第47話 動員~人を呼べ~

 「じゃあ、愛花ちゃんを中心に動画を拡散して、ライブの集客を増やしましょう!」




 そんなに上手くいくのかな……皆住んでるところもバラバラだろうし……色々懸念はあるけど……




 「まって加奈。Twitterで拡散しただけで、ライブの客が増えるっていうのが、ちょっと疑問なんだけど」




 まどかさんがズバッと言う。まあ皆思ってることだからな。まどかさんの性格なら言っちゃうわな。さらにまどかさんは続ける。




 「もっと言わせてもらえば、Twitterのフォロワーなんて皆どこに住んでるか分かんない人たちだよ?ライブに来てくださいって言っても、物理的にこれない人も沢山いると思う。それを見込み客とするのはどうなかと思うわ」




 全くの正論に加奈さんもぐうの音も出ないようだ。しかし、全くもってその通りだった。若干気まずい雰囲気が流れる。その空気を嫌うように、愛花ちゃんが発言する。




 「とりあえず、動画は拡散してみます。でも他にも集客の手を考えて、二重三重に人を集めていくことができれば、きっと上手くいきますよ」




 その発言を聞いて、加奈さんも気を取り直す。




 「そうね……確かにSNSだけじゃ限界があるのは分かったわ。他に手を考えましょう」




 それから皆でわいわい話しながら、良い考えを探した。




 色んな考えが出てきた。例えば、路上で弾き語りをして、客を呼ぶ。チケットを配って来てもらう。友達を片っ端から呼ぶ。しかし、どれも問題があった。




 まず、路上で弾き語りをした場合、紗奈さんが歌えばある程度人は聞いてくれるだろう。しかし、やるのはバンド演奏だ。弾き語りじゃない。それで人が来てくれるか疑問が残る。チケットを配るのはもっと疑問だ。ただ、ティッシュを配るようにチケットを配ったって、それで来てくれる可能性はほとんどない。友達を呼ぶのは一見効果がありそうだが、俺を初め、友達が多い人があまりいない。どれも五十歩百歩と言ったところだった。




 そこで、ふと俺はあることを思いついた。




 「大会……」




 皆が俺の方を向いた。




 「そうだ、学生バンドを対象としたアマチュアバンドの大会がもうすぐありますよね、そこでこのバンドで発表をしましょう!そうすれば友達じゃなくてもいいと思えば来てくれるだろうし、もしダメなら、そもそもオーディションに受かる可能性は低いです。一つの試金石として、大会に出ましょう!」




 そうだ、何で気が付かなかったんだ。ライブハウスに出る以前に、そういう大会に出て、自分たちの実力を知ることができれば、もっとバンドも良くなる。それに、そこである程度の見込み客もできる。いいことづくめじゃないか!




 加奈さんが俺の発言について疑問を投げかける。




 「でも、その大会ってデモテープがいるでしょ?今から作れる?」




 「作りましょうよ!丁度機材は揃ってるんだし、ここにあるものだけで、それなりのものは出来ますよ!」




 まどかさんが俺の背中を押してくれる。




 「そうか、大会に出れば、ひょっとしてレコード会社の人の目にも止まるかもしれないし、そうすればオーディションなんてすっ飛ばして、ライブハウスでライブできるようになるね」




 「そうですそうです。だから、俺らが今やることは、良い音源を作ることですよ!」




 俺が折角作ったTwitterアカウントは何だったのだろうという疑問を感じながら、俺は自分の考えを主張する。後は加奈さんがどう思うかだ。




 「……分かった。私が浅はかだったわ。SNSを頼みにするより、実際の音を届けた方が、そりゃあ効果あるわよね。よし!気持ちを切り替えて、バンド大会目指してやっていきましょう!遠藤君いいこと言うじゃない!」




 「まあ、たまには……」




 「皆、今の遠藤君の意見に意義のある人はいる?」




 幸い皆賛同してくれた。よし、これで目標もできた。後は突っ走るだけだ。




 「じゃあ、放課後から、早速音源づくりに向けた行動をしていきましょう。ここにある機材でできることを良く把握して、良いものを作りましょうよ」




 俺が最後皆に発破をかけて、皆勢いづく。しかし、愛花ちゃんだけは少し寂しそうだった。




 「あれ、愛花ちゃんどうしたの?何か嫌だった?」




 「いや、嫌じゃないです!でも、私も皆さんの役に立てるときが来たのかなって思っちゃったから……音源づくりってなると私やることないし……」




 成る程。そこで俺はフォローを入れる。




 「愛花ちゃん、愛花ちゃんは、俺らの音を聞いて客観的な意見をくれる人になってくれればいいんだよ。どうしてもバンドメンバーだけだと、主観的になりすぎて、音がちぐはぐになったり、誰かの意向が強く出すぎてしまったりする。そんなとき、愛花ちゃんみたいな外から聞いている人がきちんとした意見を言ってくれればバランスがとれるんだ。だから、しっかりバンドの音を聞いていて」




 「……分かりました!それなら、私やります!」




 うん、自分で言っといてなんだが、こういう人も絶対に必要だ。そういう意味で愛花ちゃんは重要な人物と言える。








 こうして、俺たちは放課後から音源づくりに励むことになった。良かった、加奈さんとまどかさんが喧嘩にならないで。まあ、元々仲良しだから喧嘩にはならないか。でも、最終的に意見が纏まらないとバンドがぎすぎすしちゃうからな。




 しかし、音源づくりとは言うのとやるのとではまた違った苦労が出てくるのだった……


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