第16話

 魔導具のオーディオの効果は絶大で、バフのように彼女達の気持ちを落ち着かせた。

 いってらっしゃいとエリオたちを見送る家神様マリベルに挨拶をして、みんなはハウスから出た。

 ハウスの外に出ると、正面の大きな門があり左右に狛犬ケルベロスが石像のように鎮座しているのが見えた。

 狛犬ケルベロスは攻撃範囲に入らない“アカツキ“には興味を示さず、微動だにしなかった。

  ミリアはユウコの背にジャンプで乗ると、エリオが彼女達をロープで縛る。


「このロープってブラの代わりになりそうっすよね」

 腹部でぐるぐる巻にされたロープが彼女の胸を押し上げる、少し苦しいのかロープをグイグイと調整して胸を揺らす。

 そんな訳ないでしょと背中に背負われたミリアは呆れるが、実際にはユウコの胸を押し上げているのを見てマリアは持つものと持たざる者の差なのだとミリアに向かってジャポニカ風の合掌した。

 マリアはジャポニカのノリツッコミをユウコから教わっており、ユウコが胸を強調する動作をしたらミリアに向かい合唱するのだと教示されていた。

 そして、今がその時とマリアはユウコから今っすよサインを受けていたのだが。

 

 エリオはそんなマリアにつられ、そのポーズの意味が分からずにマリアに倣い合唱した。


 当然、二人とも杖で叩かれ怒られた。ユウコはそんなエリオたちを見て自分の言うとり狂暴でしょとドヤ顔をする。

 コブになった頭をさすり、結構本気で叩かれたなとエリオは叩かれた意味もわからず、ごめんと謝ると二人の大剣と杖をロープで結んだ。

 ちなみにマリアの帽子には金属と衝撃吸収材が入っているので、杖で叩かれても全く痛くないのだ。

 

