第12話

本日は想念刃イマジンを使ってしまったため一日休むことになった為、フォメーションや狛犬ケルベロスの攻撃範囲を確認をした。

 攻撃範囲にはダンジョンの壁にも使えるマジックラインで線をひくことにした。

 ダンジョンは死んだ人間やアイテムなどを吸収するためにマジックなどのペンで文字を書いてもすぐに消えてしまう。

 だがマジックラインは魔法の効果で1ヶ月は線画消えない。

 魔法のマジックラインも科学の産物であるマジックペンも同じマジックなのは皮肉な話だが。


『阿!』

『吽!』


 攻撃範囲を確認するためにエリオは入った瞬間二体が動きだし阿吽の構えをする。

 最初の『阿吽』は戦闘態勢に入っただけで攻撃はしてこない。これは予備動作であり警告である。


 そのまま、もう一歩踏み出してエリオは床に線を引く。


『阿!』


 阿形の狛犬ケルベロスが“猪突猛進“の技を発動してエリオに襲い掛かる。彼はすぐにバックステップをして間一髪範囲外に逃れることができた。

 まさに髪の毛一本程度の距離でホフゥホフゥと狛犬ケルベロスの息が当たり、エリオは冷や汗を垂らす。


「結構ギリギリね」

「今のは人間レベルのステータスだったからね、来るのがわかってたからなんとか避けれたよ」

 その言葉は嘘だったレベル30の皇国騎士でも避けるのは精一杯なのに、職業無しでレベル0のエリオに避けられるはずがなかった。

 たとえ来るのがわかっていても。


 エリオはみんなに見えないように想念刃イマジンを使ったのだ。一日に一回しか使えないと言った想念刃イマジンを。



 ハウスに戻った四人は地下室に向かい連携プレイの練習を始めた。

 エリオはダンジョンと同じようにマジックラインを二本引いた。

 さらに二体のマネキンを用意して狛犬ケルベロスの代わりにした。


 そして始まる前にミリアの付加エンチャントの練習をした。

 ミリアはエリオに不安そうに本当にできるのか尋ねると彼は誰でもできる技ですから大丈夫ですよと言って安心させた。


 ミリアはユウコの差し出す大剣に自分の杖をつけてレイライを唱えた。

 ほとばしる光が杖の先端に現れるとそのまま大剣に移り、大剣は白く輝いた。

 ユウコは光る剣を見て蛍光灯みたいっすねと言ってハッとする。それはミリアに対する悪口の一つだからだ。

 それに気がついたミリアは気にしなくていいわよ悪気があるわけじゃないし本当にそう見えるしね。

 それに製品名で腹を立ててたら、何も喋れないでしょとミリアはあっけらかんと笑う。


 エリオは二人のやりとりよりも付加エンチャントを見て驚く。

 誰でもできると言ったのは嘘なのである。

 普通はこんなことはできない。

 今まで魔法の付加エンチャントに成功したのは勇者だけである。

 彼は大剣の先に魔法が届けば良いくらいに思ってやらせたのだ。実際他の魔法使いの実験で付加エンチャントはできなくとも、杖の延長として認識することで他の武器の先端から魔法を発生させることに成功した実例があった。


 だがミリアは付加エンチャントを成功させた。


 付加エンチャントには魔法をコントロールする為の精神力が必要である。


 ミリアは使えないと思っていたレイライを捨て武術を勉強し雨の日も風の日も毎日勤勉に修行した。

 そして没落した時から蔑まれ引きこもりから復活した。

 彼女は普通の魔法使いよりも精神力が強かったのだ。


 何よりミリアは虐められていたエリオを助けた勇気を持つ。


 だからこそ付加エンチャントが成功したのだ。


 付加エンチャントが成功したのでエリオたちは攻撃の練習をすることにした。

 付加エンチャントは時間が経つと毎に弱くなる。だから最大の力を発生させるためにギリギリでかけさせる必要があった。

 その為、ミリアとユウコには吽形の狛犬ケルベロスの前まで走ってもらい目の前で付加エンチャントしてももらうことにした。


「そんじゃ、ミリりんと同時に攻撃すればいいっすね?」

「うん、川上さんと有栖川さんは僕と一緒に境界線内に、フランシスさんは境界線ギリギリで待機して危険があるようなら声をかけてください」

「オッケーっす」

「本番のつもりで頑張るわ」

「俯瞰で見ると言うことですわね、お任せください」


「それじゃ有栖川さん、川上さん、フランシスさん、行きますよ」

「うん!」

「おいっす!」

「ですわ!」


 三人がマジックラインを越えるとエリオが阿吽と叫び、狛犬ケルベロスの真似をする。


 さらにもう一歩進むとさらに阿と言って阿形が攻撃してきたと仮定して阿形のマネキンの周囲を逃げるように回った。


 ミリアとユウコは吽形のマネキンに向かって行ったがミリアが完全に出遅れていた。

 ユウコがマネキンにたどり着いて攻撃する頃にミリアはまだ3mほど距離があった。

 実際、ダンジョン内では練習距離の6倍である。つまり18mの差ができてしまう。


 完全に筋肉量の差である。


 身長170cmのユウコと126cmのユウコでは大人と子供の違いがあったのだ。それ以前にユウコはレベル1でレベル15に張り合える筋肉量を持つゴリラだったのである。


 ようやくユウコに追いついたミリアは肩で息をしながら杖をユウコの大剣につけるとレイライの呪文を唱えた。

 大剣が光り輝いてレイライが付加エンチャントされたことが分かった。

 だがユウコが大剣を振り回すと付加エンチャントの光は消え、ただの大剣になってしまった。


「エリオこれってどう言うこと?」

「……惜しかったですね。有栖川さんのレイライは飛ばせる物じゃないのを考慮していませんでした」


 勇者の付加エンチャントは離れていても使える。だからエリオはその感覚でミリアもできると思ってしまっていたのだ。

 ミリアは魔法を飛ばせない、いや飛ばしたきくがないから付加エンチャントもその意識に引きずられているのである。


 これにはエリオも困った。大剣に杖を完全に着けてる状態じゃないと付加エンチャントは成功しない。

 これでは攻撃にミリアのレイライを使うことができなくなってしまいエリオは頭を悩ませた。 

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