第5話
エリオ達は武具貸屋のオヤジと別れ、転移ゲートの順番待ちをするガラス張り部屋で装備の最終点検をしていた。
部屋がガラス張りなのは武器を持っている
もちろん、それだけでは防げないので学園内部とは違い施設内で監視カメラで監視されているのだ。
もちろんそれ以外の意味でも監視カメラは
“アカツキ“のメンバーは緊張していた。
仮想ダンジョンとは言っても、襲ってくる魔物は痛みを伴うリアルなダメージを与えてくる。
練習とは違いダメージを受ける戦闘は今回が初めてであり、皆極度に緊張していた。
ミリアは赤いハーフローブを羽織り木の棒を何度も磨き、ユウコは戦士用のヘッドセットを着けたり外したりを繰り返し装着感を確かめ、マリアは学生服にフランシス十字聖教の神官の帽子を被り、聖典の第二十四章を何度も読んでいた。
エリオはそんな三人を見て緊張が移って点検をして緊張を紛らわせようとした。
オヤジからもらった短剣をナイフケースから取り出し、バッグから
A級のナイフは高硬度であり普通の
だが、エリオが使っている
アダマンタイトコーティングの研ぎ棒は高級品である。
エリオがなぜそんなものを持っているのか不思議だが、そもそも誰も高級品の研ぎ棒を見たことがないので特に気にするものはいなかった。
「あれあれ、エリオ、お前、良いもん持ってるでヤンすね!」
山下・トオルが恋人の広川・ミツエの肩に腕を乗せニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらエリオに近づくと彼の短剣を奪った。
武具の良し悪しなどわからない彼は黒い短剣に興味はなかったがエリオに嫌がらせができる材料があればそれで良いのだ。
それにトオルはキラキラと輝く装飾が派手な武具が好きなのだ、黒い短剣など良いとは思わない。
自分の趣味じゃない短剣を投げ捨てて嫌がらせをしようとしたが、トオルは気がついた、無職でレベル0のエリオが転移ゲートの待合室にいること自体がおかしい事に。
「なんで、お前がここにいるでやんすンスか?」
「そ、それは“アカツキ”に入ったからだよ」
エリオはフルメイルに身を包んだトオルに怯えながらそう答えると彼はびっくりしたような表情をして呆れるように息を吐く。
「ハッ、お前“あほ過ぎ“に入ったのか、底辺にはお似合いだな」
「臆病者がダンジョンに潜るの? あいつ死んだわね」
そう言うとトオルとミツエの二人はお腹を抱えて大笑いをしてエリオ達を馬鹿にした。
「なんなんっすかあんた達は!」
「山下、いい加減にしなさいよ!」
「そうですわ、エリオ様を侮辱することは、わたくしが許しませんわ」
アカツキの三人はエリオを馬鹿にするトオル達に抗議の声をあげた。
昨日までエリオを助ける者などいなかった。それが今日は三人も助けてくる、それは臆病者のエリオの心にも変化を及ぼした。
「山下くん短剣、返してよ……」
それは弱々しい言葉だったが、されるがままだったエリオが、この学園に来て初めて見せた反骨心だった。
その反抗にトオルは苛立ちを覚えた。いつもマコトの影に隠れてエリオを虐めていた彼だが、苛立ったこととミツエにいい格好を見せたいと言う欲望がトオルに悪巧みをさせた。
「エリオ、こんなゴミがそんなに大事でやんすか?」
トオルは汚い物でも掴むように親指と人差し指で短剣を掴みエリオの顔の前で揺らした。
エリオはそれを取ろうとするがトオルはヒョイっと後ろに隠す。戦士であるトオルの動きに無職の彼がついていけるわけがなく、当然その手は空を切った。
「ちょっと返しなさいよ!」
トオルに突っかかるミリアをミツエが近づくんじゃないわよと彼女の肩を強く押した。
ミツエは探検家の職業を持っており学年第3位のチーム“エウロパ“のリーダーでもある。
そんな彼女が押したのだ、レベル1のミリアでは耐えられずにそのまま吹き飛ばされた。
当然、そんなことをされればユウコが黙っている訳が無く、すぐにミリアを守るように動き彼女を抱きしめ助けた。
「あんた、何するっすか!」
ユウコはミリアに酷いことをしたミツエを睨み付ける。ミツエはそんな言葉など、どこ吹く風と言わんばかりに鼻を鳴らす。
「小等部の子供が生意気言うからよ、先輩として礼儀を教えただけでしょ」
