第6話


「「「トオル! トオル! トオル!」」」


 観客である学徒兵スクラウトのほとんどの者達が、1年生1位のチーム“ダーティー・ブロス”のメンバーであるトオルの名を呼ぶ。

 彼はいじめっ子で虎の威を借る狐の威を借る鼬鼠いたちだが、学年一位のチームのメンバーと言うのはそれだけでも人気があるのだ。


 しかもトオルはレベル15である。1年生2345人でレベル10越えは12人しかいない、その中の一人なのだから人気がない訳がなかった。

 逆に未だにレベル1のアカツキは学徒兵スクラウト達からすると、誰だお前達は状態なのである。


 トオルは声援に答え両手をあげる。その姿を見てミツエはうっとりとした。

 自分の彼氏である男が学園中から名前を呼ばれているのが嬉しいのである。もちろんブランド価値的な意味なのだが。


「山下くん、短剣返してよ」

 短剣を返さないトオルにエリオは再び返却を求めるが彼は顔を歪ませ見下すようにエリオを見た。

「あ? これは賞品でやんすよ、お前らなんぞと無償でやれるわけがないでやんしょ」

「そんな……、返してよ!」

「ガタガタうるさいでやんすよ、返して欲しければ勝てば良いでやんしょ」

 トオルはそう言うと笑いながら部屋を出て観客に応えるために待合室の外に出た。

 エリオは追いかけたが、人波に飲まれ消えたトオルを追いかけることができずに彼は焦った。

「まあ良いじゃないエリオ、勝って取り返しましょう」

「そうっすよ、あいつには貸しがあるしボコボコにしてやるっす!」

 ユウコは人混みに消えたトオルに向かいシャドーボクシングをするとフンスと鼻の穴をピクピクとさせた。

 ユウコはリーダーであるミリアにどうやって倒すのかを聞く。

 ミリアの作戦は単純だ。一生懸命がんばるだ。


「そうっすね、一撃ガツンと喰らわせてやるっすよ!」

「回復は任せてくださいまし、筋肉ゴリラのユウコさんも一瞬で直して見せますわよ」

 ユウコはマリアを後ろから羽交い締めにするとよろしく頼むっすよと顔を引きつらせて笑顔を作った。


「良し、頑張ってエリオの短剣取り戻しましょう」

「「おー!!」」

 ユウコはマリアの手を背後から上げて一緒に掛け声をあげたが、エリオは待ったをかける。

 普通に考えて一生懸命頑張るなんてのは作戦じゃない無謀だ。

 何より自分のせいで彼女達に負けを味合わせるのは今のエリオには許容できることではなかった。


「ごめん待って有栖川さん」

「何、エリオ」

「作戦は僕に考えさせて欲しい」

「できるの?」

「うん、大丈夫、僕に考えがあるんだ」

 そう言うとエリオはミリアに親指を立てニヤリと笑った。



「「「「オオオオオオオオオ!!」」」」

 観客が歓声をあげる、逃げるだろうと思っていた“アカツキ“が武闘台に現れたからだ。


「逃げれば良いものを、良い根性でやんすね」

 すでに武闘台に上がっているトオルが、遅れてやってきた“アカツキ”を見下すように見た。

 それに反抗するようにエリオは彼に指を差す。

「山下くん、短剣は返してもらうからね」

「エリオのくせに生意気言うじゃないでやんすか。身の程教えてやるでやんすよ」

 エリオの挑発に乗りトオルは眉毛をピクピクとさせ怒りをあらわにする。この挑発はエリオの作戦だった。

 トオルを挑発することにより自分を狙わせるためのものだ。スキルのないエリオは心理戦でデコイ囮りと同じ効果を出したのだ。


『対戦者入場確認、カウントダウン開始します』

 “アカツキ“が武闘台に乗ると合成音声で10カウントを始った。

 トオルはエリオをじっと睨み、カウントが0になった瞬間飛び出すつもりだった。


『――5』

『4』

『3』

『2』

『1』

試合開始イグニッション


 開始の合図とともにエリオが飛び出した。

 その動きにトオルは虚をつかれた。

 彼はいじめられっ子のエリオは3人の後ろに隠れてるだけだと思っていたのだ。だが実際は自分よりも早く試合開始イグニッションの合図に反応しトオルに飛びかかったのだ。

 

 だが、武器を持っていないエリオが何をしてもトオルにダメージを喰らわすことはできない。


 彼はそう思って油断してしまった。


 エリオはトオルから見えないように武器を持っていたのだ。


 その武器は短槍ショートスピアだった。


 近づくエリオにトオルの長剣ブロードソードが襲いかかる。だがそれよりも早くエリオの短槍ショートスピアがトオルのアゴをかすめる。

 油断していたとはいえ、レベル0の動きがレベル15に当たるわけがなかった。

 そして長剣はエリオの肩に当たり彼のHPを削り取る。


 レベル0のHPなど一撃で削れるはずだった。


 だが、トオルは当たったはずの剣にまったく手応えが無いことに驚いた。まるで水に剣を叩きつけるような感触だったのだ。

 それにエリオ自体もまだピンピンしていた。


 トオルは怒り更に剣を振り上げ二撃目を喰らわせようとしたが、背中に大きな衝撃を受けた。

 ユウコが大剣を振り下ろしトオルにダメージを与えたのだ。


 そのダメージは今潜っているダンジョンの魔物の一撃と遜色がなかった。まずいと思ったトオルはユウコの方へ向き直るが。次の一撃が彼を襲った。

 それはミリアの杖だった。ただの魔法使いの一撃がトオルの膝を穿ち、ひざまずかせたのだ。


 なぜ魔法使いの杖の一撃が戦士でトオルに効くのか。それはミリアが使えない魔法を捨てて武闘家の杖術を練習していたからだった。

 10歳の時に自分の魔法が使えないと分かってから杖術の勉強をし鍛えた。中等部からは周りがダンジョンに潜りレベルアップに勤しむ中、ミリアとユウコは実戦形式で対人練習しスキル外の技を研鑽した。


 そして、その3年間は無駄ではなかった。


 赤い閃光、それはミリアを揶揄する言葉だが、彼女の杖術は武闘家の杖術に匹敵するほど技量で、その一撃はまさに閃光と言うあだ名にふさわしい動きだった。

 

 つまり対人戦で、この二人の技量に並ぶものは1年生にはほぼいないのだ。


 ミリアが跪かせたトオルに更にエリオが攻撃を加える。その攻撃にトオルが対処をすればユウコがトオルを背後から攻撃をする。

 トオルを囲んだアカツキの3人の誰かに対処しようとすれば必ず誰かに背中を取られてしまう。


 一人一人の力は大したことがなくても多勢に無勢、守りに特化している防衛戦士タンクであるトオルには、この状態を打破する攻撃方法がなかった。

 防衛戦士タンクは自分が守っている間に仲間が敵を攻撃して撃破する職業だ。

 完全な守り職である。


 トオルは自分の力量を見誤った。チームで魔物としか戦ったことがない彼には対人戦で囲まれたときの対処法を持っていないし想定すらしてなかったのだ。


 そして、守りの職業の攻撃力はそれほど高く無い。

 だが、守りの職業とは言え、レベル1の魔法職を倒せないほど弱くは無いのだが、最初のエリオへの攻撃がほとんど無効化されていたのがトオルの心を折って攻撃することを躊躇させていた。


 対処法もなく、されるがままに攻撃されるトオルのHPは半分を切った。


「おいトオル! 負けたらお前はダーティー・ブロスから追い出すからな!」

 その言葉をかけたのはダーティー・ブロスのリーダー栗山・シュウイチだった。周りには小沢・マコトと最後のメンバー、松本・キヨタカもいた。


 リーダーであるシュウイチはすでにレベル20に達している。中等部でレベル20は異例で優秀な勇騎士ブレイズナーとして未来を確約されていた。

 エリート勇騎士ブレイズナーとしての未来が待っているシュウイチに捨てられたら、トオルの勇騎士ブレイズナーとしての未来はない。


 トオルは焦った。


 捨てられたくない、負けられないと。


 その思いが、ただ一つの脱出方法を生み出した。


 トオルは盾を捨てエリオにタックルを喰らわせた。当然エリオでは避けることができなく、倒れたエリオにトオルは馬乗りになった。


「死ぬでやんすよ!」


 トオルは剣をエリオにめがけ振り下ろす。エリオは倒された時に短槍ショートスピアを離してしまった。

 トオルの振り下ろす剣をエリオは素手で防御するが、剣を腕で裁くのは無理があり、骨が折れる鈍い音がした。

 何度も何度も振り下ろされる剣を腕で捌くうちに、エリオの腕はひしゃげ指一本動かせない状態になっていた。

 

