第11話

 クッキーを食べ紅茶を飲んで落ち着いたみんなを見てレベル40、それはレベル1の彼女たちには無理にも思える数値だったが、エリオは狛犬ケルベロスの吽形を倒す作戦を伝える。


 まず戦闘範囲ギリギリで戦い大剣のゲージを溜める。ゲージは敵が強い場合溜まり易い、さらに武器も弱いので一瞬でゲージが溜まる。

 

 ゲージを溜めたら吽形を先に攻撃する。吽形が攻撃に移るタイミングは阿形が敵と接触した場合に限るので、それまでは何もせず動くこともない。


 攻撃方法はユウコの大剣にミリアの“レイライ”を付加エンチャントさせ一撃必殺を狙う。

 “レイライ“はLV30の魔法でありLV40相当の狛犬ケルベロス相手に十分通用する。

 その魔法に大剣の攻撃力を上乗せして威力を高めた攻撃を弱点である額の三つ目を攻撃する。

 三つ目は頭蓋骨をくり抜いた状態で付いている、その分頭蓋骨が薄いので簡単に打ち破れる、しかも、目のすぐ後ろには脳がある、突き抜けた大剣は脳を直撃して狛犬ケルベロスを絶命させる。


「なるほどっす、動かない敵なら問題なく倒せそうっすね」

「ただし30秒以内で撃破してください、それ以上は阿形から逃げられないので」

「オッケーすよ!」

 思ったよりも簡単な作戦にユウコは安堵し残ったクッキーをパクパクと食べ始めた。

「つまり、エリオが30秒逃げてる間に、動かない吽形の狛犬ケルベロスをあたしとユウコの二人で倒せばいいのね」

「そうです、時間は稼ぎますから安心して倒してください」

 だがミリアは不安だった、確かにエリオは狛犬ケルベロスの動きに反応できて自分んたちを助けてくれた。

 だがそれは数秒のことで、彼は背中に重傷を負った。

 自分たちを守らなくていいだけで本当にエリオが30秒も逃げられるのか確信が持てなかった。


「でもエリオ、本当に狛犬あれに一人で立ち向かって逃げ切れるの?」

「大丈夫ですよ、それにこれがベストな布陣です。レベル十五と同等の力がある川上さんと“レイライ”が使える有栖川さん、そして回復魔法が使えるフランシスさん、囮になるのは僕しかいないんだ」

 確かにエリオの言うことは正論だし合理的だった。だが、ミリアはエリオ一人を囮にして戦うことに疑問を持つ。

 誰かに犠牲を強いるのはまるで自分がいじめられないようにエリオを見捨てていた人たちと同じなような気がしたのだ。

 それに、エリオが囮りになるためには魔王の剣である想念刃イマジンを使わなければいけない。

 魔王の剣、人類の敵だった魔王の武器が本当に自分たちに人間に、エリオに使えるのかと言う心配もあった。


「本当に魔王の剣なんか使って大丈夫なの?」

「……大丈夫だよ、魔王の剣を使っても何も問題ない」

 だが、ミリアはエリオの一瞬見せた戸惑いを見逃さなかった。それは一時期日本中から罵られ人の目を気にして生きていた彼女だからわかった表情の変化だった。


「嘘、言ってるわよね」

「嘘なんか言って――」

 ミリアはまた嘘をつこうとするエリオの顔を両手で挟み込むようにして叩く。

 エリオの口が漫画のタコのようになり、う~う~と呻き声をあげた。

「エリオ、あたし嘘が分かるんだよ、本当のこと言って!」

 ミリアの剣幕にユウコもマリアもどうしたものかと問う巻きで成り行きを見守る。

 マリアは神との邂逅でエリオのことを聞いていた。だが魔王の剣に代償があると言うのは聞いていなかった。

 だからマリアが言う代償があるとは思えなかった。


「ミリアさんエリオさまをお離しください」

「マリアは黙ってて、エリオは何か隠してる。隠されたままじゃハイそうですかなんて戦えないでしょ」

 ミリアの言いたいことはわかるとマリアは思ったが、代償がもしあるなら辞めさせなければいけないのも事実だった。

 彼女がミリアを止めようか迷っているとエリオが申し訳なさそうに口を開いた。

「ごめん、確かに代償はある」

「やっぱり何か代償があるのね」

「でも大した物じゃないんだ。勇気、魔王の剣を使うと勇気を失う」

「勇気?」

 魔王と相反する勇者、当然勇者の根源は勇気であり魔王の力とは反発するのである。それ故に彼は魔王の剣を使うと勇気を失うのであった。


「もしかしてエリりんってそのせいでいつもビクついってるっすか?」

「うん、ただ三人に勇気の火をつけてもらったから。今は昔ほど怖くない」


 イジメられてた自分を助け、仲間にしたくれた三人と接することで自分の勇気の火は灯った。

 小さい火だけど確実に大きくなってる。

 それにダンジョン内では勇気が湧いてくる勇気の火に燃料を投入されている状態で、魔王の剣で勇気が減っても実質プラスマイナス0なのだとエリオは言う。


 だからミリアたちには代償のことは言わなかったのだと。


「それに魔王の剣を使わなければ、攻撃力もない、魔法も使えない、ましてや回復呪文もつかない僕は役立たずだ。せめて勇気くらい対価に使わせて欲しい」

 ミリアはエリオの表情や瞳を見た、嘘を言っているような雰囲気はなかった。


「……分かったわ、でも死ぬのだけは無しよ」

「それは僕のセリフだよ」

 そう言うとエリオはサムズアップして笑った。

 ただミリアは知らなかった。彼もまたイジメられていたせいで感情を殺すことが得意だったことに。

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