第8話 自由っていったいなんだい?
加奈さんのお蔭でバンド名も決まり、いよいよ本格始動となったバンド活動だったが、この日はもう遅かったので本格的な練習は明日からになった。今日は解散となったので、三々五々帰ることとなった。
あれ?よく考えてみたら、俺変える方向、村田姉妹と一緒じゃね?途中まで何か話さねーと気まずいじゃん!そしてその心配は加奈さんの一言でより深まった。
「遠藤君、道一緒だよね?一緒に帰ろっか」
うおおおお、来たーーー!まさか村田姉妹と一緒に帰るとは!勿論OKだが、いよいよ何を話そう……
「い、い、いいっすよ。帰りましょう」
取り合えず、一緒の方向に歩きだす。すると、俺の心配をよそに、加奈さんが喋りだした。
「私さあ、本当にこの学校に転校してきて良かったと思ってる」
何だ何だ、何のカミングアウトだ?ちょっと心して聞かねば。
「そうなんですか?」
「うん。前の学校では友達がいっぱいいて、それはそれで楽しかったんだけど、皆に合わせてたんだよね。自分の本当に好きなものとか隠して、アイドル好きな振りとかして。そうやって皆に溶け込むのも楽しいっちゃ楽しいんだけど、何か違うってずっと感じてた。でもこのまま行くんだろーなーって漠然と思ってたんだけど、突然親の都合で転校が決まってさ。その時決めたんだ。次の学校では、自分を偽らずにやってみようって。自分が好きなことを「好きだ!」って言って、それが人と違っても自分のやりたいことをやって。そうしようって決めてここに来たんだ。で、やってみたらトントン拍子にバンドができたじゃない?ほんと、転校してきて良かったなーって思ってさ」
ああそうか、加奈さんがバンド名決めるとき、輝いて見えたのは気のせいじゃなかったんだと気付いた。自分の好きなことを、思いっきり主張してそれを実行する。それはとてもキラキラすることなんだな。俺はそんな加奈さんに少しあこがれの気持ちを持った。俺はずっとぼっちで、誰にも自分の主張なんてしなくて、ただ自分の世界に引きこもっていたから余計にそう思うのかもしれない。
あれ、でも加奈さんはいいとして紗奈さんはどうなんだろう。この学校に来て良かったって思えてるのかな。
「あ、あの紗奈さんは、どう?この学校」
やっぱり名前で呼ぶのは恥ずかしいぜ!だけど、大分自然に呼べるようになってきた気がする。
「私は……正直前の学校の友達との別れが辛かったのもあるから、まだ分かんないです……でも、お姉ちゃんがこんなにキラキラしてるのを見ると、私もそうなりたいって思う……かな……へへ」
「そうよー。紗奈、あんたは自己主張しなさすぎのところがあるんだから、もっと自分を解放してあげなさい。何でもそうだけど、うじうじしてても仕方ないよ?状況変わるわけじゃないし」
加奈さんの紗奈さんに対する言葉が、まるで俺に言われているようで、胸がちくっとした。俺は何をしていたんだろう。
こんな風に加奈さん主導で話をしていたら、あっという間に分かれ道に着いてしまった。心配することなんて何もなかったんだ。
「じゃあ、私達こっちだから!GIRLS FREE!!頑張るよ!いいわね!」
「は、はい!」
「じゃあねー」
「じゃあ、さよなら、また明日教室で」
「うん、じゃあまた明日」
……聞いたか俺。紗奈さんが「また明日教室で」って言ってくれたぞ?聞いてたか?俺!?
俺は2人が見えなくなると、無性に駆け出したくなった。
うおおおおおおお!俺も変わる!加奈さんのように!きちんと紗奈さんとクラスで話せるように!きっと変わる!ロックの神様!パンクの神様!力を貸して下さい!!
と心の中で叫びながら、家まで全力ダッシュで帰った。制服が汗まみれになったが、そんなことはどうでもよかった。
帰って、晩飯食って、風呂入って、一通りのことをすませ、自室に戻ると、俺は今日の出来事を振り返っていた。それにしても……色々なことがあった日だった……まさかバンドを組むことになるとは……しかも紗奈さんと!でもあの歌唱力は凄かった。それにあの加奈さんの輝き。キラキラしてたなあ。好きなことを好きだって言って、実行する人ってあんなに輝けるもんなんだ。俺もあの二人に負けないくらいの何かを持たなきゃ。それにまどかさんもカスミさんも可愛いし、愛嬌あるし、俺が足を引っ張るわけにはいかない。STAYGOLDのリフを弾いた時、加奈さんは俺を認めてくれたんだ。だったら、それに応えなきゃ!
気が付くと俺はギターを持っていた。そして、「夜王子と月の姫」をひたすら弾きまくった。世界の終わりが来た時、俺が紗奈さんを迎えに行くのを妄想しながら……
そして夜更けまで練習して、気が付くと朝になっていた。いつもと違う朝だ。ロックの神様!パンクの神様!今日紗奈さんに掛ける第一声は「お早う」でいいですか?見てて下さい。きっと変わって見せますから!世界を変える力なんて俺にはないけど、自分を変える力位あるはずだ。よし、いざゆかん!戦場……もとい、学校へ!
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