 “rétablissementレタブリッスモン


 マリアはすでに聖典の第十六節一章 “天使の慈愛“ を朗読し終えており、いつでも回復呪文を使える状態にしていた。

 彼女の回復呪文はジャポニカの巫女が使う回復呪文とは違う系統の回復呪文で、神官系の回復呪文は神聖術と言われている。


 マリアの回復呪文でエリオの腕が修復される。だがトオルは長剣で殴り付けるのをやめない。

 エリオだけは絶対に倒したいのだ。


 ミリアとユウコはエリオだけを攻撃するトオルに攻撃を加えるが、先ほどよりもダメージが通らなくなっていた。

 それは山下・トオルの第二のスキル、『キャスト・シールド』でシールドを捨てると、防御力が捨てたシールドの防御力×3が自分に上乗せされると言うスキルだ。


 当然、魔法使いであるミリアの攻撃はほぼ無効化され、現在はユウコだけが彼のHPを削っていた。

 ガンガンと鎧と大剣がぶつかるとが響き渡る。高価な鎧に守られているトオルにはユウコの大剣からのダメージによる痛みはない。

 それ故に彼の攻撃が止むことはなかった。


 マリアは回復呪文をエリオにかけ続ける。だが治る度にひしゃげる腕の痛みは想像を絶するものだった。

 エリオは今にも気絶しそうな痛みに耐えていたのだ。


 普通なら気絶をしてしまう痛みに、なぜいじめられっ子のエリオが耐えられるのか。

 それは仲間の為だった。自分を信じてくれたアカツキのみんなの為に。


 エリオには永遠とも思える時間がすぎた。

 だが、その時は来た。止まる事なくエリオに攻撃するトオルに腹を立てたマリアが背中を見せているトオルの首に聖典の角で思いっきり殴りつけた。

 ちょうど身体を守るバリアとも言うべきHPは剥がれ落ち、守ってくれる物が無くなったトオルの体を凶器とも言えるマリアの聖典が当たったのだ、トオルは衝撃で脳震盪を起こし崩れるように倒れ込んだ。


 聖典は重い、表紙である装丁には形崩れしないように金属が入れられている。

 しかも、マリアは元王族ということもあり、聖典には神の金属オリハルコンが使われており、その重量は15kgに及ぶ。

 つまり、神の金属で作られた重量物の聖典はまさに神の一撃なのだ。


『Winner チーム“アカツキ”』


「「「おおおおおおおおおおおお!!!」」」


 大番狂わせの結果に観客は湧き上がる。四対一とはいえ、学年1位のチームの一人を学年最下位が破ったのだ盛り上がらないわけがなかった。


 倒れたトオルはそのままエリオに覆いかぶさっていたがユウコに剥がされ投げ捨てられる。

 エリオの腕は完全にひしゃげており回復不能に見えた。だが、それでも馬乗りで動けない状態から、この程度のダメージに抑えられたのは運が良かったと言えるだろう。


 “rétablissementレタブリッスモン


 マリアがすぐに駆けつけ、エリオの腕をとり直に回復呪文をかける。遠距離から直接回復呪文に切り替えたことで、回復の効果は50%増しになる。

 エリオの腕がバキバキと音を立てて回復していく。だが、回復に伴う痛みはダメージを受けた時と同じようにあり、彼は顔を歪ませた。


「すみません、痛みも取れれば良いのですが」

 マリアはエリオの腕を優しくさすりながら申し訳なさそうな顔をした。


「いいえ、フランシスさんの回復呪文がなければ耐えきれませんでした、ありがとうございます」

「そんな、わたくしなんか……」

 エリオの感謝の言葉にマリアは顔を赤くしてうつむく。


「でも、見直したっすよ、エリりん。やればできるじゃないっすか」

 ユウコは自分を犠牲にして戦ったエリオを見直し回復した彼に手を差し伸べた。


「トオル!」

 ミツエが倒れたままのトオルに寄り添い、頭を持ち上げバッグから取り出した気つけ薬の蓋を口で抜くと、瓶の口を彼に当て気付け薬を飲ませた。

「ガハッ!」

 目を覚ましたトオルは周囲を見廻し、自分が負けたのを理解した。


「おいトオル、約束通り、お前はクビだ、この面汚しが!」

 栗山・シュウイチは顔を歪ませ口の中で舌を回すと大きく舌打ちをして、その場を去った。

 仲のいいマコトですらトオルを見捨てシュウイチついていく。ナンバーワンチームと偽りの友情を天秤にかければ理があるチームを選ぶのは彼からすれば当然だった。


 ダーティー・ブロスがトオルを見捨てた瞬間、ミツエは彼の頭を投げ捨てた。

「イッテェ、何するでやんすか!」

「は? 喋りかけないで? 一位のチームじゃない、あんたには何の価値もないわ。ったくポーション代、損したわよ」

「は? ちょっと待つでやんすよ! ミツエ!」

 ミツエを追いかけようとするトオルの前にアカツキの三人が立ちはだかり道を塞いだ。


「何でやんすか、邪魔でやんすよ!」

「は? あんた、エリオに返す物があるでしょ」

「そうっすよ! さっさと返すっす!」

「早く返しなさい」

 3人に詰め寄られトオルはタジタジになる。結束した女性の威圧感はヤクザよりも怖いのである。


「くっ、こんな物いらないでやんすよ!」

 そう言うとトオルは短剣を投げ捨ててミツエを追いかけた。


「ちょ! 待ちなさいよ、ちゃんと手渡ししろ、このコバンザメ!」

 しかし、その声は群衆の中に消えたトオルには聞こえなかった。ミリアは短剣を大事そうに拾うと、エリオの前にトコトコと歩み寄り両手で彼に手渡した。


「ありがとう有栖川さん、それに川上さんも、フランシスさんも……」


「何言ってんのエリオは仲間なんだから当然でしょ」

「そうっすよ、それに、なんか今の試合で大剣の感覚が分かったんで逆にラッキーっす」

「わたくしはあの男にもう一発、神の怒りを喰らわせてあげたかったですわね」

 そう言うとアリアは打撃武器に使った聖典に謝るように十字を切った。


 短剣を取り返した“アカツキ”の四人が武闘台から降りると観客の学徒兵スクラウト達は大歓声で彼らを迎え入れた。

『勝者には賞賛を敗者には嘲笑を』が学徒兵スクラウトのルールなのだ。

 その賞賛にミリアは恥ずかしそうにし、ユウコは歓声に応え、マリアは観客には無関心でエリオに寄り添った。


 チーム“アカツキ”が降りると転移ゲートのリングが立ち上がり、元の状態へと戻り、転移ゲートが機能を取り戻した。

 転移ゲートが作動を始めると観客達の興味はダンジョンに移り、試合の話をしながらも、学徒兵スクラウトは散り散りに自分たちの転移ゲートの待合室へ戻った。


 ミリア達も待合室に戻ると装備の再点検を行った。先ほどと違い緊張は無くなっていた。実戦でもなく四人がかりとはいえ、学年1位のチームに在籍していた者を倒したことが自信に繋がったのだ。



「ねえ、エリオ、仮想ダンジョンの作戦もあなたがたててよ」

 ミリアは先ほどの戦いからエリオに作戦を立たせた方がいいと感じたのだ。実際、知識でミリアはエリオに負けている。そのことを鑑みても彼に作戦を立たせたほうが合理的なのだ。

 当然、エリオはそれを快く受け入れ作戦を考えた。


「それじゃ、有栖川さんは魔法の杖に“レイライ“を纏わせて杖術で近接戦闘、川上さんは有栖川さんを守るように連携しながら攻撃してください」

 エリオが提示した作戦にユウコが異を唱える、自分が中心に戦った方がいいのでは無いかと。

 エリオはその言葉に首を横に振って答える。

 なぜなら“レイライ”は学園のどんな強者よりも攻撃力があり、仮想ダンジョンや下位ダンジョンの魔物なら一撃で消し飛ぶと言う。


「それに、川上さんの動きについていける者がアカツキにはいないです、川上さんが前に出過ぎた時に助ける者がいないと終わります」

 だからマリアの動きにユウコが合わせる方が安全マージンが取れるうえに殲滅速度も上がる。

 そして一番重要なユウコがミリアを守りた言う目標も叶えることができるのだと説明した。

 その説明にユウコは満足した。殲滅速度云々よりもミリアを守れる、この言葉だけでエリオの作戦を実行する価値があるのだ。


 つまりWダブル攻撃戦士アタッカーをエリオは提案しているのだ。

 防衛戦士タンクがいないチームでは攻撃こそ最大の防御であり、Wダブル攻撃戦士アタッカーはまるでバンドでのツインギターの構成のように素晴らしいハモリを見せ自分の力を何倍にも引き上げてくれる。