「ロープって言うのが不安材料っすけど、ガツンとやってやるっすよ」

 武器を縛っているとユウコが心配そうにロープで縛られた武器を見る。

「うん、大丈夫だよ。これマジックロープで結んだ人以外は外すことができないから」

「エリりんが死んだらどうするんっすか?」

 自分が死んだこと前提で話すユウコに苦笑しながらも、確かに死んだら外せなくなるなと納得して、ナイフで簡単に切れますよと笑って伝えた。


「ういっす、ナイフで切れるんっすね」

「ユウコ、エリオは死なないわよ」

「念のためっすよ、ミリりんと一生このままになれるなら、エリりんを殺すのもありっすからね」

 冗談とも本気とも思えるようなことを言うとユウコはニヤリと笑う。

 そしてミリアを背負い直しては尻をワシワシと触り、もう少し肉つけた方が揉みごたえあるっすよと言ってミリアにポコリと頭を殴られた。


「有栖川さんの手と武器もロープで結んだ方がいいかもね」

 エリオはそう言うと残ったロープをアイテムバッグから取り出し、ミリアの手だけ武器に結んだ。

 自分はいいっすかと言うユウコに攻撃するのに手首が固定されてると威力が弱くなるからとエリオは彼女の手は固定しなかった。


「キツくない?」

 エリオは硬めに絞ったロープを確認しながらミリアに尋ねる。

「うん、このくらいなら大丈夫よ。下手に緩かったら外れちゃうしね」

 大剣を振り回すユウコの動きにミリアの腕はまるで操り人形のようにブラブラと操られる。

 もちろん、ただ動かしてるわけではなく、ミリアの負担にならないように稼働範囲を確認してるのだ。


「ミリりん大丈夫っすか?」

「うん、問題無いわよ。ユウコは大丈夫?」

「左に剣が触れないけど一撃必殺っすからね、問題無いっすよ」

 そう言うとユウコは大振りで上段からの唐竹割りを行う。

 床に当てられた大剣は床を石の床を割り破片が飛び散った。


「それじゃ、川上さん、狛犬ケルベロスの中央の目めがけて突きを叩き込んでくださいね」

 唐竹割りをするユウコに心配になったエリオは念のために攻撃方法は突きですよと伝える。


「了解っす!」

 マリアを残した三人は戦闘範囲ギリギリに立ち、エリオはオヤジから貰った短剣を左手に持ち、右手を胸に当てた。


想念刃イマジン


 エリオが自分の胸の辺りから魔王剣を取り出す。短剣サイズの剣はオヤジの短剣とは、また違った黒さだった。

 オヤジの短剣は鉄の黒だったが、魔王剣は闇のような漆黒の刀身が七色に輝くものでこの世のどの金属にも当てはまる色ではなかった。

 魔王剣の柄を強く握るとエリオはみんなに合図をした。

 エリオが先に一歩、戦闘範囲に入る。


『阿!』

『吽!』


 狛犬ケルベロスが予備動作に入りエリオを睨みつける。これ以上進めば命はないぞと言うような唸り声をあげ、エリオがさらに一歩踏み締めるのを待つ。

 そこから二人が同時に前に出た、狛犬ケルベロスの戦闘範囲内に入ると阿形の狛犬ケルベロスは『阿』の雄叫びとともに最初に入ってきたエリオに襲い掛かる。

 エリオはユウコから離れるように戦闘範囲ぎりぎりを走り抜けた。


 そのスピードは狛犬ケルベロスとほぼ等々、いや少しだけエリオが上回っていた。

 彼の身体から黒い気があふれ、流れ星のように尾を引く。その後ろから狂犬のように襲いくるケルベロスはその流星の影をエリオだと勘違いして影を噛み砕く。

 もちろんその牙には何の感触もなく、さらにバクバクと影を食い散らかすが、その感触のない食感に苛立ちさらに凶暴さを増していく。

 

 その間にユウコは一目散に止まっている吽形の狛犬ケルベロスに向かい、じっと座っている狛犬ケルベロスの足を攻撃した。

 三度の攻撃で気合が溜まり、そのまま足を踏み台にして頭部に登ると鼻先に立った。

 それでも吽形の狛犬ケルベロスは動かず、ユウコは弱点である三つ目に大剣を叩き込んだ。

 剣を叩き込む瞬間、ミリアがレイライを使い大剣が輝く。


 レベル15相当の腕力と、LV30代の魔法レイライ、更に大剣の気力ゲージ解放によりユウコの腕力が上がっている。

 極限まで上げられた攻撃力はレベル40相当の狛犬ケルベロスと言えども防げる物ではなかった。

 その一撃は吽形の三つ目を破り、頭蓋骨を貫き脳を破壊した。

 

 頭蓋骨を破壊された狛犬ケルベロスは灰になって崩れていく。一瞬にして吽形の狛犬ケルベロスを倒したユウコたちはすぐさま反転して狛犬ケルベロスの行動範囲外に逃げた。


 それを見届けるとエリオも行動範囲外に向け走り出した。範囲外に出るとドスンと音を立て狛犬ケルベロスが見えない壁にぶち当たる。

 ギリギリで回避したエリオの後頭部に生暖かい息が当たる。振り向くといまにも食い殺されそうなほどの近距離に狛犬ケルベロスの牙がありエリオは冷や汗を流す。


 一瞬エリオが食べられたと思ったマリアは青い顔をして彼に近寄るがエリオは駆け寄る彼女にVサインで答えた。


「大丈夫なのですか?」

「うん、ギリギリセーフです」

 そう言って両手を上げて全身を見せるエリオの右手の短剣はいつの間にか長剣になっており、柄の上には赤い宝玉がハマっていた。


 魔王剣の短剣とは違う形状の剣を見てマリアは首を傾げる。

「その剣はなんですの?」

「魔王剣だよ、力を使ったから少し大きくなったみたいだ。ギリギリ逃げ切れたのはこの剣のおかげだよ」

「……魔王剣のですか」

「そう、この剣のおかげだよ。僕には何もないから」

 マリアはそう言って悲しそうな顔をするエリオをじっと見て、その悲痛な表情を見ていられなくなり彼を抱きしめ優しく包み込んだ。

「何もないなんて悲しいこと言わないでください。あなたのおかげでわたくし達は救われたのですから」

 マリアがそう言うとミリアたちもエリオの側に駆け寄り、囮りになったエリオに感謝を述べた。

 

 ユウコはミリアのお尻を揉みしだくのでミリアのお尻を揉みしだくユウコを辞めさせて早くロープを外してと彼女が懇願したのは言うまでもない。

 



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読んでる人がいないようなので、ここで終了します。

アルファポリスで再編集して場合続きを投稿するかもしれません。

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