第37話 ラブソング探して

 加奈さんが書いた歌詞……俺も興味があった。どんな歌詞を書くんだろう。俺が作った歌詞が反映されてるかな……おそるおそる覗いてみる。










 見慣れた街の景色に ひと際溶け込むあなた


 だけど、私が手を伸ばしても 届きはしない彼方


 求めて許されるのはどこまで?


 「全部」って言いたい気持ち分かって。


 確かなものを欲しがれば欲しがるほど


 不確かなものに追い詰められていくけど




 それでも言いたいの


 少しでも会いたいの


 絶対に聞きたくないNO


 答えは既にYOU KNOW


 だけど知りたくないの




 私の物を全部あげたら 世界はかわるのかな


 命だって惜しくはないけど 無題のままじゃ嫌だな


 名前を付けて欲しくて 通じ合っていればなおさら


 私を呼んでみてよ 切なくなるくらいなら


 全てを捨てても ついていくから




 何の価値もなかった私に あなたがくれたものはたった一つ


 そのためだけに 生きていこうと誓ったのです


 神様に許しなんて請わないわ


 だって決めたのは私だから










 ……一読してこれを加奈さんが書いたと思うと切なくなる気持ちがあった。とてもよわよわしく、それでいて決意を示している歌詞。粗削りな部分も多分にあるし、ここをこうしたらって思う場所もないわけじゃないが、これはこれで形になっていると思う。思いは伝わってくる。皆はどんな反応なんだろう。周囲を見渡してみる。皆何かと見比べている。その見比べている方を見ると……俺の歌詞だった。まじか!こんなところで公開されているとは……少し恥ずかしいじゃないか!まあいいけど……




 一通り見終わると、まどかさんが呟いた。




 「うん、良くなってる。正直なこと言うと、まだ改善の余地はあると思うんだけど、これはこれでいいんじゃないかな。前のはどこか焦点がぼやけていたから、結構厳しめに言わせてもらったけど、今回のはどっちも形になってるんじゃないかな。後は音にはめてみて、微調整していくのがいいんじゃない?で、やってる内に歌ってる紗奈の気持ちも乗せられるようになってくれば」




 「同感です。で、正直な話をすると片方は俺が作ったんですけど……だからって訳じゃないけど、加奈さんの方をメインにどんどんブラッシュアップしていけばいいと思います」




 俺もまどかさんに賛同する。すると、驚きの声が上がる。




 「え、もう片方遠藤君が作ったの?なによ、ギター弾くだけが能じゃないんだね~」




 まどかさんはいつだってストレートだ。そこがいいところなんだけど。加奈さんはどんな気持ちでこれを皆に見せたんだろう。




 「……他の皆はどう?何か意見ある?」




 加奈さんが心配そうに言う。




 「私は……いいと思うよ。やってみなきゃだけど、でも今の段階では結構いい感じ……かな、へへ」




 「そうですね~読んでてちょっと切なくなりましたもん~」




 「そうですよ、結構いいと思います!私は聞き専ですけど……」




 と、各自それぞれ好評のようだ。だったら、もうこれで行こう。先に進もう。それには少し弱気になっている加奈さんの背中を押すことが必要だった。そして、きっとそれは俺にしかできないのだろうと思った。




 「加奈さん、これでやってみましょう。思いは込められたんですよね?」




 加奈さんが頷く。




 「じゃあ、決まりだ!この加奈さんの思いをぶつけましょう!そのために皆協力しますよ」




 「……大丈夫……だよね。笑われたり……しないよね」




 「大丈夫です!弱気になるなんて加奈さんらしくないですよ!これで行きましょう!」




 「うん……分かった!これで行こう!合わない部分は直せばいいんだし、必要な部分が出てくれば足していけばいいんだしね!よし、ちょっとすっきりしたよ~。今までずっと悩んでたから……」




 「見てても分かりましたよ。悩んでるのは。皆心配してたと思います」




 皆同意する。




 「そっか、ごめんね心配かけちゃって。こっからはいつも通りいくから!心配何てさせないからね!」




 加奈さんが元気になってくれて俺も嬉しい。しかし、俺への思いがこの歌詞に込められてると思うと、少し複雑な思いがある。何だか切ないなあ……






 あっ、俺はふと思い出した。






 「そういえば紗奈さんも歌詞を考えてたんじゃなかった?」




 「え!?私の歌詞?そりゃあ考えてはいたけど……全然纏まらなくって……また、次回……ね?」




 「まあそれならそれでいいけど、気になるなあ」




 「まあ、いいじゃん。今回は加奈の歌詞で行くってことで」




 まどかさんの一言で、話しは纏まったのでこれ以上蒸し返すこともないか。でも気になるなあ。紗奈さんも俺のために描いてくれてたんだろうから。それがどんなものであっても、いつか見てみたいと純粋に思う。まあ、いつか見れる日もくるだろう。その時までお預けだ。




 よし、じゃあこれで本格的に練習に入れるぞ!これが完成すれば持ち歌が3曲になる。……もう少し欲しいな。まあ焦りは禁物か。取り敢えず目の前のことに集中しよう。






 「よし、じゃあ皆、ご飯食べよう!」




 そうだ、今は昼休みだった。弁当を食べないと。本格的な練習は放課後だな。わくわくしてきた。それは俺だけではないようで、皆の雰囲気も早く練習したいっていう気持ちが溢れている気がする。






 これから本格的に指導していくことになるGIRLS FREE!!だったが、色んな困難が待ち受けていることを俺たちはまだ知らなかった……




 

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