第48話 レコーディング
ということで、早速音源づくりに取り掛かる俺たちGIRLS FREE!!だったが、中々一筋縄ではいきそうになかった。過去の遺産をほじくり出すところから始めたが、やはり使ってない機材が多く、型も古い物が多いので苦労しそうだ。
しかし、一応ミキサーはあるし、それなりのものは出来そうではあった。それなりがどれなりになるかは、これからやってみないと分からないが。
「はい!この中で、ミキサー使える人!」
俺が試しに声を掛けてみる。
シーン……
そりゃそうだわな。
でも使いこなさなくては……幸い結構チャンネル数はあるから、ドラム録って、ベース録って、ギターを重ねて、キーボード入れて、ボーカルとそれにコーラスを重ねるギリギリ位は行けそうなんだが。
「じゃあ、一からいじくってみますか。まずドラムから録っていきましょう。でそれをイヤホンで流しながら、他を重ねていくと。何事も実践してみないと始まらないですからね」
と、やり始めてみたものの……
……その日は、マイクの置き方や音量調節だけで終わってしまった。
帰り道、加奈さんが少し不安を口にした。
「やることが決まったのはいいんだけど……本当に上手くいくのかな……」
俺が元気づける。
「なーに言ってんすか。上手くいかせるんですよ。これでだめだったら、お金出してスタジオで録ってもらえばいいんだし。やるだけのことはやりましょう。きっと上手くいく筈です」
「遠藤君は強いね。私色々不安になっちゃって……」
「俺がこんな強気になれるのも、加奈さんを始めとするメンバーがいるからですよ。俺一人なら何もできないですもん」
「ありがとう。そうだね、やるだけやってみようか」
そして、次の日……
俺たちはダッシュで昼飯を食べ、昼休み返上でまたミキサーと格闘することになった。
「ここをこうして……こうすれば……まどかさんちょっと叩いてみてください」
「いくよー」
部室内にドラムの音が響く。それに伴ってミキサーの音量を示すランプが上下する。うん、上手くいきそうだ。
「これでよさそうです。昼休みの内にドラムは録っちゃいましょうか」
勝負の曲は唯一まともに完成している「Rainy days」だ。後、もう一曲の方のオリジナルも完成させなきゃなー。こりゃやることは山積みだぞ。
取り敢えず、昼休みの内に何とかドラムは録り終わった。次はベースだ。放課後、早速録音に取り掛かる。これはアンプ経由でミキサーに繋げればいいだけだから、ドラムより早くいけそうだ。ベース採り終わったら、ギターを入れなきゃ。どん位重ねるか……
音源作りの難しいところは、音の重ね方にもある。ギターやコーラスをオーバーダブといって、何重にも重ねて音の厚みを出すことができるが、あんまり重ねすぎるとライブでの再現性が下がってしまうのだ。ただ、このバンドには幸いキーボードがいる。あまりギターを重ねなくても音の厚みは出そうだった。
ベースはあまりテイクを重ねずに録り終えることができた。今まで話題に上らなかったが、加奈さんのベースは上手い。初めてバンドをやるとは思えないくらいだ。相当練習してきたんだろう。銀杏BOYZの変態的なベースラインにも対応できていたし、リズム隊はしっかりしていそうだ。次はいよいよ俺の番だ。
まずはバッキングと言って、コードを中心とした全体の背景となる部分を録っていく。歪みの調整をして、ブリッジミュートを決め、かき鳴らすところはかき鳴らし、曲の全体像を作っていく。この作業はこの作業で楽しいな。ただ、凝り性な自分が出てしまいテイク数を重ねることになってしまった。お蔭で今日はここまでとなった。
次の日、ギターの残りを録り、キーボードを入れる。これもスムーズに行った。カスミさんも芸達者だなー。いい感じに曲にアクセントが付いた。
今度はボーカルだ。今までの作業はボーカルを活かすためといっても過言ではない。ボーカルが曲に魂を吹き込むのである。そして、それが終わったらコーラス録りだが、ボーカルは僅かな部分でもこだわりたい。呼吸するタイミング、ファルセットの入り方等々。俺を含め紗奈さんを除く全員がなぜかここだけ厳しいプロデューサーみたいになってしまう。
「Aメロはもっと抑えて良いんじゃない?」
「サビはもっと勢いよく!」
「ギターと歌だけの部分は肝になるから、もっと情感を込めて!」
様々な指示が紗奈さんに飛ぶ。つい夢中になって俺も色々注文をつけてしまう。しかし、紗奈さんはよく対応してくれた。しかも、肝心かなめの音程はずっと外れずにキープしている。やっぱり才能があるんだと思う。どうしても細かい部分はブレたりするものだが、そういったこともなく、指示に従って色々なパターンのボーカルを繰り出してくる。凄い。
パソコンの編集ソフトがあれば、録った音をいじくって、多少の音程のブレ何かはカバーできるんだが、なにせ機材の問題で全て一発録りでやっているので、本当に苦労する部分なのに……内心どう思っているんだろう。特に反論もせず、淡々とこなしているが……ちょっと今日電話してみようかな。
紗奈さんの凄いボーカルのお蔭で、スムーズに曲が形になった。後はコーラスを被せるだけだ。それは明日回しにしようということで、取り敢えず解散となった。
帰り道、何だか紗奈さんは無口だった。俺も無理に話しがかけなかったが、少し気になった。やはり、何か思うところがあるんだろう。
夜、LINEで電話を掛けてみる。
そこで出た紗奈さんは泣き声だった。
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