第38話 エルビス(仮)

 放課後になった。いよいよ、歌詞付きで練習だ!そこでまた、まどかさんが鋭い一言を放つ。




 「ねえ、オリジナルのタイトルどうする?」




 この言葉に一瞬皆が顔を見合わせる。思うことは一つだった。「それがあったか!」である。




 しかし、タイトルなんてのは後からでどうとでもなるものだ。勿論タイトルありきで曲を作る人もいるだろうが、今回はテーマや歌詞が先にできている。それならばそんなに焦ることはない。




 「まあ、後でゆっくり考えればいいんじゃないですか?取り敢えず練習を進めましょうよ」




 と俺が提案すると、まどかさんも、




 「うーん、まあそうか。それにこだわって練習がおろそかになっちゃ困るもんね」




 と納得してくれた。良かった良かった。でもタイトルか……いつかは決めなきゃいけないよな。タイトルを決めるのにもバンド名を決めるときほどではないが、何やかや揉めたりするのが常だったりする。歌詞から取る派もいれば、イメージから取る派もいるし様々なのだ。まあ、そんな喧々諤々は後回しだ。今は歌詞の決まった「ラブソング(仮)」を練習するのが先決だ。




 早速一回、せーので合わせてみる。紗奈さんは歌詞を見ながら、仮歌を入れていた部分に当てはめていく。うーん、やっぱり雰囲気が違う。何ていうか曲が曲になったというか、やっと全体像が掴めるようになった感じだ。でも実際に合わせてみると歌詞が上手く当てはまらない部分も出てくる。そんなときは上手くアレンジして紗奈さんが歌うことでカバーした。どこで切るか、息継ぎをどこでするか、そういった細かい部分まで計算して曲が成長していくのだ。




 一度曲を通してみると、実際の感じが掴めてきた。必然にギターアレンジも変わってくる。曲の持つイメージが固まってきたから、それに合わせて雰囲気を作っていく。ギターもボーカルと同じくこういう細かいことを繰り返し行い、曲を成熟させる。




 「大分雰囲気掴めてきましたね。コーラスやハモリも入れてみますか?」




 俺が提案すると、皆乗ってきた。




 「私も歌いたいです~。ラブソング歌いたい気分です~」




 とカスミさんが、俺の方を見ながら危ない発言をする。




 「じゃあ、カスミサビの部分、上でハモれる?入れてみよっか」




 加奈さんが早速指揮を執る。




 「俺もラス前からラストのサビの時にコーラス入れましょっか。やっぱり盛り上がる感じにしたいですよね」




 「うん、じゃあやってみよう」




 加奈さん指導の下、もう一度合わせてみる。こう見えてハモるのは中々難しい。どうしても主旋律の方が強かったりするので、つられてしまうことが少なくない、しかしカスミさんは上手くハモって見せた。さすが。俺も適度にコーラスを入れる。あくまでメインボーカルをつぶさない様に。段々、最後の盛り上がりも出来てきた。




 「中々いいじゃん。特にカスミのハモリはもっと入れていってもいいかもね」




 加奈さんの気分も上々のようだ。




 「私はいいですよ~。どんどんハモります~」




 カスミさんもノリノリだ。




 まどかさんも不服はないらしい。




 紗奈さんは……あれ?




 「あの……ハモリもいいんだけど、私、1か所でいいから私だけで歌う場所が欲しい。そこはブレイクっていうか、ギターと歌だけの部分を作りたい」




 何となく想像はできる。よくある展開っちゃよくある展開だが、曲が一本調子にならない様に、途中でギターと歌だけの部分を挟む曲はよくある。ただ、この曲は疾走感も大事だ。どうするか……




 「うーん、途中で一回入れてみるのはいいけど、それで曲の勢いが止まったりしないかな……」




 加奈さんは心配そうだ。しかし、俺がすかさずフォローを入れる。




 「曲間にギターと歌だけになるのはよくあるっちゃよくある展開なんで、勢いが止まるっていうか、緩急をつけるっていういい方向に働くんじゃないですかね。ギターソロ後のサビを1回それでやってみましょうよ。駄目なら元通りやればいいんだし」




 「そうか、そうだね、バーッと駆け抜けるのもいいけど、緩急付けるのも大事かもね。よし、やってみよう」




 そうそう、何でもやってみるのが大事なのだ。失敗してもやり直せばいいだけだし。それに紗奈さんのギターと歌だけで行きたいっていうお願い事は、ぜひとも叶えてあげたかった。




 実際にそれで練習をしてみる。……悪くはない気がする。俺と紗奈さんだけの世界が一瞬でも出現するのはとても気分がいい。でも曲全体としたらどうだろう。ちょっと聞き比べてみようか。




 「愛花ちゃん、悪いんだけど、スマホで演奏録ってみてくれない?聞き比べてみましょうよ」




 俺の提案に皆賛成する。




 愛花ちゃんの協力を得て、2パターンの演奏をする。さてさて……では聞いてみましょう。








 うーん……やっぱり俺と紗奈さんの歌だけの部分があった方がいいような気がする。展開的にもその後のサビに上手くつながるし、やっぱり緩急あった方がいいや。皆はどうかな?




 「……あった方がいいね」




 加奈さんが言う。その言葉に皆同意する。おお、意見が一致した。良かった俺だけじゃなかった。




 「じゃあ、採用で!」




 「良かった……」




 紗奈さんは嬉しそうだ。俺と2人だけで作る瞬間があることが本当に嬉しいのだろう。その気持ちを想像するだけで俺も嬉しくなるよ。








 こうして曲作りは進んで行く。繰り返し繰り返し練習していくうちに皆こなれてくる。まどかさんの入れるおかずが尋常じゃない量になってきたり、加奈さんもアドリブを入れるようになってきたり余裕が出てくる。こうなると、いよいよ自分達の曲だという思いが強くなる。






 さて……タイトルどうしよっか……






 練習後、再びタイトルの話になる。




 「やっぱり人を引き付けるタイトルが欲しいよね」




 「単語で行くか、文章にするかも大事だよね」




 「日本語と英語混ぜるのとかよくあるよね」




 「結局何がいいんだろうね……」






 と、想像通り難航した。結局決まらなかったので、各自の宿題になった。そして、話はそれで終わらなかった。加奈さんがとんでもないことを言い出したのだ。




 「GIRLS FREE!!もある程度持ち歌が出来てきたし、ライブやったりデモテープ採ってレコード会社に送ったりしていきたいよね」








 ……まあ、そうだよね。バンドやってる以上、そうするのは必然だよね。だけどライブ……




 俺が人前でギター……




 ぼっちで陰キャでコミュ障の俺が……




 考えただけで緊張する。できるかな……




 ええい、弱気になっても仕方ない!ここはひとつ!加奈さんの思うままに!……って結局流されてるのと一緒か。でもバンドやるって決めたときから、それは避けては通れない道だと分かっていたはずだ。覚悟を決めろ俺!






 「と、いうことで、次はライブハウスのオーディション受けにいくよ!」




 加奈さんが持ち前のリーダーシップを発揮して皆を納得させた。俺も腹を括った。










 だけど……不安だなあ……と、思ってる俺をよそに話はどんどん進んで行くのであった。


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