そのミツエの言葉にトオルが大笑いをした。
「ミツエ、そいつは赤の閃光、ハーフローブの有栖川・ミリアさんでやんすよ」
「ええ、こんなチビが私たちの先輩なの?」
学年で有名な留年生であるミリアも、男にしか興味がないミツエにはただの小学生に見えたのだ。
「でも、先輩がなんで小等部の服着てるの?」
「そいつの家は没落貴族だから金がないでやんすよ。金がないからローブも小等部のハーフローブなんでやんすよ」
中等部から魔法使いは通常のローブを着る赤い閃光、それはミリアにつけられた侮蔑の言葉である。彼女をからかうときに使われるのだ。
『あいつは赤いから3倍の速さで魔法を使うぜ』
『あいつは魔法使いのくせに、古の武将ヨシツネのように
などとミリアを揶揄するのだ。
もちろん魔法使いのミリアに、そんな力は無いが照明だと思っていた魔法を補うために彼女は普段から棍術の鍛錬をしていたことも、その揶揄の原因になっていた。
「それで、留年貧乏先輩が何の用よ、私たちは没落貴族が喋れるような人間じゃないのよ?」
ダーティー・ブロスやエウロペのメンバーは金持ちや芸術家など著名人の子弟で構成されている。
上流階級国民でありカースト上位の彼らは学校で我が物顔なのである。
「エリオの短剣を返しなさいと言っているの」
「ミリア
「それが何? エリオを虐めるなら、あたしは何度でもあなた達と戦うわよ」
「ヘェ~言うでやんすね。だけどやんすね、俺たちダーティー・ブロスに逆らう奴をただで済ます訳にはいかネェんだよ!」
トオルは
ユウコはその破片からミリアを守るといつの間にかヘッドセットのバイザーを下げ大剣を持ち戦闘態勢に入っていた。
「あらら、川上、剣抜いちゃったでやんすね、これはディメンションバトルで決着つけないとダメでやんすね」
このディメンションバトルは円形の転移ゲートを使い別次元に武闘台を作りだす。
この武闘台は仮想ダンジョンと同じシステムで戦闘ダメージを受けても死ぬことはない。
『ディメンションバトル受付ました。システムを起動します』
部屋に備え付けのスピーカーから合成音声のマシンボイスでバトルの受諾がなされる。部屋にある監視カメラが自動で確認して武闘台を設置する。
部屋に振動が響き渡る。
ガラス張りの部屋の外を見ると三機の転移ゲートのリングが横倒しになっていく。
その横倒しになったリングの上部に武闘台が現れると
レベルアップも大事だが、ディメンションバトルは
生徒達が足踏みや武具を叩き合わせ場を盛り上げる。
ガラス張りの部屋は外から丸見えで、お互いに剣を向き合っている二人に生徒達は呼ぶように叫んだ。
「やっちまったでやんすね川上ぃ~。
「
ユウコは意味不明な単語を出されて頭にクエスチョンマークを大量に作る。彼女は知らない単語を出されると頭が混乱するのだ。
「決闘でやんすよ、俺とお前のな」
「ねぇトオル、こいつら雑魚相手に一対一で戦ったら逆に笑い者よ、全員、まとめてこらしめちゃいなよ」
ミツエがトオルに寄りかかるとしなを作り
「そうでやんすね、なら四体一の変則バトルで、お前らに恥をかかせてやるでやんすよ」
その言葉に、彼らが出てくるのを待っていた
一対一なら確実にトオルが勝つ、ダンジョン探索を延長されてまで見る試合がそんな面白く無い試合では見る甲斐がない。
四対一なら少しは面白くなるだろうと
早く出て来いと、うるさいくらいに足踏みや武具を叩く音が響き渡る。
ミリアは困惑した、金に任せて最高の武具を装着したレベル15の山下・トオルとレベル1で貧乏装備のミリア達では四体一でも勝敗は明らかだった。
誰も助けてくれない現状に、まるでリンチを受けているような気分だった。
「エリオは毎日こんな気分だったのね……」
「逃げることはできないでやんすよ」
嫌な笑いを浮かべて長剣を自分に向けるトオルにミリアは怒りを覚えた、こんな下衆な奴に負けたくないと。不条理な力に負けたくないと。
「いいわ、やってやるわよ。あなたを倒すわ山下・トオル!」
その言葉に観客は割れんばかりの歓声をあげるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます