度持ってくるんで、ハイロウズの「バームクーヘン」ってアルバムを聞いてみてください。白井さんていうキーボーディストが弾いてるんですけど、ギターと上手いこと調和して、良い感じのやつで、メロコアではないけどパンクなんで。何なら何かのストアで買って聞いてみてもいいですし」
「そんなアルバムがあるんですね~。あ、だったら今日借りに行ってもいいですか~?」
カスミさんがそう発言した時、紗奈さんと愛花ちゃんの2人が、ぴくっと反応したのを俺は見逃さなかった。
「いや、今度持ってきますよ。わざわざ取りに来てもらうのも悪いし……」
「え~早く聞きたいです~。駄目ですか~?」
「いや、駄目じゃないですけど……」
何だか、視線を感じるが、言いたいことは分かっている。俺は紗奈さんすら、自分の家に呼んだことはない。まあステルス恋愛をしてる以上しょうがないところだ。愛花ちゃんにしてみても、紗奈さん以外の女の人が俺の家に来るのは、あまり好ましくないのだろう。だけど先輩の頼みだし……今回は目を瞑ってくれ!2人とも!
「……分かりました。じゃあ、帰りにうちに寄って下さい。反対方向ですけど、大丈夫ですか?」
「全然大丈夫です~。早く聞いてみたいです~」
「ちょっと待って」
加奈さんが口を挟む。
「バームクーヘンの曲位YOUTUBEに転がってるんじゃない?探してみようよ」
おお!その通りだ!このスマホ全盛時代にCD何て前世紀の遺物を引っ張りだすことはないのだ。
「ほら、幾つかあったよ。聞いてみな」
皆が加奈さんのスマホに集まる。そこで流れたのは、「ハスキー~欲望という名の戦車~」と「罪と罰」という曲だった。どちらもシングルカットされている名曲だ。
カスミさんが頷きながら聞いている。
「成る程~。確かにギターと調和してますね~。ますますCDが聞きたくなりました~」
ぐっ、そこは譲れないのか!できればここで納得してほしかったが……
「むしろハイロウズのCD全部貸してください~。参考にしたいです~」
そう来たか!確かに全部持っているが……最後の1枚なんて白井さん脱退してるぜ……まあそんな細かいことはどうでもいい。結局カスミさんがうちに来るのは避けられないということか……
紗奈さんにこっそり目配せすると「仕方ないよ」という顔をしていた。さすが話の分かる彼女。愛花ちゃんは……何かカスミさんに嫉妬の炎を燃やしている気もするが……表には出てきていないので、そっとしておこう。
「じゃ、じゃあ、放課後、一緒に帰りましょう。持ってるCD全部貸しますよ」
「やった~。是非聞いてみます~」
こうして、カスミさんが急遽家に来ることになった俺は、また一つ波乱の予感がするのであった。
そして放課後……一通り練習を終えた俺たちは、帰り支度をする。
「じゃあ借りに行きますね~。一緒に帰りましょ~」
「ええ、でも紗奈さんと加奈さんも途中まで一緒なんで。まどかさんと愛花ちゃん、また明日ね」
「うん、また明日」
「遠藤さん……私は信じてますからね!」
意味深なことを言い残して愛花ちゃんはまどかさんと一緒に帰って行った。
「じゃあ、帰りましょ~」
カスミさん主導で俺たちも帰り道を行く。俺の心臓はばくばくだ。なぜなら自分の家に女の子を上げたことなどないからだ。しかも!今親父はツアーに出てていない!お袋はとうに死別している!つまり、家には俺一人だということだ!
どうなるかは全て……俺次第……か。
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