 もちろん二人の気持ちが合えばの話だが、ミリアとユウコの信頼関係は友達と言うよりも親友を超えるレベルで結びついている。

 そのことは少し話すだけでも分かった。だからこそエリオは二人をツートップの攻撃戦士アタッカーにしたのだ。


 試合から一時間三十分程の待ち時間を経てスピーカーから呼び出しの声が響く。

「3番ゲート、5番、チーム“アカツキ”ダンジョンの準備ができましたゲートまでお越しください」


「やっと順番来たわね、頑張りましょう」

 ミリアはそういうと右手を前に差し出した。みんなも早く手を乗せろとドヤ顔をしている。

 みんなは笑いながら手を乗せると彼女は大きく息を吸い込む。

「アカツキィィィィィィレディィィィィィゴォーーーー!!!」

「「「お? お〜」」」

 そこはファイオーじゃないのかとみんな頭にはてなマークを作りながら掛け声を上げ腕を上空へ上げて拳を握った。

「なんか掛け声がイマイチだけど頑張りましょう」

 ミリアは微妙な掛け声を出すみんなに、これから本番だというのに気が抜けてるわねと自分のせいだとは気付かずに、みんなの気合を入れ直す、特にエリオは背中を叩かれ苦笑いをした。


「5番チーム“アカツキ“早くしないか、順番を飛ばすぞ!」

 ゲート作業の係員が、いつまでも転移ゲートにこないアカツキに苛立ち声を荒げる。全校生徒2345人にも及ぶ生徒たちをダンジョンに送る作業は過酷だ。ゲートの数は全部で10台あるが、今日に限って作業員が病欠で二人休んでしまい係員たちはてんてこ舞いだったのだ。

 しかもDディメンションBバトルのせいで仕事がズレたのだランクが関係ない係員達には良い迷惑なのだ。


「すみません、すぐに行きます!」

 怒られたミリア達はすぐさま5番ゲートに向かった。睨む係員にペコリと頭を下げる。


「お前達、こっちは忙しいんだ、今回は初めてだから許してやるが、次回から呼んですぐ来なければ順番を飛ばすからな」

 その言葉に反発しようとするユウコを手で制しミリアは頭を下げた。

 下手に反抗すれば本当に順番を抜かされる。転移ゲートの使用決定権は係員にあるからだ。

 係員は上位勇騎士ブレイズナーの天下り先で、引退者などで構成されている。

 引退者は怪我などで戦えなくなった物達が多く、まだ年若い未来ある学徒兵スクラウトを見ると戦えない自分がもどかしくイライラするのだ。

 当然、そんな係員を怒らせると嫌がらせを受けたりする。だから学徒兵スクラウトは係員に逆らえないのだ。


「まあ良い、早くゲートに乗れ」

 態度の悪い係員に頭にきながらも、彼のいうことに従いミリア達は転移ゲートの入り口にある長方形の機械に生徒手帳を置く。

 生徒手帳にはIDがあり、データーを係員に送り申請されたデーターと照合するのだ。

「オーダー確認、仮想ダンジョン:レベル1 参加チーム“アカツキ“4名、間違いないな?」

「間違いないです」

「よしゲート中央の魔法円に乗れ」

 係員に言われるがまま転移ゲートの上の魔法円にミリア達は乗った。

 世界の殻を破り異世界のダンジョンへと送る転移ゲートは空間に穴を開けるために大出力のエネルギーが転移ゲートへと送り込まれた。

 転移リングが青白く光だし“ブォンブォン“とうなりをあげはじめた。


「よし、コネクト オン」

 結界が四人を包み込むように発生して球体を作る。それを確認すると係員は次のゲートへと向かった。

 結界が発生してからゲートが繋がるまでにはタイムラグがある。時間にすれば30秒ほどだが意外に長いなとミリアは感じた。

 ふと、周囲に目をやると、転移ゲートのコントローラーには係員の代わりに山下・トオルが不敵な笑みを浮かべて立っていた。


『死んじまえよ』


 その言葉の意味を理解する前に四人はダンジョンへと送られたのだった。

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